携帯電話に参入する予定だった楽天が、KDDIと業務提携すると発表した。これで来年秋からのサービス開始では、楽天の通信網だけではなく、KDDIとのローミングでやることになる。その代わり楽天は、ネット通販のインフラをKDDIに提供するという。
楽天は設備投資額を「2025年までに6000億円」と発表していたが、3大キャリアの設備投資は昨年だけで合計1兆3000億円。楽天の投資では、全国にネットワークを張りめぐらすのは困難だ。いずれ既存キャリアとの提携は避けられないとみられていたが、最初からインフラを借りるのでは、KDDIの顧客を奪うような低料金を出すことはできないだろう。
菅官房長官が「携帯料金は4割下げられる」という発言は大きな反響を呼んでいるが、今のスマホの処理能力は1990年の大型コンピュータを上回る。PCの価格は90年代の1割以下になっているのだから、通信料金を4割下げるというのは控えめな目標だ。コンピュータと同じように競争が働けば不可能ではない。
ドコモは「携帯料金を2割から4割値下げする」と発表したが、料金だけなら3大キャリアの半額以下のMVNO(仮想移動体通信事業者)もある。それが真剣勝負にならないのは、設備ベースの競争がないからだ。膨大な設備投資のリスクに見合う利益を上げるには、自社で通信網を所有する必要がある。
他社のインフラを借りたのでは交渉力がないので、思い切った投資ができない。もしコンピュータが昔のようにIBMのハードウェアを借りて使う産業だったら、われわれはいまだに高価な大型機を使っているかもしれない。通信のボトルネックは電波なので、対等な競争をするには電波を自前でもつ必要がある。
アメリカではT-Mobileが600MHz帯をオークションで獲得し、来年から5Gのサービスを開始する予定だ。このためにFCC(連邦通信委員会)は電波を整理したが、テレビ局は従来通り放送を続けている。
日本でも600MHz帯はあけることができる。次の図は関東エリア(東京スカイツリーなど)のテレビ周波数だが、29~52チャンネル(566~710MHz)は中継局に使われているだけなので、電波の区画整理で親局に統合できる。
同様に全国の電波を区画整理すれば、少なくともアメリカと同じ帯域をあけることができ、テレビ局は今までと同じ放送ができる。日本の地デジはSFN(単一周波数ネットワーク)という進んだ技術を使っているので、区画整理のコストはほとんどかからない。
最大の政治的障害は電波利権を守るテレビ局だが、彼らに一定の既得権を認めてもいい。たとえばキー局に「立ち退き料」として通信帯域をテレビの8チャンネル分あたえても、残りの20チャンネル以上を通信キャリアやWi-Fiに割り当てれば十分だ。
UHF帯の周波数再編はITU(国際電気通信連合)でも検討されており、遠からず日本でも5Gに割り当てる動きが出てくるだろう。楽天がそういう長期的な動向を織り込んでいるとすれば、彼らにも活路はあると思う。