中国の囚人?「人体標本展」の遺体のDNA鑑定を

長谷川 良

スイスのローザンヌのコンベンションセンターで今月19日から21日まで開かれる予定だった人体標本展「リアル・ヒューマン・ボディーズ」について、「展示されている遺体が法輪功学習者を含む中国の囚人である可能性が高い」という情報を受け、州裁判所が急きょ開催の中止を決めた。展示される人体標本は生物を半永久保存できる技術(プラスティネーション)で加工された、実際の人体が使用されている。

▲法輪功メンバーのデモ行進(2015年9月19日、ウィーン市内で撮影)

スイス・インフォによると、展示会の中止を要求したのはキリスト教団体「拷問と死刑廃止のためのキリスト教徒行動(ACAT)。それによると「展覧会で使用された遺体は拷問で死亡した、あるいは死刑執行された中国の囚人や、中国共産党政府が非合法化し、拷問を伴う弾圧を受けている法輪功のメンバーである可能性が高い」というのだ。

ACATの抗議を深刻に受け取ったベルン市およびローザンヌ市当局は展覧会主催者側に、展示遺体の出所証明書と、標本となった人物本人あるいは家族からの展示同意書を提出するよう求めたが、主催者側は提出しなかった。そのため、ローザンヌ市は中止を決めたというわけだ。

スイスではジュネーブでも昨年、世界巡回人体展「ボデイ・ワールド」が開催されたが、その時も同様の問題が生じている。この種の展示会はオランダ、ベルギー、スイス、英国などで開催されてきた。

オーストラリアのシドニーで4月から10月まで開催された「人体展」の主催者側は「人体が中国からのもの」と述べたという。海外中国メディア「大紀元」(10月18日)によると、豪州ウェスタン・シドニー大学医学部教授ボーガン・マスフィールド氏は「医科大学の所有する献体は高齢者だが、展示会の人体標本は若い男性が多い」と指摘したという。

2006年、国際人権協会(IGFM)の主催で中国の不法臓器摘出の実態についてウィーンで記者会見が開催されたことがある。同会見にはカナダ元国会議員のディビッド・キルガー氏と弁護士ディビッド・マタス氏の両氏がまとめた中国の「不法臓器摘出疑惑調査報告書」が紹介された。両氏は「中国は国際社会の強い批判を受けたにもかかわらず、反政府グループの法輪功信者たちから生きたまま臓器を摘出し、その売買に関与している」と報告している。

中国当局によれば、同国では2005年までに通算約9万件の臓器移植が行われた。1999年前までは約3万件だったというから、1999年から2005年まで過去6年間で約6万件の臓器移植が実施されたことになる。興味をひく点は、臓器移植件数が急増した1999年以降は法輪功が非合法化され、メンバーへの弾圧が始まった時期と合致することだ(「法輪功メンバーから臓器摘出」2006年11月23日参考)。

米国居住の中国人がオーストラリアで開催された人体展には弟の遺体が展示されている可能性があるとして、標本のDNA鑑定を要求したというニュースが流れた。行方不明となった法輪功メンバーが殺害され、その遺体が人体標本となっている疑いがあるわけだ。

「大紀元」によると、英国議会で今月16日、中国臓器移植問題に関するラウンドテーブルが開かれた。そこに出席した「ブリストル臓器強制摘出に反対する会」(BAFOH)共同代表ベッキー・ジェイムス氏は、「姉妹都市である広州には大規模な強制臓器摘出が行われている。広州には世界最大の移植病院がある」と述べている。

世界保健機構(WHO)は2010年、臓器移植にかかる国際基準の指針を発表した。それによると、①移植臓器は臓器提供者(ドナー)からの同意が明示されること、②ドナー制度には透明性があり、社会的に公開されたシステムであること、③本人の同意のない臓器を摘出することは違法、等などが明記されている。

国際社会からの批判にもかかわらず、中国では不法臓器摘出は今なお行われ、法輪功メンバーが生きたまま臓器を摘出されているという情報や噂は後を絶たない。臓器移植が大きなビジネスだからだ。特に、健康体の遺体から摘出した臓器を高額の値段で売るビジネスだ。カナダの弁護士マタス氏によると、「中国人の死体のほとんどは公安や警察当局から供給されている」という。

以下、データは古いが、「中国国際移植ネットワーク・アシスタンス・センター」(瀋陽市)が2006年のサイトに掲載していた臓器移植の値段リストだ。同サイトはその直後、中国当局によって閉鎖された。同リストは臓器売買が大きなビジネスであることを証明している。(単位USドル)

腎臓 62,000
肝臓 98,000~130,000
肝臓・腎臓 160,000~180,000
腎臓・すい臓 150,000
肺 150,000~170,000
心臓 130,000~160,000
眼球角膜 30,000


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年10月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。