複数の新人都議が離党を検討している都民ファーストの会で9日、さらなる亀裂が表面化した。
地元区長選が「お家騒動」のきっかけでもある山内晃都議(品川区選出)が同日夜ツイッターを更新。「最近、ろくに選挙運動をやったことがない落下傘連中が何かと批判を繰り広げているみたいだ。残念ですは。その人たちって今後どうするんですかねー」(原文ママ)などと挑発。名指しこそ避けたが、けなした相手は落下傘候補だった新人都議なのは明らかだった。
すると1時間あまりのちに、新人都議の奥澤高広氏(町田市選出)がフェイスブックで反応したことでさらに波紋を大きくした。奥澤氏は「選挙とは、経験ではなく結果が全て。その結果に責任を持つことが候補者たる要件」などとベテラン都議を切り返した。奥澤氏のFBコメント欄は賛否をまじえて炎上気味に。
さらに奥澤氏は10日未明、ツイッターにも戦線を広げて山内氏に対して「僭越ながら、やはり悔しくてたまらないので。山内先生は、我々を落下傘連中と思われていたんですね」と猛反論。おまけに前回の記事で指摘した、森澤恭子氏(品川区選出)を議員総会でなじって涙目にした一因が山内氏の威嚇だったと暴露するトンデモ展開に。
山内氏の発言を見かねた長島昭久衆議院議員も「選挙しか考えない輩より都政には遥かに有益ではないか」と参戦するというカオス展開だ。(追記11日5:30:長島氏は10日朝、ツイートを削除。「党の結束のために汗をかいている方々の努力に横ヤリを入れるような形となりましたので、不適切と考え削除させて頂きました」としている)
これまでの水面下での党内対立がSNS上で露骨に応酬しあうという異常事態になってきた。静観してきたマスコミも、さすがに夕刊フジや日刊ゲンダイ、週刊誌などは放置できまい。
なお、あらためて中傷合戦の当事者のこれまでを簡単に触れておこう。
先に仕掛けた山内氏は2013年の初当選時は自民党所属だったが、小池都政がスタートすると、真っ先に小池派に鞍替え。2017年の年明けには自民党を離れ、都民ファーストの会に合流し、昨年の都議選で再選した。
一方、奥澤氏はかつて西村康稔・官房副長官に秘書として仕え、同選挙で初当選した。栃木出身であり、兵庫県を地盤とする西村氏に仕えた経歴から、奥澤氏は、まさに山内氏が揶揄する「落下傘」候補だったといえる。
実は、奥澤氏をめぐっては、執行部を明確に批判した森澤氏、斉藤礼伊奈氏(多摩市・稲城市選出)らと同調しているとの情報もあったが、山内氏の口撃に反応したことで、反執行部のキーマンになりつつある。
この思わぬ展開には、都ファ関係者だけでなく他党にも衝撃を与えている。奥澤氏がかつて仕えた西村副長官との関係性がどこまで続いているかわからないが、今後の身の振り方を相談している可能性は十分考えられる。
都政関係者の間でささやかれる3つのルート
都ファが亀裂を深める要因としては、内部の人間対立だけでなく、外部からの「調略」も影響しているとみていい。きのう取材をしていてわかった「仮説」ではあるものの、今回の政局に通じた都政関係者の間では現在、
①「音喜多新党」ルート
②旧民主党ルート
③特別秘書の野田数氏とつながる自民党・山崎一輝都議ルート
という3つのルートが浮上している。
まず、①については、言わずもがな、昨年都ファを離党した音喜多駿氏(北区選出)が近く正式に旗揚げする地域政党のことだ。来年の統一地方選での候補者擁立に向けた資金をクラウドファンディングで募集、目標の1000万円まで近づくなど、意外にも求心力が健在だったことを示した。
新党は新人擁立を基本戦略にしているが、世代の近い新人都議らとの人間関係はいまでも続いているとみられ、層の厚みを増す上で現職都議の補強は大きいだろう。
音喜多氏は取材に対し「噂が流れていることは認識しているが、具体的な話は何もなく承知していない」とコメントした。ただ、水面下で交渉中なら、額面どおりに受け取っていいか今後の展開も注視したいところだ。
②は旧民主党出身者との関係だ。都ファは、2013年都議選で落選してから民主党や民進党を離れて都議選で鞍替え、復活した議員が多い。幹事長の増子博樹氏(文京区選出)、幹事長代理の小山有彦氏(府中市選出)らが執行部に入るなど重用もされており、「母体」となる旧民進党が分裂したこともあって、小池氏をすぐに裏切る動機は一見ないようにみえる。
ただ、民主左派の流れをくむ立憲民主党は「草の根民主主義」を標榜。参院選以降の国政選の足場固めとして来春の統一地方選で地方議員の勢力拡大を目論んでいる。次の都議選まで3年あるので、すぐに都政に進出とはならないが、都ファが流動化した際に、組合団体の支持いかんで、左派的な政策志向の都議たちを中心に立憲系の会派を立ち上げる可能性(※訂正あり)は十分考えられる。
(※訂正15日朝:都議会には立憲民主党会派がすでにありましたので下線部を訂正します。当該部分は「次の都議選まで3年ある中で、都ファが流動化した際に、組合団体の支持いかんで、左派的な政策志向の都議たちを中心に立憲系の会派を拡大させていくこと」に変更します)
野田数氏の暗躍を警戒する小池氏
そして、やや意外だが、もっとも政局臭があるのが③だ。
野田数氏といえば、小池氏が大勝した都知事選を裏方として指揮をとるなど、小池都政誕生の立役者の一人。都知事選のあとは特別秘書となっている。もう一人の立役者、若狭勝氏が衆議院議員だったときには、二人が小池氏の側近としての主導権を争い、小池氏が希望の党結党で国政進出に舵を切った際には遠ざけられたとされる。
ただ、衆院選で小池氏の野望が頓挫。若狭氏が落選して政界を引退してからは復権。求心力を落とした小池氏の議会運営を裏から支えるべく、自民党や公明党との折衝役をつとめてきた。
ところが、ここにきて都政関係者の間で、野田氏は小池氏から再び遠ざけられているという情報がひそかな話題になっているのだという。
野田氏は2009年〜12年に都議を1期途中まで務めたが、自民党側の窓口をつとめているのが初当選同期の山崎一輝氏(江東区選出)と言われている。現状の距離感がどうなのかはわからないが、都政関係者によると、小池氏や側近の荒木代表などは、野田氏が山崎氏と結託して党内に分裂工作を仕掛けてくるのではないかと警戒している節があるようだ。
ここまで挙げた①〜③は、都政関係者の間で浮上しているとはいえ仮説に過ぎない。しかし、経歴や関係性などを付き合わせてみると、因果関係がそれなりに見えてくる事象もある。
いまのところ都庁記者クラブのメディアは平静を装っているが、水面下の政局動向をすでに探っている。SNSでも可視化された都ファの亀裂。来週16日にも予定される次回の都ファ所属都議の総会は、政変の舞台となってしまうのか。それとも小池氏や荒木氏が鎮圧するのか。新人都議たちの動向と相まって、新聞、テレビが「離党」を報じることになれば、都政が久々に政局になるのは間違いない。