こんにちは、都議会議員(北区選出)のおときた駿です。
議会がスタートするのは19日からですが、昨日は都議会定例会の「告示日」ということで、提出される予定案件が正式に議会に対して公開されました。
今回の目玉は、小池知事が肝いりで進めてきた「LGBT条例」。概要についてはすでに事前説明があったもの、条例の全体像が明らかになるのは今日が初めて。
以下がその条文になります。PDFで恐縮ですが全文がご覧いただけます。
うーむ、これは…。
条文として整えて出されたものを見ると、読めば読むほど懸念が生じてきます。都道府県初となるLGBT条例の意義と趣旨は理解しているものの、現段階では賛成するべきなのかかなり迷っているというのが正直なところです。
私の中でもまだ結論が出ていないことを前提として、以下に懸念点・論点を挙げていきたいと思います。
そもそも「オリンピック憲章にうたわれる人権尊重」を目指すもので良いのか?
本条例案の正式名称は「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」となっています。概要発表の時点では(仮称)となっていました、結局これが正式名称で出てくることになりました。
2020年のオリンピック開催がこの条例案制定の契機であることはわかりますが、それを条例名の冠に掲げるほど全面に押し出すことはどうなのでしょうか?
「人権尊重」というのは今回提起されているLGBTやヘイトスピーチ以外にも、多岐にわたる概念です。
これでは「オリンピック憲章にうたわれている人権尊重以外は関係ないのか?」ということになりかねませんし、勿論のこと2020年東京大会が終わってもこの条例は残り、効力を発揮し続けます。
後述するようにこれは、「オリンピック」という理由でしかまとめられないものをまとめるための苦肉の策であるように思えますが、その弊害は決して小さくないように感じます。
「LGBT」章と「ヘイトスピーチ」章で、内容の粒度(レベル感)があまりに違いすぎる
私がもっとも気になっているのはこの部分。
本条例案は基本的な理念をうたった第一章と、いわゆる「LGBT」に関する第二章、そして「ヘイトスピーチ」に関する第三章に分かれています。
ご一読いただければわかるとおり、第二章は行政機関や事業者、あるいは都民に対して差別解消の努力義務をつけるものです。強制力をもった罰則規定はなく、何より法令に基づいたものではない独自条例となっています。
一方で第三章は、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」という上部法令に基づいた条例であり、さらに公的施設の利用制限を命じることができるなど強制力を持った内容です。
このように、条例としての中身・効力や成り立ちがあまりにも違いすぎるものであり、これらを一つの条例にまとめることには強い違和感を覚えます。
2つを一緒にする建前が「オリンピック」しかなかったために、条例名も含めてこうしたアウトプットになったのだと思いますけど、これは例えて言うなら同じ汁物だからという理由で味噌汁とクリームシチューを一緒に煮込んだくらいの違和感です。
…例え話はいらなかったかも知れませんが、これは本来、それぞれ別の条例として策定するべきものではないでしょうか。
差別禁止の努力義務や、条例遵守を都民個人にまで課すのは適当か?
ここは私自身も、まだ迷いがある部分なのですが…。
まず本条例案の第二章では、LGBTに関して罰則規定はないものの、「不当な差別的取扱いをしてはならない」という差別の『禁止』が盛り込まれました(第四条)。
これは先に私も参加した勉強会で当事者の方々や支援団体が訴えていたことであり、その点からは前進です。一方で「禁止」という表現にまで踏み込むことに関しては慎重な立場を取る当事者の方々がいることもわかりました。
私も最初は諸外国に習って差別「禁止」にまで踏み込むべきだと考え、コミケ演説会でもそのように話しましたが、それは一歩間違えると容易に「表現の自由」を犯しかねないとの指摘や、当事者の中でもそこまで望んでない方がいるという声が届き、今はやや一旦立ち止まって考えている最中です。
こうした中で、都の条例案ではこの差別解消を求める本条例内容を、行政機関や事業者だけでなく「都民個人」にまで努力義務として強いる内容になっています(第六条)。
行政機関や事業者に不当な差別的取扱いを禁じることに異論がある方は少ないと思いますが、これを個人にまで広げることには懸念を感じる方が少なくないことが予想されます。
ただ今の状況を考えると、差別禁止にまで踏み込むことに政治的意味はあると思うので、そこは評価したいところでもあり、かなりここは難題ですね…。
「表現の自由」が奪われる懸念があるのではないか
ここも大きな論点の一つです。
特にヘイトスピーチに制限をかける第三章十二条は、「差別的言動に該当すると認めるとき」は行政が強制力を発揮できる内容となっていますが、その表現が差別に該当するかどうかを判断するのは容易ではありません。
もちろんこうした批判を予期して、第十四条で条例運用を精査する「審査会」を設置することになっていますが、果たして知事の附属機関がどこまで中立性をもって機能するのか…?
