ベンツが森ビルを利用し脱法的に港区を占拠

酒井 直樹

私は、この2年の間、ブログを通じて、グローバル経済の終焉とシェア経済への移行を背景として、電力・モビリティのIoT化が世界の産業構造をガラッと変える、その激変が最初に起きるのは中国でも欧米でもなく日本市場だと再三申し上げてきた。その中心的役割を果たすのがブロックチェーンだとも申し上げてきた。

今週月曜日8月27日の電気新聞は、環境省、ブロックチェーンを活用した環境価値取引を推進と伝えた。

環境省は2019年度概算要求で、ブロックチェーン技術を活用した環境価値取引システムの構築に向けた予算を増額する方針だ。「低炭素型の行動変容を促す情報発信による家庭等の自発的対策推進事業」として、18年度当初予算比10億円増となる40億円を要求する見通し。増額分の大半はブロックチェーン関連事業になるとみられる。環境省は、これまで二酸化炭素(CO2)削減価値の評価が難しかった再生可能エネルギー発電の自家消費に着目。その削減価値を創出し、低コストで取引できるモデルの構築を目指している。

この記事の中で僕が起こしたささやかなベンチャー企業、弊社株式会社電力シェアリングのブロックチェーンを使って電力とモビリティを繋ぐデモの環境省委託事業の業績が僕の名前とともに大きく記載されている。来年度予算概算要求開始に際して、環境省の省をあげての本気度を示す打ち上げ花火なのだろう。確かに僕の名前と弊社のソリューションを「ダシ」にしてもらっても差し支えない。むしろ有難い。ただ、できるなら記事掲載前に一言僕に教えて頂きたかった。

この記事のメッセージの相手はもちろん財務省主計局担当主計官と経済産業省であろう。あるいは未来投資戦略 2018―「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革―を閣議決定した首相官邸かもしれない。なぜなら、今年の6月15日に発出された戦略の実施項目の一つに、弊社が6月30日に実行し、環境省公式ツイッターで発信(主語が弊社ではなく環境省になっていて環境省が我々にしっかりご対応いただければそれは特に異論はないが)、した内容が書かれている。つまり、15日間で環境省はその計画を実践したわけだ。

読者諸兄におかれては、ブロックチェーンそのものに対する様々なご意見や、再エネ価値へのブロックチェーンの適用によるビジネスモデルが本当に作れるかは、既得権益者も含めて各者各様に、それは関係省庁も含めそれぞれのお立場やご意見があるだろう。

だけれども、それが有効か無効化を見極める大規模な実験をしてはいけない理由はないと思うがいかがだろうか。その有用性を確かめるだけだ。類似事業で先行するシンガポールのスタートアップはマーケットで40億円のバリュエーションがついている。この分野で先行するドイツ・中国・イスラエル・米国・英国との大競争に勝ち残れない。是非この予算が通って欲しいと一国民として切に願う。誰かじゃないけど、二番じゃダメなのだ。

港区をUberモデルで脱法的に乗っ取ったメルセデスベンツ

さて、本題に移る。

こうしたブロックチェーンの活用、あるいはグーグルやウーバー・Air B&Bと言った創造的破壊をもたらすビジネスが大ブレークするための一番大切な秘訣はいったい何なのだろうか?

それは、圧倒的な技術やソリューションだろうか?

あるいは、ソニーのウオークマンがアップルiPhoneに負けたように、「良いものを作れば売れるはずだ」というものづくり思考、供給側の論理に固執しないで、顧客視点でマーケット・サービス・デザイン思考で考えることだろうか?

はたまた、JR東日本のSuicaで採用したソニーの技術Felicaが非接触認証ビジネスで世界標準を取れなかったことを教訓とした、世界市場に通用する価格と質のバランスが取れたビジネスモデルの精緻化だろうか?

