ブカレストで大規模な反政府デモ

長谷川 良

ルーマニア各地で10日、11日の両日、社会民主党(PSD)現政権の退陣、早期総選挙の実施などを要求する大規模なデモ集会が行われた。首都ブカレストの政府建物前で開催された10日夜のデモ集会では、警察部隊が催涙ガスや放水車でデモ参加者を強制的に追い払い、その際、452人の負傷者が出た模様。65人は重傷で病院に運ばれたという。負傷者の中には11人の警察官も含まれる。デモ主催者によると、10日夜のデモ集会には約11万人が参加。11日にもブカレストで約5万人が集まったが、警察側は前日のように武力行使をせず、静観していたという。

▲EU本部のブリュッセルを訪問したダンチラ首相(左から2番目)=2018年7月10日、ルーマニア政府公式サイトから

▲EU本部のブリュッセルを訪問したダンチラ首相(左から2番目)=2018年7月10日、ルーマニア政府公式サイトから

今回のデモの直接の契機は、政府が7月初めに著名なラウラ・コブシ特別検察官(Laura Kovesi)を解任したことだ。 同特別検察官は国家腐敗防止局(DNA)の責任者で多くの腐敗政治家を拘束してきた経緯がある。

デモ参加者は「マフィア政府は即退陣せよ」「犯罪人を高官に任命するな」「我々が国民だ」と叫び、取り締まる警察隊に対しては「暴力を使うな。盗人を守ることを恥ずかしく思わないか」と叫んだ。デモ参加者はビオリカ・ダンチラ首相とPSDのリヴィウ・ドラグネア党首の退陣を要求、社会民主党政権の腐敗政治を批判した。ルーマニア初の女性首相のダンチラ首相は同党首の“操り人形”と受け取られている。

ドラグネア党首は過去、選挙の不正操作などで前科があって、首相には就任できないが、政府をコントロール下に置いてきた。PSDは公式には社会民主主義を標榜しているが、実際はニコラエ・チャウシェスク独裁政権時代に仕えてきた政治家や閣僚の末裔であり、“腐敗政治家、ビジネスマンの寄せ集め集団だ”ともいわれている。

治安部隊が10日、デモ参加者に対し、催涙ガスを投じ、放水車を動員する一方、棍棒で殴打するなど武力行使。デモ集会を取材中のオーストリア国営放送のカメラマンが負傷したことに対し、西側では「報道の自由」と「言論・結社の自由」を侵害しているとして、ルーマニア政府に対し批判の声が上がっている。

オーストリア国営放送によると、10日夜のデモ集会には英国、イタリア、スペインなどに住む海外居住ルーマニア人が母国の国旗を掲げて集会に多数参加していたのが目撃されたという。デモはブカレストのほか、シビウ市、クルージュ市, ティミショアラ市、ブラショヴ市, ヤシ市、オラデア市、ガラツィ市、 クラヨーヴァ市、コンスタンツァ市 でも数千人が集まったという。

ルーマニアで2016年12月11日に実施された総選挙に圧勝した与党中道左派「社会民主党」(PSD)が昨年1月15日、中道右派「自由民主主義同盟」(ALDE)と連立政権を発足させた。PSDのドラグネア党首はソリン・グリンデアヌ氏を首相にしたが、同首相は17年6月21日、自党のPSDとALDEが提出した不信任案が承認され、辞任に追い込まれた。そこでトゥドゼ氏(PSD)が後継者となったが、ドラグネア党首とのPSD内の権力闘争に巻き込まれ、安倍晋三首相が今年1月16日、ブカレストを公式訪問する直前、突然辞任を表明した。トゥドゼ首相の辞任後、ドラグネア党首は側近のミハイ・ヴィオレル・フィフォル国防相を暫定首相に任命したが、同月29日、ダンチラ首相が就任して現在に至っている。

なお、クラウス・ヨハニス大統領(国民自由党=PNL党首)は10日夜、フェイスブックを通じて、カルメン・ダニエラ・ダン内相(PSD)にデモ集会参加者への武力行使を批判し、「警察側の詳細な説明」を要求している。

ルーマニア人口は約2000万人で約400万人が海外で働き、母国の家族に送金している。ルーマニアは欧州連合(EU)の中でも最貧国だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年8月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。