Himalaya音声配信でも説明したが、年長者と会話をする際、極めて効果的な方法がある。
「社長が新入社員だったころは…はいかがでしたか?」
と訊ねることだ。
「…」は、社屋の構造であったり周囲の町並みであったり、場合によってはボーナスの額でも構わない。
要は、現在と比較して明らかに変化しているものでれば“概ね”OKだ。
ここで注意すべきことは、「新入社員だった頃」とか「学生だった頃」という具体的な時代表現を用いることだ。
間違っても「若かった頃」などと言ってはいけない。
ほとんどの人間は、実年齢よりも自分は若いと思っている。
一例として、とあるスーパーで「シルバー用品」というコーナーを設けたらさっぱり売れなかった(品物は大人のおむつであったり、杖だったり)。
ところが、コーナーの名前を「シニア用品」と変えただけで、ずいぶん売れるようになった。
「自分はシルバーじゃない」という内心の反発が、そのコーナーから高齢者層を遠ざけていたのだ。
個人的には、(品物にもよるが)「シニア」よりも「大人の」という形容詞の方がもっと喜ばれると思っている。
年長者に「昔のこと」を訊ねる理由は、記憶には「浄化作用」があるので、(虐待やいじめなどの例外を除けば)昔の記憶は実際よりも美しいものとして残るからだ。多くの年長者が「昔は良かった」と口にするのは、記憶の「浄化作用」が働いている証左だろう。
映画で昭和30年代を回顧するブームが一時期起こったが、実際の昭和30年代は現代よりもはるかに犯罪の認知件数が高いなど、決して快適な時代ではなかった。
高度成長という勢いを斟酌しても、現代よりも「いい時代」だと評価するのには躊躇を感じる。
昭和30年代を「美しく回顧している人たち」の記憶からは、苦労などの経験はきれいに「浄化」されているのだろう。
年長者が当時のことを嬉々として話し始めたら、しっかり耳を傾けてどんどん話してもらおう。
コミュニケーションにおける最も重要なスキルは「聴く力」なのだから。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年10月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。