「核実験に反対する国際デー」の現実

ウィーンに事務局を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)から久しぶりにイベントのお知らせが届いた。「核実験に反対する国際デー」(International Day against Nuclear Tests)の29日、ウィーン国連で国際社会に向かって核実験廃止を訴える行事が行われるという。同時に、核実験禁止を促進するため、児童たちの核実験禁止に関連した絵画展示会や旧ソ連時代に456回の核実験が行われたカザフスタンのセミパラチンスク(Semipalatinsk)の核実験場の状況を取った写真展が開かれる予定だ。

▲原爆投下後の広島市の状況(米政府保管の写真)

世界には9カ国の核保有国が存在する。米英仏露中の国連常任安保理事国5カ国とイスラエル、インド、パキスタン、それにニュー・カマー(新参者)の北朝鮮だ。北朝鮮の場合、正式には核保有国を認知されていないが、同国は過去、6回の核実験を実施した。潜在的に核保有国となりそうな国も少なくない。

ジョージ・W・ブッシュ大統領時代の米国務長官だったコリン・パウエル氏は、「使用できない武器をいくら保有していても意味がない」と述べ、大量破壊兵器の核兵器を「もはや価値のない武器」と言い切ったが、その「もはや価値のない武器」を手に入れるために依然、かなりの国が密かにその製造を目指し、ノウハウを入手するために躍起となっている。冷戦終焉直後、核兵器全廃の時が到来すると考えた人々にとって、落胆せざるを得ない現実だ。

問題は、核保有国の核軍縮は停滞しているばかりか、核兵器の小型化、近代化が加速されてきていることだ。核保有国が非保有国に向かって核兵器廃絶を叫んだとしても、その信頼性が問われることになる。例えば、米国は2017年から2026年の間で4000億ドルを核兵器の近代化、維持のために投入する予定だ。

米国でトランプ政権が誕生して以来、“大国ロシア”の復興を夢見るロシア、世界の覇権を目指す中国共産党政権と米国との関係が険悪化してきた。第2の冷戦時代と呼ばれるほどだ。

イラン核合意から離脱を宣言し、北の非核化を実現するために米朝首脳会談を開催したトランプ氏は対イラン、対北への圧力を強化する一方、中国とロシアへの牽制のために巨額の軍事予算を投入してきた。トランプ大統領は今月13日、今年10月からの来年会計年度の国防権限法案に署名した。国防予算の総額は約7170億ドルだ。

スウェーデンの「ストックホルム国際平和研究所」(SIPRI)によると、2016年の世界の核弾頭総数は1万4935発だった。その93%以上は米国とロシアの両国が保有している。英国は215発、フランス300発、中国270発、インド最大130発、パキスタン140発、イスラエル80発、北朝鮮は最大20発の核弾頭を有しているとみられている。

CTBTは1996年9月に国連総会で採択され、署名開始されて今年で22年目を迎えた。8月現在、署名国183カ国、批准国166カ国だが、条約発効に批准が不可欠な核開発能力保有国44カ国中8カ国が批准を終えていない。米国、中国、イスラエル、イラン、エジプトの5カ国は署名済みだが、未批准。インド、パキスタン、北朝鮮の3国は未署名で未批准だ。

興味深い事実は、トランプ政権の発足後、CTBT条約に署名、批准した国は出ていないことだ。ミャンマーが2016年9月21日に批准して以来、どの国も署名、批准していない。すなわち、過去2年間、CTBT条約は発効に向かって全く前進がなかったわけだ。国連総会で毎年、日本主導の核廃絶決議案が賛成多数で採択されてきたが、世界の核軍縮の現状はここにきて厳しさを増してきているといえるだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年8月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。