そこで第十八条に「表現の自由」という記載が登場し、これら憲法により保障された権利を不当に侵害しないように定めています。
これはないよりは盛り込まれた方が良いと思いますが、具体的に担保する方法は「?」です。
加えてこの「表現の自由」を規定する第十八条は、第三章「ヘイトスピーチ」の中に取り込まれており、第二章「LGBT」にまで及んでいません。
罰則規定こそないものの、第二章でも「禁止」をうたう限り表現の自由に対する懸念が発生するわけで、この第十八条は条例全体にかかるようにするべきだと私は思います。
「審議会」を経ずして提出に至ったプロセスは適切か?
長くなってきましたが、最後は手続き(プロセス)への疑問です。
こうした大きな影響が予想される新設条例案は、有識者等で構成される公開の「審議会」が設置され、そこでの検討・議論を経て素案提出に至るのが一般的です。
ところが本条例案については、パブコメこそ実施されたものの、審議会の設置・議論は行われていません。
都の言い分として、
「審議会をつくると議論が拡散する恐れがあった」
「そのかわり、十分に個別の有識者ヒアリングを行った」
と述べていましたが、議論が拡散するのはそれだけこの条例案に論点・懸念点が多いからです。
LGBTとヘイトスピーチの問題を審議会で議論しようとすれば、そりゃあ議論は拡散するでしょうし、その事態が予測されることこそが条例を別々に分けるべきという証左なのではないでしょうか。
そして個別の有識者ヒアリングは、審議会と並行して当然に行われるべきものであって、それをやったからといって審議会のショートカットを正当化する理由にはなりません。
こうしたプロセスを見ると、どうしても「結論有りき」であまりにも条例制定を急ぎすぎているのではないかとの懸念が、どうしても私の中でも払拭することができません。
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以上、条例案を読んでの主な論点・懸念点を私なりにまとめてみました。
繰り返しになりますが、これらのほとんどは本日条例案がすべて示されたことで明らかになったものであり、ここをスタートとして10月5日の閉会日までに賛成・反対の結論を出さなければなりません。
LGBTなどに関する権利擁護の条例が、このタイミングで東京から制定されることは重要です。いま起きている大きな流れを後押しする強力な一歩となる可能性があり、私としても方向性にはまったくの賛成しています。
しかしそれでも、はたしてこれだけ論点が多岐に渡る条例の内容をたったの3週間、議会質問2日間+委員会質疑1日だけの審議で決めてしまって良いのだろうか?それが可能だろうか?というのが現時点での私の率直な感想です。
条例案のレベル(重要性)としては、予算特別委員会などもあって会期が長く質問時間が十分に確保できる、第一定例会などで審議しても良いものではないかと思えてなりません…。
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もちろん議案の提出権は知事にあり、出された以上は代表質問・一般質問や各種調査を通じて、私もこれから上記の論点を整理し、自分なりの結論を早急に出せるよう努力していきたいと思います。
皆さまは本条例案をについて、どのようにお考えになりましたか?
様々な意見を都議会にお寄せいただければ幸いです。
それでは、また明日。
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編集部より:この記事は東京都議会議員、音喜多駿氏(北区選出、かがやけ Tokyo)のブログ2018年9月12日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はおときた駿ブログをご覧ください。