NY市の人口は2017年の推計ベースで約862万人と、文句なしに米国が誇るメトロポリスです。そのNY市で、最大のオフィス面積(リース含む)を誇る企業と言えば、JPモルガン・チェース。2008年3月のベア・スターンズで同社を救済すると共に383マディソン・アベニューのビルを吸収し、さらにリーマン・ショック直撃後の同年9月にはワシントン・ミューチュアルも買収するなど、着々とオフィス面積を広げました。
ちなみにJPモルガンが2000年に買収したチェース銀行の本社だった272パークアベニューと、ベア・スターンズが本社を構えた383マディソン・アベニューは、建築設計事務所スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリルが担当。同事務所は、六本木のミッドタウンの他、世界一の高層ビルであるUAEのブルジュ・ハリーファを手掛けたことでも知られます。
話を元に戻して。
オフィス面積ナンバーワンがJPモルガンである通り、NY市と言えばウォール街を頂くだけに金融が主要産業ですよね。NY市の経済を業種別(2017年)で切り取ると、1位は金融・保険・不動産が29.8%を占め、次いで専門サービスが14.0%、3位に政府で10.9%と、金融関連が断トツであることが分かります。米国のGDPを業種別で切り取ると、1位は金融・保険・不動産とはいえ19.8%ですから(2位は専門サービスで12.8%。3位は政府で11.8%)という状況ですから、NY市がいかに金融関連に特化しているかが伺えます。
NYの主要産業は、金融が3割とはさすが。
(作成:My Big Apple NY)
しかし、ここに来て異変が生じています。現状でNY市でのオフィス面積2位は、何と創業たった8年のウィワークなんですよ。
ウィワークと言えば、協働オフィス事業で台頭する企業です。東京でも、森ビルのアークヒルズを皮切りに、銀座や丸の内、渋谷などに8ヵ所、日本全国では横浜、大阪、福岡に各1ヵ所と合計12ヵ所ございます(全て2018年9月4日時点)。
米国で拠点が最多の都市はNY市で、56ヵ所を数えます。サンフランシスコ・ベイエリア(20ヵ所)、ワシントンD.C.(11ヵ所)など、他都市を寄せつけません。ただでさえ展開数が多いNY市であるにも関わらず、ウィワークはさらにコマを進めます。何と、ワールド・トレード・センターの跡地であるワン・ワールド・トレード・センターで20万平方ft(5,621坪)のオフィスを借りようとしているというではありませんか!
ウィワークのオフィス面積はNY市内で2位のところ、JPモルガンとの差はわずか7.4万平方ft(0.21坪)に過ぎません。従って、仮にワン・ワールド・トレード・センターの商談がまとまれば、JPモルガンからNY市ナンバーワンの座を奪取することになります。
NY市のオフィス面積で、現状は以下の通り。
(作成:My Big Apple NY)
ウィワークが快進撃を続ける上で、需要という追い風を受けているのは間違いありません。フリーランサーの市場開拓を支援するFiverrの調査によれば、代替困難な特殊技能職のフリーランサーはNY市が53.3万人と全米15主要都市で1位でした。特殊技能職のみのフリーランサーだけで民間部門の労働人口の13.5%を占めるだけに、いかにNY市でフリーランサーが多いかが伺えますね。
ウィワークの成功が、NY市の繁栄をもたらすのか。インチュイットによれば、米国で2020年にはフリーランサーが約4割を担うというだけに、NY市は新たな働き方を体現する都市となるのでしょう。しかしながら、2017年にNY州の成長率が前年比1.1%増と全米の2.1%増を下回ったように、2013年以降で5年連続で全米以下の成長にとどまるなかで、心許なさは禁じ得ません。
(カバー写真:Dees Chinniah/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年9月5日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。