熊本市議のど飴騒動にみる、地方議会の理想と現実

堀江 和博

9月28日、熊本市議会にて緒方市議がのど飴を口に含んで質疑をしたことに他議員からの批判が殺到し、その後、謝罪を拒んだ市議への懲罰動議を本人を除く全員の賛成で可決した。議事が約8時間停滞するという騒動にまで発展したようだ。(産経ニュース2018.09.28

この騒動に対し「のど飴は社会人としてマナー違反」「当然の対応」などと市議を批判する声とともに、「いい大人がイジメだ」「8時間も停滞するなんて何事だ」など議会の対応自体を批判する声もあがった。

市議の振る舞いを擁護するつもりはないが、一方で「地方議会の組織文化」がよく現れた出来事だとも思う。騒動に至る背景を整理するとともに、地方議会の現状について述べてみたい。

子連れ騒動が他議員との対立を生んだ

報道では「のど飴の行為」と「議会の懲罰対応」が混在しているが、この両者は別ものだ。前者の「のど飴の行為」は非常識な行為と思われても仕方がない。喉が痛くとも何か食べながら話す行為はさすがに失礼で、誤解の恐れがある行為は慎むか、予め相談するべきであった。

一方、後者の「議会の懲罰対応」については少し考察が必要である。議会に身を置くものからすると、のど飴を舐めるという単体の行為によって「懲罰動議」に発展することはほぼ無いからである。本人も謝罪拒否したからとのことであるが、その背景には根深い「他議員との対立」がありそうだ。

昨年11月、緒方市議は事前の相談なく、議会に生後7か月の長男を連れ議場入りし、議事進行を遅延させた。「(育児と仕事の)両立に悩む多くの声を見える形にしたかった」との考えだったようだが、手続きを踏まない強引な手法に対して、パフォーマンスだとの批判が相次いだ。

他議員も子育て支援に反対はしていない。しかし、メディアの注目を集め、旧態依然とした議会との対立を演出したことで、他議員を敵に回してしまう。その結果が、懲罰動議の「全員賛成」につながるわけである。

議会は一つの「ムラ」社会である

地方議会は独自の組織文化で成立しており、「ムラ」社会と呼ぶこともできる。そこには秩序があり「掟(おきて)」がある。会議規則のように明文化されたものもあれば、伝統・慣習といった不文律もある。

例えば、一般的に地方議会では以下の属性が優先される。「多数派であること」「期数を重ねていること」「年長者であること」の3点だ。おおよそこの基準に基づいて、議長や委員長など役職の振り分けから、議会での発言力、行政側からの根回しの有無、などの差が生まれている。住民意思の表れとも言える選挙での「得票数」や、本来重視されるべき議員としての「能力」について重視されることはない。

いくら緒方市議に能力があり、正義があろうと、議会の中では「少数派」で「1期目」で「年少者」の彼女に発言力はなく、実力行使という手段を用いた行為に賛同する者など議会にはいない。

今回の騒動に対し、貴乃花親方の騒動との類似点も指摘されている。既存組織や秩序を打破するために実力行使に出たが、最終的に居場所が無くなり失敗に終わってしまうということだ。日本のどこにでもムラ社会は存在している。とりわけ地方議会は議員の流動性が低いこともあり、閉鎖的になりがちである。

議会改革の現状

一方で、地方議会では旧来の在り方を見直そうとする「議会改革」の取り組みがあることにも触れておきたい。90年代後半、先駆的な首長(北川三重県知事や浅野宮城県知事など)が各地に誕生したことで、オール与党体制の議会が崩れ、議会側にも執行部と対峙するだけの改革が求められるようになった。

2000年に入り、北海道栗山町議会が議会改革の方針・計画となる「議会基本条例」を全国で初めて制定。現在では全自治体の5割弱となる約800の議会にて制定されている。この条例に基づき、各議会は改革に取り組んでいる。※議会基本条例制定状況(自治体議会改革フォーラム)

条例の中には理念だけのものもあり、実態との乖離についても指摘されている。しかし、これらは議員提案によって制定されるものであるので、議員の積極的な姿勢がなければ制定されることはない。少なくとも、制定済み議会は改革の意志があることを示していると言えよう。

請願は議会改革を求めるものだった

今一度、当日の熊本市議会に戻る。

緒方議員はこの日午前、自らが紹介議員となり市民団体が昨年12月~今年9月に出した七つの請願がこの定例会の委員会で一括して不採択になった際の議論などを確かめようと、約1時間にわたり議会運営委員長に質問していた。 朝日新聞デジタル2018.09.28

ここで着目したいのは、議会に7つの「請願」が提出されていたということだ。「請願」とは、市民からの要望のことで、紹介議員を介して議会に提出すると議会は審議をしなければならない。では、この7つの請願とはどういったものだったのか。(熊本市議会第3回定例会「議案及び審議結果」を参考)

奇しくもその内容は議会基本条例制定を始めとする「議会改革」を求めるものだった。一部は昨年より継続審議がなされてきたが、今回で全て不採択となったようである(議会基本条例未制定は20ある政令市の中で「仙台市・大阪市・福岡市・熊本市」の4市のみ)。

この請願はある市民団体が要望したもので様々な議員に頼んだ結果、紹介議員を了承したのが緒方市議だけだったようだ。しかし、他議員の賛同を得て多数派を形成できないのであれば、いくら素晴らしい請願であっても採択される可能性は低い。そこに議会の「理想と現実」がある。

すぐに議会を変えたいなら、市長になるのがいい

現状を打開し議会を改革する方法があるとすれば次の2点だ。

ひとつは、「期数を重ね多数派になること」だ。ムラ社会という現実を受容し、期数を重ね、議会内で多数派に属することが出来れば、議会内での発言力を得ることが出来るし、大手を振って議会の改革に着手することも可能となる。時間はかかるが現実的な道だ。

もう一つは、「自ら市長となり議会を改革する」ことだ。もちろん、市長になったところで議会を直接的に改革することは出来ない。しかし、市長と対立する多数派の議会(ねじれ議会)のほとんどは、プレゼンスを高める必要性から、自ら改革に乗り出す傾向にある。市長派議員も生まれ、改選によって多数派を形成出来るチャンスもある。荒療治だが即効性はある。

来月11月には「熊本市長選挙」が予定されている。一度、熊本市民に問うてみるのも選択肢だと思うが、いかがだろうか。

堀江 和博(ほりえかずひろ)
1984年生まれ。滋賀県出身。京都大学大学院公共政策教育部公共政策専攻。民間企業・議員秘書を経て、日野町議会議員(現職)。多くの国政・地方選挙に関わるとともに、政治行政・選挙制度に関する研究を行っている。
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