最近、日本シリーズ中継で「放送時間を延長してお送りします、以降の番組は放送終了後にお送りします」と実況され、以後の番組を待たされうんざりの視聴者も少なくないのではないだろうか。
今年の日本シリーズから、全試合放映権をもつ各局のネット配信サイトが地上波と同時無料生配信する試み(ONEsmart・hulu・Paraviは初加入者のみ期間限定で無料)を折角スタートさせているが、地上波では積極的には告知・宣伝されていないのだ。
その謎を解く。
同時無料生配信しながら長時間延長劇がおこるわけ
第1戦はテレビ朝日(アベマTV)、第2戦はフジ(ONEsmart )、第3戦はTBS(Paravi)、第4戦は日本テレビ(hulu)、第5戦はテレビ朝日( アベマTV)、第6戦はTBS(Paravi)、第7戦が日本テレビ(hulu)が放送・配信もしくは放送・配信予定。
それにも関わらず、地上波は試合終了まで放送延長し、野球に無関心な視聴者を一方的に待たせている。
第1戦の放送終了が23時頃となり、21時から放送予定の「フィギュアスケート」(テレビ朝日系)が約2時間、第3戦では「中学聖日記」(TBS系)というドラマが約40分、第4戦では「今夜くらべてみました」や「獣になれない女たち」(日本テレビ系)が約1時間遅れ、第5戦では「リーガルV」(テレビ朝日系)が放送休止になった。
このような長時間延長劇が起きるのは、日本シリーズは原則試合終了まで放送する放送局のみにNPB(日本野球機構)から放映権が与えられる慣習がいつまでも続いているためだ。
10年でワースト2位の日本シリーズ視聴率にCM収益構造変化
地上波がネット配信の告知や宣伝に消極的な理由は近年の視聴率低下や収益構造の変化にあるだろう。
近年のプロ野球中継は視聴率低下で放映権料は1億を切りBSの放送がある時は数千万をNHKが負担し、制作費等を考えると従来のビジネスモデルでは収入が確保しづらくなっている。
現に今年の日本シリーズの平均視聴率は1戦目12.8%、2戦目9.8%、3戦目10.1%、4戦目9.7%。(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。
4試合平均は10.6%で過去10年でみると、2014年ソフトバンクー阪神の9.8%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)に次ぐ低視聴率となりそうだ。
加えてBS1の放送時はNHKと民放のパイの奪い合いとなる上にネット配信まで告知すると、視聴率低下を最小限に防ぎたい思惑が強いのではないだろうか。
また、テレビCMに比べネット動画広告は一般的に安価である。
テレビCM料金はあらかじめ設定されているのに対し、ネット動画広告は通常1クリックに対し課金される仕組み上の違いがあることはご存知の方も多いのではないだろうか。
具体例をあげると、F2(35歳~49歳)に向けてCMを流す場合人口は1305万人(統計局調べ)に1%リーチできたとする。
テレビCMの場合広告ダイレクトを参照すると、キー局が15秒で75万~100万なので85万と仮定すると、85万で13万5千人にリーチできたことになる。
動画広告の場合は1クリック10円~数百円前後なので、100円と仮定して1%の13万5千人にリーチするには13万5千円ですむ。
つまり、テレビCMに比べ動画広告はかなり安価で同様の人数にリーチしやすい特性がある。
高校野球の同時生配信でも視聴率減少せずネット配信ユニークユーザー2000万増加
「モーニングCROSS」(MX)に出演した元フジテレビの田中大貴氏によると、高校野球はテレビとネット同時配信をしているが相乗効果を生み出しているとコメントした。
数字をみると、テレビとネット同時生配信をスタートさせた2014年から視聴率はリオ五輪時を除き二桁をキープし、観客数は82~85万人とほぼ横ばいで推移したユニークユーザーが2000万増加したとある。
高校野球は人気ソフトではあるが、必ずしもネット配信するから視聴率が低下するとは限らない。
スポーツ中継の放送と通信の変化
今年のサッカーW杯でNHKと民放がネットで同時配信したり、NHKがスマホアプリを作り、視聴した人も多いと思う。
大会を通じて191万9千人が視聴し成功をおさめた。
また、在京キー局(日本テレビ・テレビ朝日・TBSテレビ・テレビ東京・フジテレビ)はテレビとネット同時配信の技術実証実験をおこなっている。
視聴データとインターネット結線テレビ経由で取得した地上波テレビ放送の視聴データを収集集約し、5局間で分析・検証するという。
先日開催された「世界バレー」を皮切りに11月の「女子サッカーなでしこジャパン国際親善試合 」、「レスリング全日本選手権」などで実施予定だ。
野球中継でいえば、昨年TBSラジオが野球中継から撤退、今年に入りネット配信では「スポナビライブ」が終了し、「DAZN」が2球団から11球団に拡大した。
さらに、CBCテレビ(中部日本放送)が8月1日のドラゴンズ戦でプロ野球史上初の試みで「フレキシブルアド」という新たな広告を活用したことで話題をよんだ。
フレキシブルアドとは、バーチャル映像合成技術生放送の番組をCMで中断せず野球中継の映像を一部残したまま、プレイ中の状況に応じ最適なCMを流す。
あるいは、KDDIとグループ会社のスーパーシップ がパ・リーグの試合を仮想現実(VR)可能な3次元映像視聴サービス「パーソル パ・リーグTV VR」を開始。
バックネット裏やセンターバックスクリーンなど5つの視点から楽しめ、野球に限らずスポーツ中継全般来たる5G時代に向け、強力なソフトとなりそうだ。
テレビからネットへのリレー中継の導入で放送延長や視聴者を待たせることは防げる
NPBは「テレビとネット」を上手に活用すべく局の上層部や広告主らと連携し、例えば21時までテレビで放送し、21時から試合終了までネット配信するなどテレビからネット、ネットからテレビへのリレー中継を積極的に実施してほしい。
「テレビの大画面で視聴したい」人はアマゾンで「FireTvStick」で購入(5000円程度)すればネット映像をテレビで視聴可能である。
視聴者を待たせるのはもう時代錯誤だ。
「野球(スポーツ)中継は21時からスマホ・タブレットなど携帯電話でお楽しみ下さい」と早く地上波で聞ける時代。
野球・スポーツファンの私たちと次の番組を楽しみにしている人たち双方が満足できるサービスが提供できる環境はすでに整っているのだから。
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奥村 シンゴ フリーライター
大学卒業後、大手上場一部企業で営業や顧客対応などの業務を経験し、32歳から家族の介護で離職。在宅介護と並行してフリーライターとして活動し、テレビ、介護、メディアのテーマを中心に各種ネットメディアに寄稿。テレビ・ネット番組や企業のリサーチ、マーケティングなども担当している。