突然、セミナーや講演を頼まれた!さあどうする?

写真はセミナー講演中の下澤さん

あなたの名前は鈴木(仮名)さん。金曜日の夕方、突然人事部長に呼ばれた。「お前さ、講師やってみない?日時は来週の月曜日なんだけどね。急にゴルフ入っちゃってさ。よろしく頼む!」。あなたが勤務しているのは、スタートアップのベンチャー。創業期のメンバーだったため、社内の人事制度作成から、人材採用、評価、配置、転換あらゆる人事マターの業務を担当していた。もはや、断ることは許されない。

あなたは、急いで東京駅にある大型書店に駆け込んだ。そこで、有名外資系コンサルでパートナーまで登りつめた著者の本を何冊か購入した。「講師は先生だから受講生になめられてはいけない」「批判的な意見がでたら以心伝心しないように必ずスポイルさせる」。そしてあなたは思った。「なんだ、研修講師なんて余裕だな。受講生を上から目線で潰せばいいんだ」と理解した。果たして研修の結果はどうだったのか。

今回は、『身の丈セミナー講師のはじめかた』(サンクチュアリ出版)を紹介したい。著者は、ファイナンシャルプランナーの下澤純子さん。これからセミナーで話したい、集客したい、その先のビジネスに繋げたい人の入門書になる。

やばい、参加者との温度差を感じる

これからセミナーを始めようとした瞬間、どうも参加者との温度差を感じる。参加者が緊張してしまっている場合もあれば、参加者がいやいや参加している場合もある。

「セミナー講師が緊張していると、どこか重々しい雰囲気でセミナーが始まってしまうことがあるのですが、このようなセミナーは満足度も低いままに終わってしまいます。『セミナー開始の5分が苦手』という人も多いのですが、セミナーが盛り上がるか否かは、最初の5分で相手の心をつかめるかで決まるとも言われています。」(下澤さん)

「そのため、参加者にリラックスした気持ちでセミナーを受けてもらえるように、つぎのような工夫を取り入れましょう。これをアイスブレイクといいます。」(同)

<アイスブレイクを取り入れる>
アイスブレイクとは氷のように不安や緊張で固くなってしまっている雰囲気を壊すという意味で、セミナーの冒頭に行われます。アイスブレイクはあなたと参加者、両方の緊張を緩和するために是非取り入れてもらいたい方法で、参加者に自己紹介をしてもらったり、簡単なゲームを取り入れることが多いです。

お金に関するセミナーを開催する人にこのアイスブレイクはおすすめです。自分のお財布の中身を見ないでいくら入っているかを当てるゲームです。メモに予想した金額を書いてもらい、その横に実際に確認した金額を書いてもらうのです。たまにぴったり当たる人がいますが、大外ししている人がいると盛り上がります。

そして、自分の財布の中身に関心を持つことの大切さを説明します。「財布の中の整理をしましょう」「家計簿をつける予定がないのにレシートが入っていれば捨てましょう」「500円玉が2つある人は1つ貯金箱に入れましょう」といった具合に展開すれば、緊張感も解けてリラックスした状態でセミナーを進めていくことができます。

次は「あるあるネタ」で共感を呼ぶ方法になる。参加者の「あるあるネタ」は効果的だ。下澤さんは保険会社向けの研修では、次のように聞くようにしているそうだ。

「保険業界は、1年以内の離職率が80%以上とも言われています。そのため、周りの人や身内が保険営業を経験しているといったケースも当然多く、保険は親戚や友人から加入しているから、あなたからは加入できないという断りが多いのが事実です。つまり、保険営業の方からすれば『親戚や友人が保険屋さんだから、そういう断りに出くわしたことはありませんか?』という質問は『ある、ある』なわけです。」(下澤さん)

「担当者さん、みなさんよりも先に辞めますから。これだけ出入りの激しい業界です。きっと、その担当者さんの方が先に辞めるんです!その担当者さんが辞めたとき、待ってました!とあなたがガツガツ行ったらドン引きされますよね?だから、今のうちからコツコツ訪問するんです。ついでの5分計画です!」(同)

鈴木さん(仮名)の話は実話

冒頭の、鈴木さんの話は実話である。講師は筆者。はじめて講師をした際の出来事になる。予想に反して盛況だった。受講生は学生だったが、当社には関心が無い学生が大半だった。その年は売り手市場で、企業側が学生に迎合するのがあたり前だったが、筆者にそんな余裕など無い。本来は迎合しなければいけない「大切な学生諸氏」にビシビシやったものだから逆に話題になった。いま風に言えば「本気論・本音論」というやつか(苦笑)

しかし、これが、一般の企業向けセミナーだったらアウトだった。当時の社長は反響の大きさに喜んで「お前やるじゃん。来月から研修も担当ヨロシク!」となったが、できれば、このような苦労はしないほうがいい。なお、本書の特徴は「身の丈」である。突然、セミナーや講演を頼まれたときに読む理想的な1冊といえよう。

尾藤克之
コラムニスト