もちろんこの三つは極めて重要な成功ファクターだ。ただし、それら3つは必要条件であって、十分条件でないと僕は思う。それだけでブレークはしないのだ。実は大成功したウーバーやグーグルにはある共通点がある。

それは、

サービス開始時にはそれらの事業は法律違反、あるいは明確に違法ではないが、グレーゾーンだったという事だ。

Uberは白タクだ。AirB&Bは旅館業法違反だ。真面目で純粋な順法精神に溢れる日本人、あるいはガバナンス・企業倫理にビクビクしている日本の大企業のトップはそうしたグレーゾーンに踏み込むのがとっても苦手だ。だけどそこを乗り越えないと実証実験ばかり繰り返しても市場を全部取られてしまう。韓国のLINEに日本が席巻されてデータが彼の国に掌握されているのが好例だ。つまり、僕の申し上げたい一番の勝利の秘訣は、

よく言えばインテリジェンス、悪く言えばズル賢さだ。

日本人・日本企業はこれが弱い。真偽のほどは定かではないがこんな噂がある。丸型の自動お掃除ロボットルンバ。実はあれ、もともと今一番いけているとセルフブランディングに傾注する西の方にある一見華麗な再生を果たしたかに見える某総合電機会社の研究開発部門が作ったもので、市場に出す寸前までいったそうだ。

だけれど取締役会で、ある高齢の古参役員からのこんな一声でお蔵入りしたそうだ。「もし人が誰もいないところでお仏壇にロボット掃除機が当たってロウソクの火が落ちて火事になったら誰が責任取るんだ!」きっとその人に悪気はないのだ。善良で真面目な人だったのだ。

話をUberに戻す。米国で始まった、余った車と移動したい人をつないぐUberモデル。アジアでもヨーロッパでも浸透している。僕も2週間前に行ったシンガポールでもカンボジアでも多用していた。もはやタクシー乗り場で待っていてもタクシーには乗れない。皆んなGrabなどのアプリでタクシーや一般車の隔てなく呼び出す。5G、IoTや自動運転化が公共交通のあり方をドラスティックに変えている。

ところが日本ではUberは「白タク」扱い。業法違反だ。国交省は認めない。タクシー業界の頑強な抵抗に会い日本での普及は困難だ。Uberはなぜか日本では大人しい。極めて順法的だ。

ところが、衝撃的なニュースが今月駆け巡った。それは全くと言っていいほどメディアで話題にならない。Uberが大人しくしているその間隙を突いて港区という最も美味しい特異点をUberモデルでずる賢く脱法的に乗っ取った会社がいる。それはメルセデスベンツだ。

8月1日に森ビルは以下のようなプレスリリースをした。大変巧妙なメルセデスベンツの黒船来襲である。メルセデスベンツが共同プレスを打たないのがミソだ。あくまでも主体は、森ビルなのだ。長文であるがあえて全文を載せる。

森ビルホームページより 2018年08月01日
最先端アルゴリズムによる「オンデマンド型シャトルサービス」の実証実験を開始ーヒルズを舞台に世界標準の次世代都市交通サービスを検証

森ビル株式会社は、米国・ニューヨーク市に拠点を置くVia社と連携し、8月1日よりヒルズを舞台に、最先端アルゴリズムによる「オンデマンド型シャトルサービス(HillsVia)」の実証実験を開始します。

当社はこれまでも世界最先端の研究機関や大学、先進的な企業などと連携して様々な共同研究や実証実験を推進してきましたが、今回の実証実験では、Via社独自開発のアルゴリズムを採用することで、交通渋滞や環境負荷など都市交通が抱える課題の解決に寄与すると共に、都市における移動手段の選択肢を増やすことで、より豊かな都市生活の実現を目指します。


(中央)運行車両(7人乗り)、(右)利用者予約画面

本実証実験で採用するVia社のサービスは、都市部に最適化した独自開発のアルゴリズムによって、既存のオンデマンド型シャトルサービスよりも高い輸送効率を実現できることが特長です。複数の乗車希望者をリアルタイムで把握し、最適な配車、最適なピックアップポイント(バーチャルバス停)の指定、最適なルートの選定をし、同方面に向かう複数の乗客の効率的な移動を可能とします。また、同社は、本アルゴリズムをバスやタクシーなどの既存交通機関や民間事業者にも積極的に提供しており、多数の事業者による協働によって、都市交通全体の輸送力底上げを実現します。

Via社のサービスは、既にニューヨーク、シカゴ、ワシントンDC、ロンドン、アムステルダムなど、多くの国際都市で導入されており、すでに約3,500万人が利用しています。これらの先進都市では、Via社を始めとする新たな都市内交通サービスの登場によって、都市内経済活動の活発化や新たな雇用の創出などの効果が確認されています。

