先週の米国国務長官ポンペオ氏の北朝鮮訪問中止発表を受け、核廃棄交渉の停滞が明らかになったと話題になっている。28日には、マティス国防長官は、米朝首脳会談後に「誠意」を示すためとして設けていた朝鮮半島での軍事演習の中止措置を終了すると表明した。
北朝鮮問題は、6月の米朝会談によって危機が克服されたわけではなく、逆にまだ破綻が約束されているわけでもない。
6月の米朝会談後、私も、このブログのみならず、いくつかのの媒体で感想を書いた。トランプ氏特有の要素は評価を分けるだろうが、その最大の成果は、首脳同士の人間関係の要素であった。(参照拙稿:『トランプ大統領が米朝関係に持ち込んだ「人間臭さ」という新しい要素』)
驚くべきことに、現在まだ、トランプ大統領は中国を批判しても金正恩氏を批判するのを避けている。また、北朝鮮側も米国政府高官を批判してもトランプ大統領だけは批判を避けている。今後も、首の皮一枚のようにつながっているこの6月米朝会談の成果が、北朝鮮問題の打開に向けたカギになってくるだろう。
6月米朝会談については、日本では、アメリカが譲歩しすぎているという論評が多かったようだ。これについて、私は、米韓合同軍事演習はいつでも再開できるのであり、北朝鮮問題を交渉していく「プロセス」の一部として米朝会談を見ていくべきだということを書いた。(参照拙稿『アメリカはウルトラマンではない』)
この「プロセス」が、失敗するか、成功するかは、まだわからない。ただし、最初から、非常に困難な状況の中で、交渉の可能性を模索していることだけは間違いない。
数か月以上のスパンで見て、戦争の可能性が減少しているという見立ては、6月にもなかったし、現在もない。
私個人は、8月下旬は欧州にいたため、なおさらそういう印象を抱くのかもしれない。だが、むしろ当事者と言ってもよい日本社会の雰囲気が弛緩しているということはないだろうか。北朝鮮問題は解決されていないのはもちろん、本質的な改善が図られているわけでもない。北朝鮮問題の背景には、米中関係の行方をはじめとする国際政治全体の構造的な問題もあり、そんなに簡単に変化していくはずはないのだ。
日本のメディアや識者の方々が、米朝会談を批判しつつ、しかし同時にニュースバリューは減ったというような態度をとり、しかし後に突然再び危機が訪れたかのような態度をとるのだとしたら、茶番である。
編集部より:このブログは篠田英朗・東京外国語大学教授の公式ブログ『「平和構築」を専門にする国際政治学者』2018年8月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。