今年7月にメキシコの大統領選で勝利し、12月に大統領に就任することになっているアンドゥレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)は選挙戦の時から「大統領に選ばれても貧困者がたくさんいるメキシコで贅沢で費用のかかる大統領専用機は利用しない」と公約していた。移動は、「一般の旅客機を利用する」と公言していた。
ところが、9月20日,オアチャカ州のウアトゥルコ空港からビバエロブス航空でメキシコシティーに向かうのに目的地が大雨で着陸出来ないということで、機内そして空港ロビーでおよそ5時間待ちを食らった。午後5時20分発が、夜10時15分に離陸となったのであった。
メディアはこの出来事を好材料に、「大統領に就任以降も大統領専用機を利用しないのですか?」という質問を機内で彼に浴びせた。今回の経験から、アムロの考えに幾分か変化が見られるのではないかとメディアは期待したようである。ところが、それに対してアムロの回答は、「大統領専用機には乗、ら、な、い。貧困層の多い国で、余りにも豪華な飛行機に乗ることなどできない」と答えた。
更に、「見栄はもう御免だ。見栄ぱりで、傲慢な政治家ももう終わった」と付け加えた。そして、長い待ち時間に苛立つことはないとした上で、「(この遅れに関係して)働いている人たちの責任ではない。機長そして従業員に申し訳なく感じるほどだ」とも語った。
アムロが指摘している見栄ぱりの政治家を批判しているのと併行して、メキシコ連邦議会ではアムロが党首が務める過半数255議席(定員500議席)をもっている国家再生運動党(MORENA)の主導のもとに、議員及び高級官僚の報酬の改正法案が可決した。この改正によって、大統領のひと月の報酬である10万8000ペソ(64万円)以上の報酬を州知事、上院議員、下院議員、高級官僚らが稼ぐことができなくなった。
この改正はスペインでも必要であろう。スペインの首相の報酬を凌ぐ州知事や高級官僚は多くいるからだ。
大統領以上の報酬を受け取ることが禁止されているのは既にメキシコ憲法127条で謳われているが、それがこれまで80年余り続いた2大政党、国民行動党(PAN)と制度的革命党(PRI)による寡占政治で無視されていたというわけである。
実際、アムロ自身も下院議員としてこれまで27万ペソ(160万円)>を稼いでいるが、大統領に就任すると、ほぼ半額の報酬になる。
この改正によって、これまでの収入を確保したいとして将来汚職が今以上に蔓延る可能性はある。しかし、敢えて改革しようとする動きは重要であろう。
また、アムロが大統領になってからの一般旅客機での移動は安全面や長距離を移動する場合は不都合が多く、最終的には専用機を利用せざるを得なくなるはずだ。しかし、アムロの貧困層のことを思い改善しようとする気持ちは全ての政治家が見習うべきことであろう。
ブラジルのルラ元大統領のように彼自身が貧困層出身であったことから、貧困者の生活向上を図ろうとする意思は政治指導者として尚更強かった。その為の改善を彼は実行していた。それで、政府の歳出が急増したという問題点もあった。
メキシコの場合、1億2700万人の人口の内、<5300万人が貧困者>とされている。その規模は人口比で43.60%(2016年統計)となっている。だから、良い生活を求めて米国に不法してまで移民しようとする人が多いのである。
米国のピュー研究所(Pew Research Center)の調査によると、40%のメキシコ市民が20年前に比べメキシコの経済は悪化していると答えたそうだ。
アムロはメキシコのこの30年間は成長なく、負債が増え、貧困者の増加と異常なほどに犯罪が急増していることを挙げている。
メキシコ経済の問題点は食料にする農作物の生産が少ないということ。これは隣国に米国を抱えて、そこから必要な食料を容易に輸入できるという理由からである。それに加えて、自国の産業をもっていない。全て、外国からの企業の投資進出に依存している。だから雇用の創出も多くの場合、外国企業の進出に依存するようになる。
石油開発でも国営化したペメックスの生産効率は悪く、石油開発も民間企業からの投資が可能になってからも成長は鈍い。
即ち、国家経済をリードできる自国の基幹産業が欠如しているのである。最近18年間の成長は平均して2.52%。国が成長するには最低3%以上の成長率が必要だとされている。
顕著な成長が見られず、長年の2大政党の寡占政治で、ピュー研究所の調査でも、93%の国民が「政府を信頼しない」と答えているというのだ。この理由のひとつに、犯罪が異常なほどに多発しているにも拘わらず、犯罪者を裁くことが殆ど出来ない司法とも関係している。
また成長する為には投資も必要で、アムロはGDP3.8%の成長を公約しているが、その為にも年間GDPの24%から25%に相当する額の投資が必要だとされている。が、現状は19%から20%で留まっている。
インフレは昨年6.77%と比較的高い。負債はGDP比で51%。しかし、メキシコの経済規模だと、この負債が影響して実質GDPは成長率から1%前後差し引いて見る必要があるという。
ペーニャ・ニエト現大統領の政権は80年間の民主政治において1997-1998年を除いて最も投資が少ない政権だとされている。
アムロは貧困、社会の不平等、治安の悪さを改善しながら、経済成長を遂げねばならない。前途は多難である。