なお、メルセデス・ベンツ日本株式会社が本実証実験の趣旨に賛同し、最新の車両を提供。移動時間と移動空間の快適性を向上させることで、「オンデマンド型シャトルサービス」を単なる移動手段ではなく、都市における新たなコミュニケーションの場として提案します。

まずは、森ビル社員約1,300名を実証実験の対象者とし(無償利用)、出勤時、外出時、帰宅時などの利用を通じて様々なデータを取得し、本サービスの有用性と発展性を検証します。

当社は引き続き、ヒルズを舞台に様々な実験や発信を重ね、都市とライフスタイルの未来を模索しながら都市づくりを実践することで、国際都市・東京のさらなる磁力向上に貢献してまいります。

実験概要
■名称:HillsVia(ヒルズ・ヴィア)
■主催:森ビル株式会社
■協力:Via社、メルセデス・ベンツ日本株式会社
■期間:2018年8月1日~2019年7月31日予定
■場所:虎ノ門ヒルズ、六本木ヒルズ他
■運行時間:平日8:00~19:30
■対象:森ビル社員約1,300名他
■車両台数:4台~
■検証項目:
1.都心におけるオンデマンド型シャトルサービスの有効性
2.街の付加価値向上の可能性
3.オフィステナントの企業価値向上への貢献の可能性

これに対して、日本のメディアはほとんど報道していない。Via社とはもともとイスラエルのスタートアップで、メルセデスベンツが買収した。日本企業を刺激したくなかったのだろう。提携先は親会社のメルセデスベンツでなくVia社である。いわば隠れ蓑だ。

記者会見もしたが、あまり大きくメディアには載らなかった。一方、メルセデスベンツはこんなプレスを打った。日経新聞がプレスリリース記事メルセデス・ベンツ日本、森ビルが実施する実証実験「オンデマンド型シャトルサービス」にVクラスを提供

森ビルが実施する実証実験「オンデマンド型シャトルサービス」にVクラスを提供

●メルセデス・ベンツの 7人乗りプレミアム・ミニバンVクラスを 4台提供

メルセデス・ベンツ日本株式会社(以下 MBJ、社長:上野 金太郎、本社:東京都品川区)は、森ビル株式会社(以下 森ビル、社長:辻 慎吾、本社:東京都港区)が8月1日より実施する「オンデマンド型シャトルサービス」の実証実験にViaとともに協力し、メルセデス・ベンツ Vクラスを4台提供いたします。

MBJの親会社であるダイムラー社は、効率的で持続可能なオンデマンドシェアライドの実現を目指してViaに出資を行い、車両開発や、合弁事業を通じた欧州でのカーシェアリングサービスの導入を予定するなどしています。このたびの森ビルとViaによる日本における実証実験についてもその趣旨に賛同し、最適な車両としてメルセデス・ベンツVクラスの提供を行います。今回の取り組みを通じ、より多くのお客様にメルセデス・ベンツの魅力をご体験いただきたいと考えております。

MBJは今後も、全国の正規販売店と一丸となり、皆様に選ばれ、最も愛されるブランドを目指して更に邁進して参ります。

【メルセデス・ベンツVクラス】

最大乗車定員7人が心地よく過ごせる室内空間、多彩にアレンジできる3列シート、高い走行安定性など、様々なシーンで本物のゆとりを体現するメルセデス・ベンツのプレミアム・ミニバン。

唯一と言ってもいい、この「ヤバさ」を載せた、WebMediaがレスポンス社の記事森ビルが都心で相乗り実験…米ヴィア社が運行システムを提供、メルセデスベンツを使ってだ。

森ビルは8月1日、東京都内の虎ノ門ヒルズで記者会見を開き、米ライドシェア大手のヴィア社と共同でミニバンに社員が相乗りして都内を移動する実証実験を開始したと発表した。

この実証実験は「オンデマンド型シャトルサービス(Hills Via)」と名づけられ、ヴィア社が提供する予約・運航システムを利用して行われる。対象は森ビルの社員約1300人で、森ビルが料金を負担して社員が無料で乗れることにしたことによって実験が可能になった。というのも、日本では一般車両での有償の相乗りが原則禁止されているからだ。

