立憲君主国のスペインでこのまま君主制を望むのか、それとも共和制への移行を希望するのかという問いが再燃している。この問いを国民の前に誘っているのはスペインの極左派でポピュリズム政党ポデーモス(Podemos)である。
2014年にスペインの政界に登場したポデモスの創設者のひとりファン・カルロス・モネデロは「王様は物語の中に登場するだけで良い。そこから絶対に出てはいけないのだ」と語っているように、彼ら共和制支持者にとってスペインで国王が存在しているというのは受け入れられないことなのである。
(↑ ポデモスの党首イグレシアスがフェリペ6世に謁見した時の写真。国王に謁見するのにこの服装!)
2014〜2015年頃までは君主制の存在を疑問視する風潮は存在してはいた。しかし、それが表舞台に出ることはなかった。フランコ将軍自らが、これからのスペインは君主制を歩むべきだと決めてブルボン家の復活となってファン・カルロス1世が王位に就いたのであった。独裁者が国民に相談もなく決めた君主制に反対して共和制を望む国民はこれまでも存在している。
ところがギリシャのシリザと同じように極左派政党が登場するようになって、内戦を知らない多くの若者の間でスペインの君主は国民の投票によって決めるべきだという動きが次第に支持を集めるようになったのである。それは丁度ポデーモスの躍進と正比例する動きであった。
またポデモスはそれを具体的に表明する機会を模索していた。そして、ポデーモス、左派連合、共産党、反資本主義グループそしてその他過激グループが中心になってできた組織が、12月2日に君主制か共和制かを問う住民投票を実施することを決めたのである。
投票を望む人は誰でも投票できるとされている。しかし、その結果は法的に如何なる効力もないが、共和制を望んでいる人たちが存在していることを社会に具体的に示す絶好の場となるのは間違いない。
更に、この動きを支援するかのようにカタルーニャの独立を主張する3政党が10月初旬にスペインの現制度の廃止そして君主制は反民主的だとした動議をカタルーニャ州議会で賛成多数で可決するという事態が発生(参照)。
しかも、昨年10月1日に独立の為の違法住民投票をした2日後にフェリペ6世国王が当時のカタルーニャ政府の違法行為に断固反対を表明し民主的な解決を求めた声明を発表した。それに対しこの3政党は、国王は中央政府の代弁者だと批判。そして、彼らは国王に謝罪を今も求めているのである。
また、内閣不信任案が可決して誕生した現政府は下院の議席が過半数を大きく割っており2019年度の国家予算の議会での承認を得るためには他党からの議席を味方につけねばならない立場にある。ポデーモスはその弱点をついて彼らの議席を政府に貸す代わりに、現刑法で王家を侮辱した場合に適用される罪状が重いとして、それを軽減させるための刑法見直しを政府に要求し、政府はそれを受け入れた。
更に、ポデーモスが政府に要求したのは、ファン・カルロス1世前国王の愛人が語っていたことが盗聴されて前国王が資金洗浄に手を染めていたことが疑われるようになっている。それをポデモスは議会で調査委員会を設けて審査すべきだと主張。必要とあらば前国王の委員会への出頭も要請できるようにするという要望を政府に提案。しかし、これにはさすがに政府もその要望は受け入れられないとして国民党そしてシウダダノスと一緒になってそれを却下した。
2008年―2011年間の軍隊の参謀長を務めたフーリオ・ロドリゲスは現在ポデーモスに属し、君主制を批判する立場にいるのである。スペイン軍隊の最高指揮官はスペイン憲法によって国王と定められている。即ち、国王の直下の参謀長が定年した現在、国王の存在を否定する立場にいるというのも皮肉である。
スペインの近代は2度共和制を経験している。いずれも政情が不安定な時の誕生であった。モネデロは「我々がここにいる限り、スペインの君主制はあとそう長くは続かない」と述べている。果たして、そうであろうか?