有名女優の息子さんが覚せい剤で4度目の逮捕をされたことで、今日のワイドショーは一斉に過去の女優さんの謝罪会見と、多額のお小遣いの額を抱き合わせで伝えています。
覚せい剤依存の仲間の中には、大金持ちもいれば、貧困で過酷な状況の人もいますが、大半はごく普通の一般的なご家庭の人達です。それはどんな病気でも同じですよね。
覚せい剤の依存症の人に対して必要なことは、原因探しや人格へのバッシングや説教ではなく、治療に繋げること、その社会的な介入システムを、日本でも充実させて行くことだと思っています。
その辺のことは、アゴラさんに何度も書いてきましたので、是非、過去記事をご一読下さい。
ただ今回の件は、過去3回の事件とは問題が全く違います。
今回の逮捕後に、ご家族そして当事者がどのように行動するかに、今後の回復がかかっていると思います。
まず過去2回の逮捕の時は、女優さん夫妻もまだまだ底つきしておらず、覚せい剤依存を病気とも捉えていなかったですよね。自分たちの育て方が悪かったという発言を繰り返し、女優活動を自粛していました。多分ここまではご本人の「もうやらない!」という言葉を信じたと思うし、ご本人もご家族も「なんとかなる」と思われたことでしょう。
現に、このあとお知り合いの劇団に入団させ、再起を図る!
みたいな道を歩かせ失敗してます。
しかし3度目の逮捕時の記者会見では、「全ては自分たちの教育の失敗」と発言しつつ、「彼も彼も少年ではないので親としてかかわれる限界はあります。心の中では放り出して当然という気持ちもある」とおっしゃっています。
そして特に活動も自粛なさいませんでした。
この発言で私たちは「ご両親は、どこかの支援先に繋がり、依存症者の家族対応を学んだんだな」と直感しました。
そして推測通り、彼は回復施設へと繋がってきたのです。
私たちは、有名人の薬物事件では、ご本人ご家族どちらもその発言で、治療に繋がったか否か?大体のことがわかります。
発言が依存症者とその家族の対応として的を射ているからです。
そして今回4度目の逮捕となりました。
これは、今までの再発とは違う重要な意味を持ちます。
依存症は再発しやすい病気です。
生活環境が変わって、自助グループから離れてしまったり、また「もう大丈夫だろう」と思う心の油断が入りこんで、スリップ(再発)してしまった仲間達は多々います。
そして一度自助グループや回復施設に繋がってきて、回復した経験のある仲間が、スリップした後にもう一度一から出直すことは最初の回復以上に大変です。
自分にはもうプログラムは効かないんじゃないか?やっても無駄じゃないか?
やり直す恥ずかしさや、自分と向き合うしんどさがあいまって、
「あれを1からやるなんてもういやだ……」
と、プロセスをなまじ知っているだけに、回復へのハードルが高くなります。
けれどもそれをやるしかないのです。
今回、ご本人は一度回復施設や自助グループに繋がっているのですから、「回復とは、回復し続けることなのだ」という我々の原理がよく分かっていたはずです。だから私は、「病気になったことは自己責任じゃない。でも一度でも回復したなら回復し続けることは自己責任」だと思っています。
面倒くさくても、仲間のコミュニティから離れないこと、そして今度は同じ問題で困っている人を助け続けること、これを生涯やり続けること、高橋祐也さんはこの3原則にもう一度立ちかえるしかありません。あなたはもうやり方をご存知なのですから、それを選ぶかどうか?あとは自己責任だと思っています。今回の逮捕こそが、祐也さんの底つき体験となることを願っています。
そしてお母様である有名女優さんは、もうやれることはやりました。あなたは立派に回復施設に繋げるという難事業を既に成し遂げ治療への道筋をつけています。今回の息子さんの事件とは何の関係も責任もありません。謝罪会見など必要ありませんし、まして前回同様に活動自粛など絶対にしないで下さい。どうかタフラブ(厳しい愛)を貫いて下さい。
むしろお母様は、これまで通りはつらつと名演技をみせ、テレビ局や映画界は、積極的にこの有名女優さんを起用して欲しいです。それこそが我々依存症者の家族に対する大きなエールになりますので、是非是非お願いします。
当事者が依存症になっても、親は子供を「なんとかしよう」と構うのをやめ自分の人生を生きること、世間にどう思われようと、それが一番回復への早道なのです。そうかその先駆者として、ご自分の天職に邁進して欲しいです。
最後に、マスコミの皆さんにお考えいただきたいのは、38歳の成人した大人に、誰誰の息子と書くのもういい加減やめませんか?
編集部より:この記事は、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2018年9月11日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。