走行するエリアは森ビルの施設がある港区が中心で、平日の午前8時~午後7時30分の間利用できる。森ビル社員はヴィア社がつくったアプリをスマートフォンにダウンロードし、現在地と目的地を指定する。すると、独自のアルゴリズムで同じ方向を目指す複数の乗客を把握し、途中で乗客をピックアップしながら最適な走行経路で走って行く。

ただ、森ビルは交通サービスに参入する気はさらさらなく、1年間の実証実験でデータを集めるだけ。そして、そこで得られた知見を既存の交通会社に提供し、豊かな都市づくりに役立てようと考えている。その裏には、住みやすい都市づくりを実現できれば、森ビルの施設の資産価値が上がるということがある。

この突然の衝撃の記者会見で一人だけ、本質をついた質問をしたモータージャーナリストがいた。桃田さんという、世界中を飛び回った業界事情に熟知した方で、先日彼から直接話を聞いた。彼はこう質問したそうだ。「これはUber Shareそのものではないですか。法的に問題はないのですか?」

私もそう思う、これは全く脱法的行為だ。

トリックは「無料」で「実装実験」だから「白タク」の「営業」には当たらないということだ。

森ビルはベンツのずる賢さに気づいてない?

これはちょうどパチンコ屋さんの手法と同じだ。パチンコ屋さんでお金を払って玉をたくさん出した人は景品をもらう。それは景品であってお金ではない。お客さんは景品を持ってパチンコ屋さんと「無関係」のなぜか近くにある「景品交換所」で「景品」を「現金」で買い取ってもらう。景品交換所はその景品をパチンコ屋さんに売る。いわゆる三点方式だ。これは違法性のある賭博行為に当たらない。あえて私はその合法性に論評はしない。

このモデルはそれと同じだ、確かに、乗客である社員は直接はお金は払わない。しかし、森ビルはメルセデスベンツ社にバルクで、お金を払っていると類推する(確証はないので断言はしない)。仮にそれが事実だとして、そのお金でメルセデスベンツは、「無償」で移動サービスを森ビル社員に提供する。無償なので対価は払わないので白タクではない。まさに三点方式だ。とってもインテリジェントでずる賢い。

もう一つの主張は「1年限定の実証実験」ということだ。しかし「実証実験」と「商売」の区別はないだろう。政府が公認でやっていれば別だが、政府が実験と言っているわけではなく、メルセデスベンツという事業者が実証実験と言っているだけだ。

トヨタ自動車が真面目にシリコンバレーで、メルセデスベンツが提唱したCASE「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリング)」「Electric(電動化)」を追っかけてUberと資本提携して日々研鑽に励む一方で、自動でもなく、電気自動車でもなくごくごく普通のメルセデスベンツのガソリン車が港区を走り回っているのだ。「実質的なUberモデル」で。

森ビルさんはこの本質的な危うさ、すなわちメルセデスベンツのずる賢さを知らされていないと僕は確信している。森ビルさんは幹部も社員も極めて純粋に都市づくりに真摯に取り組まれている善良な企業だからだ。ただ利用されているだけだ。なぜそう言えるかというと私は創業家と家族ぐるみでお付き合いをさせているからだ。30年前の僕の結構式の披露宴にも二次会にも森夫妻にご出席賜ったし、今でも時々お目にかからせていただいている。だから、彼らが善良であることは僕が保証する。

もし私がメルセデスベンツだったら、次の一手はこう打つ。森ビルにこう言い寄る。「今は社員だけが利用者だけれど、森ビルの居住者、例えばヒルズクラブの無料特典として、送迎サービスを提供しませんか?」「六本木ヒルズで1万円以上買い物した人に、送迎サービスを提供しませんか?」そして森ビルでの実績をテコに、この三点式モデルを全国で展開する。すると日本の自動車市場はメルセデスベンツで溢れかえることになる。

事実、皆さんが聞いたらびっくりしてのけぞりかえるような日本国民が誰でも知っている森ビルさんとは全く違う業種のある超有名大手企業が、このメルセデスベンツとVia社と組んで関東地方の外のとある場所で、「実証実験」を行うことを検討している事実を僕は認識している。

賢明な日本の政府関係者の皆さん。ぜひこのような脱法的とも取られかねない手法で外車に占拠されて、日本の自動車メーカーのシェアが下がり、タクシー事業も壊滅的被害を受けるリスクをご認識いただき、公平で公正な手段を講じてください。

伏してお願いいたします。