きのう(12日)の小池都知事の定例記者会見は、前回予想した通り……いや、予想したよりはるかに面白みに欠けた。
記者会見の模様は動画とともに、文字起こしも金曜夜には速報で都庁サイトにアップされる。会見では知事側が直近の発表事項について説明し、今週は豊洲市場開場や安倍首相との面会などがあげられた。記者たちの腕の見せ所はそのあとの質疑応答だ。事前の取材と突き合わせてみての矛盾を追及する。発表していないこと、とくに行政マターに付随する政治的な話題を振ってみることで、ニュース価値の高いコメントを引き出せるかどうか。「失言」はその中で飛び出ることもある。知事と記者の真剣勝負の場のはずだ。
就任数ヶ月後の会見で、報道側から、五輪開場問題が「大山鳴動してねずみ一匹」と言われた際に、「ネズミどころか大きな黒い頭のネズミがいっぱいいることが分かった」と当意即妙に答えのは、まさにその質疑応答でのことだった。あきらかに政敵を揶揄する発言だが、そのわかりやすさがメディア受けした。
ところが、議会でこの発言が追及されるなど都庁・都議会の中ではプチ炎上もした。以後は、知事側の警戒が強くなったか、いつしか記者クラブ幹事社等の無難な質問以外は、気心の知れた記者しか指名しないと悪評も立つようになった。実際、フリーランスの枠で参加しているメディアからはブーイングも飛んでいる。
音喜多新党の話題すら触れない質疑応答
そして昨日は、案の定、都民ファーストの会の今回の内部分裂について、どこも取り上げることすらなかった。それどころか、会見終了から1時間あまり後に予定されていた音喜多駿都議の新党の話題すら振ることもなかった。小池ブームが沈静化したいまの都政報道で、数少ない政局記事として担当記者たちも面白記事を書く機会だというのに。
しかも都ファの内部分裂と違い、公知の事実である「音喜多新党」の話題すら振ることはないのは、クラブ側の萎縮でしかない。おそらく「都政に関連する話」に限定するよう、知事サイドから強く求められているのであろうが、それであってもギリギリのところを攻めるのが広報ではない報道の役割ではなかったのか。
一般の人にはあまり知られていないことだが、都庁クラブは各社とも政治部ではなく社会部が受け持っている。都庁着任前には警視庁などを担当する記者も多い。事件取材の壮絶な特ダネ競争にもまれた彼らは、政治部記者と違い、談合的な体質が薄く、切り込むときは切り込む猛者たちなのだから奮起してもらいたいところだ。「音喜多新党」の話題にすら触れないのであれば、定例会見を毎週やる意味はないように思う。通り一遍の都政発表なら都庁のホームページをみれば足りてしまうご時世だ。
新たな調略ルートの存在が浮上か
そして、知事会見と音喜多新党(新党名は「あたらしい党」)立ち上げがあった裏で、都ファの騒動関連でまた新たな動きがあった。さきに執行部派の山内晃都議(品川区選出)とツイッターでバトルを演じた反執行部派のキーマン、奥澤高広氏(町田市選出)が13日未明にFacebookを更新。拙稿『都民ファーストの会を亀裂させる3つの調略ルート説』をシェアした上で、あたらしい党への合流を否定した。
3つのルートのうち、①で挙がった音喜多都議はあっさりフラれた格好だが(苦笑)、注目すべきなのは、3つの調略ルート以外にも「4も5も6もある中で、最適解を選びます」などと述べている点だ。つまり、これまでに明らかになっていない新ルートが少なくとも3つは存在することを示唆している。この投稿は、都ファ内部にはもちろん他党の都政関係者にも新たな衝撃を与えている。
また、前回の拙稿では、「加藤の乱」の事例を引き合いに今週末に離党予備軍への慰留工作が活発になる可能性を論じたが、都政関係者によると、奥沢氏も含め、新人都議たちには予想通り、離党を思いとどまるよう働きかけが強まっている模様だ。
自民党の派閥抗争と一味違う都ファの「今風」なグループ抗争
外部からの調略ルート、そして内部の動きをここまで探ってみると、おぼろげながら4つほどグルーピングできそうだ。とはいえ自民党の派閥のように明確にグループがあるわけではないので、全容が掴みづらい。まさに「ステルス派閥」といえる。
①荒木執行部グループ(荒木千陽代表、増子博樹幹事長など)
②反執行部グループ穏健派(党内残留、代表交代して都民ファーストを実現)
③反執行部グループ強硬派(会派離脱も辞さず)
④抗争に距離を置く、中立 or 冷ややかにみているグループ
本来なら多数派は①のはずだが、②も少なからずいる。ここまで名前の挙がった奥沢氏は③に入っているとみていいだろう。ほかにも新人都議が複数いるが、②との間で揺れている者もいる。③から②に引き戻すべく慰留工作が行われている。
そして都ファの特徴ともいえるのが④の存在だ。歴代の自民や民主のような伝統的政党の内部抗争であれば、①VS③のシンプルな対決構図になったり、① VS ②③で混迷したりするところだ。前者の典型的な事例は、かつての民主党が政権後期に小沢一郎氏率いるグループと袂を分かったときだった。
その点、都ファは新人都議が多い。それも、民間にいたときには、派閥抗争的なものを経験せず、国家資格ホルダーや一流企業社員などとして本業に注力してきたタイプが大半だろう。今回のように“ザ・政治”とでもいえるような、政局抗争になってしまうことに「ドン引き」し、嵐の行方を見守ろうということか。それがまた「今風」ではある。
④の数いかんでは、抗争が盛り上がらず、2年後の都知事選あるいは、3年後の都議選間際になるまでグダグダな展開が続く可能性もある。しかし、もし③の動向次第では、数が少なくても政局的には小さくないインパクトになろう。