北朝鮮で逮捕された日本人
北朝鮮へ8月13日帰国予定で入国していた日本人男性が、当局にスパイ容疑で拘束された。
拘束されたのは自称・映像クリエイターの39歳男性ということであるが、容疑は北朝鮮西部の南浦で軍事施設を撮影したためだという。
現在、北朝鮮と拉致問題を巡り、水面下で激しい交渉がなされているが、日本人の拘束はこれらの交渉に影響を与える可能性がある。
昨今、中国でも在中邦人がスパイ容疑で逮捕される事件が8件も起きている。彼らは何れも日本の公安調査庁(以下、公安)関係者に協力して軍事施設の撮影等をおこなったと言われている。
中国、そして今回の北朝鮮による拘束を見て、1999年に日経新聞記者(当時)杉嶋岑氏が北朝鮮にスパイ容疑で拘束された、日経新聞記者北朝鮮拘束事件を思い出す。
帰国後、杉嶋氏が書いた『北朝鮮抑留記 わが闘争二年二ヶ月』(草思社)によれば、杉嶋氏が日本の公安調査庁(以下、公安)に協力して提供した資料がことごとく北朝鮮当局の手に渡っていたことを指摘している。つまり公安に北朝鮮の二重スパイがいる可能性を示唆しているのだ。
今回逮捕された映像クリエイターがどのような理由で、軍事施設を撮影したのか。まだ不明確な部分もあるが、このような問題に政府としてどのように対応するかで、今後の我が国への情報提供に関する動きが活発化するのか、それとも低調となるのか、大きな分岐点に差し掛かっていると言えるだろう。
中国人留学生はスパイなのか
奇しくもトランプ米大統領が今年8月7日の夕食会で、国名は伏せたものの中国人留学生はスパイのようだと発言したと批判が上がっていると米国の政治ニュースサイト「ポリティコ(Politico)」が報じた。
これを受け国務省のナウアート報道官は、中国人学生が技術を自国に移転させることを懸念していると述べたが、中国共産党員が出国する際には、国家安全部から定期的に訪問国で起きた事項についてレポートを提出し、報告することを義務付けられる。
私は実際にそのレポートについて中国共産党員から詳しく聞いたことがある。この仕組みは中国共産党員であれば就業者だけでなく、学生も含めて提出させており、優秀な大学や一流企業であるほど経済的にも裕福である中国人留学生の比率は高くなる。
レポートを書く中国共産党員に、スパイをしているという明確な意図はなくても、些細な情報も集合体となることで、新事実として明かされていくのである。
もちろんこれはアメリカだけでなく、我が国も同様である。
北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射実験に京都大学の現職准教授が関わったことが明らかになったが、日本政府は北朝鮮への再入国禁止処置をとっただけであり、大学はこれを処罰しようとしない。
スパイ防止法を制定し自分の国の情報を守ろうとすることが、我が国の安全と人権を守ることになるのである。
拳骨 拓史(げんこつ・たくふみ)
評論家。漢学、東洋思想、東洋史の研究を展開している。中央乃木会理事、加藤友三郎元帥研究会副会長。著書に『兵学思想入門』(ちくま新書)、『日中韓2000年の真実』(扶桑社)等、多数。
編集部からのおことわり:アゴラではペンネームでの投稿は原則受け付けておりませんが(投稿規定)、拳骨氏についてはすでに10年以上に渡り、著作活動をしている実績や経験、題材の話題性等を総合的に考慮して特別に掲載しました。