次に紹介する私の一文は、10年前の私のブログである。
麻生財務大臣が、サマータイム導入に積極的らしい、というニュースが入ってきたので、麻生さんに影響される自民党の国会議員が現れないようにと思って、10年前(2008年6月10日)の記事を引っ張り出してきた。
時刻の切り替えよりも頭の切り替えを/サマータイム法案の新展開
昨日、自民党の緊急政調全体会議が開催された。
超党派のサマータイム推進議員連盟が作成したサマータイム法案について、自民党としての党内手続きを進めるための大事な会議であった。
通常国会の会期末に、担当部会での審議を経ないでいきなり政調全体会議を開催するというのは、異例のことである。
特に異論がなければ全体会議で了承したものとして、与野党の協議のテーブルに載せ、この国会で全会一致で成立させよう、というものである。
地球環境問題対策推進本部・環境部会の合同会議でサマータイム推進議員連盟の会長代行の中曽根弘文参議院議員から説明を受けた段階では、私もその趣旨に双手を上げて賛成、というところだった。
しかし、たまたま私のところに届けられていた一通のペーパーが私の考えを変えさせた。
これは、もっと慎重に検討しなければならない。
もっと丁寧に、少なくとも専門家が指摘するような懸念がなくなるまで、議論を尽くす必要がある。
私のところに何通かサマータイム法案に対しての反対のメールが送られてきていた。
睡眠学会というところからは、大部の反対意見書も送付されてきている。
まだ国民の理解が得られていないのに、拙速に法案を了承すべきではない。
少なくとも、時刻の変更に伴って発生が予想されるといわれるコンピュータの誤作動問題に対してどう技術的に解決していくのか、そのためのコストはどの位かかるのか、等について明らかにする必要がある。
そう、思うに至ったのである。
そして、政調全体会議の冒頭でそのように発言させていただいた。
幸い私と同様の懸念を示し、慎重な検討を求める意見が相次いだので、この問題は政調会長預かり、ということになった。
幹部が勢ぞろいする中で一気に法案要綱の承認になりそうだったが、これで流れが変わった。
実に際どい攻防であった。
私の考えを変えさせたのは、民主党の篠原孝議員の手紙だった。
以下、その骨子を紹介する。
なお、下記の文章は篠原議員の文章なので、そのことを是非念頭において読んでいただきたい。
サマータイムは「時刻の切り替え」ではなく「頭の切り替え」で
1. サマータイム導入による省エネ効果の必要はよくわかります。
2. しかし、それは時計の時刻をずらすのではなく、始業時間を早めたり、遅らせたりすればたります。
例えば、私の故郷の長野県では、学校は、夏は8時に始まり、冬は9時始まりという工夫をしていました。
すべて我々が自らの時間を調整すれば良いのです。
3. 年2回の時刻の変更は、色々な面で混乱を生じ、不便です。そんな面倒なことをしなくても、サマータイム導入の目的は、夏に始業時間を早め、就業時間も早めることで達成できるのです。
4. 我々政治家は、国民が望んでおらず、大して役に立つわけでもない「おせっかい政治」は慎むべきです。
5. 法案は、「時刻の切り替え」ではなく「頭の切り替え」で、夏に始業時間・終業時間を早めることに修正すべきではないでしょうか。
2008年6月1日 民主党衆議院議員 篠原 孝
サマータイムは時間をいじらず、始まる時間を早めれば足りる 08.6.1 篠原 孝 記
超党派サマータイム議連
洞爺湖サミットを控え、地球環境問題についての議論がじわじわと進んでいます。エコロジストの端くれとしての私には大歓迎すべきことです。
そのような中で5月29日夕方5時30分より超党派のサマータイム制度推進議員連盟総会が開かれました。
そうそうたるメンバーの皆さんがひな壇に並びました。
私はお金がないのであまり議員連盟には入らないことにしていますが、ふと見ると新たに入る議連は会費がいらないと書いてあり、気になったので出席してみました。
経団連や連合の代表の方、もちろん各政党の代表の方、こぞって気勢をあげ、サマータイム制度の導入について熱弁をふるっておられました。
そして法案の提出が決まりました。
私は省エネルギーをしていくべきという点では全くその通りだと思います。
Co2の排出削減、ワークライフバランスの実現、明るい夕方を活用しプライベートな活動を充実させること等いずれも大賛成です。
はずかしながらただ一人手を上げて発言させてもらいました。
私の言わんとしたことは下記の通りです。
時刻の切り替えより頭の切り替え
省エネルギーについては大賛成。
福山哲郎さんが先ほど「絶対反対だと同僚議員から電話があったと、挨拶でおっしゃいましたが、それを賛成に回すイイ方法があります。
時刻の切り替えというのがありますけども、頭を切り換えていただいて、時計を直さずに、始まる時間を早めたら良いのではないでしょうか。それで足ります。
長野の知恵
私のふるさと、長野県では、夏と冬、学校の始まる時間は違っていました。
夏は8時、冬は9時です。
その地方、季節にあわせてそういった知恵を働かせれば良いのではないでしょうか。
夏休みは8月1日からお盆の8月16日までと決まっていました。2週間ちょっとです。
その代わり、大雪が降っている間、寒中休みがありました。
真夏には農家は朝4時から働き、「めしめ(メシ前)仕事」と称しています。
しかし、昼食後、3時くらいまで昼寝をします。
そして日差しがきつくなくなった頃、農作業に出かけ、夕方になるまでずっと仕事をします。
このようにして、それぞれの季節に合わせて時間を変えて仕事をすれば良いのです。
時計をわざわざ直す必要はないのです。
中曽根弘文さんが、サマータイムに変えたりするのに必要な予算は国が面倒をみるとおっしゃっていましたが、夏に始まる時間と終わる時間を早くすることにはお金がほとんどかかりません。
広中和歌子さんは、20年近くサマータイムの国に住んでいたが、全然不便はなかったとおっしゃいましたが、それ以上に、仕事や学校の始まる時間を早めるのは何の不便もありません。
日本の時計メーカーはすぐ、時刻が動的に直る仕組みを内蔵させるといいますが、それも必要ないのです。
理解されたか不明
マスコミ界から木元教子さんが来られ、他の意見もじっくり聞いて実現して欲しいと正論を説かれたので、そそのかされて一人意見を言いました。
ひな壇以外の発言は私一人で、木になりましたが、皆さんポカーンと聞いておられまして、「その通りだ」と言う人が数人おられたようです。
その一人が渡辺秀央さんで、隣の新潟県で同じような経験をされているからだとわかりました。
2人の元同期議員の檄
私がわざわざ嫌われる発言をする理由があります。
2003年11月初当選の同期で今落選中の本多平直さん、松崎哲久さんが、前回、サマータイム法案がかかりそうになった時に私に声をかけてきました。
本多さんがサマータイム導入のアンケート調査の私の書き込みを読んで、同好の士として声をかけてきたのです。
この2人から「落選中なので、自分たちの分まで頑張ってくれ。もし、このままサマータイム法案が通ったら篠原さんの責任」と脅かされているからです。
ルールを守る日本国民
15年ほど前、パリに赴任した折、フランス政府の高官の優秀さをほめました。「あなた方は優秀でいろいろなシステムを考えても、フランス国民はなかなか言うことを聞いてくれなくて大変ですね。
その点日本は官僚が前例踏襲ばかりでダメだけど、国民が素直で従ってくれるから楽だ。
だから、フランスの立派な官僚と日本の国民が結託したら世界一立派な国になる」。
そうするとフランスの役人は大喜びしましたが、あまり喜ぶので皮肉・嫌みを付け加えました。
「だけど、そんな国は堅苦しくて住みにくいけどね。」
ドッと笑いが出て話が終わりました。
日本人はどの国民よりもルールは守ります。
フランスでは、時刻を切り替えなければサマータイムは実現出来ませんが、日本では、素直で立派な国民故に別の手法により目的が達成されます。
この規制緩和の時代に国民に時刻の切り替えを押しつけるのは無粋です。
日本方式を世界に広める
サマータイムには世界中の国民が不便をかこっているはずです。時計をいちいち変えたりすると言うのは不便なはずです。
それよりも日本人の知恵、すなわち四季の変化に応じて生活スタイルを変える日本の仕組みの方がずっと良いはずです。
もし日本で季節を区切って、この日から1時間始まるのを先にし、終わる時間も一時間繰り上げましょうということをきれいに実施できたら、世界の国々は日本のやり方を学んで、日本方式に変わるだろうと思います。
現に国会でも6月1日からノーネクタイとするというルールが定着しています。
国の機関、学校、地方公共団体、銀行、大企業等が率先してやれば、すぐに広まっていきます。
簡単なことなのです。
私は、本多さんと松崎さんのためにもペーパーを作って、全議員にサマータイムの考え方の全面支持、ただし開始時間や終了時間を1時間早める修正案の全面支持を訴えていくつもりです。
サマータイム法案要綱(篠原案)
第一 目的
この法律は、一年のうちの特定の期間における始業時刻等の繰上げをを推進することにより、昼間の時間の有効活用を促進し、もってエネルギーの消費の節減及びこれによる地球環境の保全に寄与するとともに、地域社会の安全の向上及びゆとりと豊かさを実感出来る社会の実現に資することを目的とすること。第二 始業時刻等の繰上げ
3月の最後の日曜日から10月の最後の日曜日までの間は、始業及び終業の時刻をそれぞれ一時間繰り上げるよう努めるものとすること。第三 国民への周知等
一 政府は、教育活動、広報活動等を通じて、この法律の趣旨及び内容について国民に周知を図り、その理解と協力を得るとともに、昼間の時間の有効活用によるエネルギーの消費の削減とゆとりのある生活の実現に関し、国民の意識を高揚するよう努めるものとすること。二 政府は、この法律の趣旨を損なうような労働時間の増加等の辞退が生ずることのないよう十分に配慮するものとすること。
三 政府は、昼間の時間の有効活用に資するため、スポーツ、レクリエーション、教養文化活動、ボランティア活動等に関する諸施策の充実について配慮するものとすること。
第四 円滑な実施に要する経費
政府は、この法律の円滑な実施に要する経費について、これを予算に計上する等必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。第五 施行期日等
一 この法律は、平成22年1月1日から施行すること。ただし、第三及び第四は、交付の日から施行すること。二 政府は、この法律の施行後三年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を行い、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすること。
長々と引用したが、時刻の切り替えよりも頭の切り替えを、という訴えがグッときた。
頭の切り替えで対処できるのだったら、その方が遥かにいい。
議連の提案と篠原提案を並べて検討してみよう。
もう一ひねりすればもっといい案が出せるかも知れない。
そう思わせるような、大事な手紙だった。
沢山の書類に埋もれており、もしこの手紙を読まなかったら、私が昨日の緊急政調全体会議に出席したか、どうか。
ほんの些細なことで流れが変わることがある、という、一つの実例である。
編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2018年8月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。