これはあれこれは批判があるようですが、相当防衛省や政治にも配慮した現実的な数字だと思います。
ぼくだったら5年間で1.5~2兆円の削減を要求するでしょう。2兆円だって毎年平均すれば、4千億円、決して無理な数字ではありません。
実際問題として記事にあるように、現中期防では7千億円の削減というのは色々からくりがあるにしても、達成が確実なわけです。で、未だに外国の8倍も高い小火器なんぞを平気で買っているわけですから、カネの使い方はじゃぶじゃぶの濡れ雑巾レベルです。まだまだ絞れる余地はあります。
そもそも、何を何のために、いつまでに、いくつ調達して、その総額はいくらか?
という計画が国会及び納税者に示されません。でも、いつもなし崩し的に国会で予算が承認される。ところが議員は安倍総理を含めて誰も、どれだけカネがかかり、いつまでに終わるのか知りません。
こういうのを市ヶ谷や霞が関、永田町ではなんというか知りませんが、世間様では無責任といいます。
防衛省内では一応の計画があるにしても、国家として計画がないし、文民統制が機能しているとは言えません。民間企業の設備投資ならば、取締役会が新規工場の投資額も、規模も、いつ完成するかもわからずに、GOサインを出すのと同じです。他国の国防予算でもこのような異様な調達システムを見たことがありません。
こういうのが防衛省の言う「我が国独自の環境」というやつなのでしょうか。
いわゆる主要装備だけではなく、需品もかなり問題です。
まずは調達の計画を立てる。このアタリマエのことを行うべきです。
それから「官製談合」をやめる。
守屋スキャンダル以降、随意契約が減らされ、競争入札が中心となっておりますが、これが機能していない。八百長レースとなっています。必要ならば透明性を担保して、随意契約を増やすべきです。
毎度持ち出して恐縮ですが、空自の救難ヘリ調達において、現行のUH-60Jの改良型が採用されたわけですが、当初23.75億円と想定していた単価が約50億円、ほぼ2倍です。そもそも45億円ほどの現用のUH-60Jの改良型が、23.75億円になるはずがない。
これを空幕長にも会見で質したのですが「劇的なコストダウンはできません。がんばります」という回答でした。
これは普通に考えれば始めからUH-60J改良型の採用が決定しており、入札は出来レースだった、つまりは組織ぐるみの官製談合、犯罪行為だったことが濃厚です。ほぼ真っ黒なグレーです。はっきり行って、防衛弘済会の売店でおりぎり万引きするほうがまだましです。
官製談合でないならば空幕長以下、空幕はよほどの素人以下の無能な集団であることになりますが、そのような集団に国防を担わせて宜しいかと心配になります。
そしてその後、官製談合を含む、調達価格の高騰を防ぐために米国と同様の調達価格の見直しが大臣通達でなされました。
ところが来年度概算要求でも陸自のUH-Xは通達にある、125%、150%を超えた調達単価になっております。つまり大臣通達は有名無実であり、これまで通り、官製談合やり放題ということになります。
これは組織ぐるみの犯罪だといっても過言ではないでしょうか。
【防衛予算概算要求】防衛予算拡大で自衛隊の弱体化を図る安倍政権②
防衛省は装備調達コストの高騰を避けるために、米国の国防授権法(ナン=マッカーディ条項)を見習って、コスト管理のためのルールを平成27年度に大臣訓令としてだしています。
これによれば調達単価が当初の150パーセントを超えると調達を見直し、あるいは中止する可能性がでてきます。この見直し基準が米国ほど厳格ではありません。
まずはなんとも情けない話ですが防衛省、自衛隊に法律を守らせることが必要です。それを徹底する。
それからキチンした調達計画を作り、それを議会と納税者に示した上で、議会がそれを承認するという民主国家の文民統制としてアタリマエのことをするべきです。毎度申しておりますが、文民統制の肝は予算です。それを議会が掌握していないというのは文民統制が機能していないということです。
そして、調達金額を決めて、調達期間も決める。89式小銃なんぞ30年近くたっても調達が完了しておらず、その間に旧式化し、調達単価は諸外国の約8倍です。
更に問題なのはその間調達担当者が拘束されることです。例えば5年で調達完了と比較すれば6倍、6年ならば5倍のの述べ人数の調達担当者が必要になります。ところが欧州主要国と比べて、防衛省の調達要員は概ね一桁すくない。そしてその効率が5倍も悪い。これでまともな調達ができるわけがない。
更に申せば外国の事情をきちんと把握しろ、自分たちの妄想や組織防衛だけで装備を選ぶな、ということです。
それができていないから、キャンセルされた陸自の8輪装甲車でも事前の事業評価で「外国性は高くて、生存性が低い」という間逆なことを平気で書けるわけです。
こういってはなんですが、我が帝国陸軍は精強であり、1個師団は米軍の3個師団に相当するなんてこといっていた、作戦参謀なんかと同じです。実際は米軍の1/3の戦力だったわけで、それは実戦で証明されています。自衛隊では戦史を教えていなんでしょうかね?
今年のユーロサトリでは陸自からの視察がかなり増えましたが、継続して海外の情報を収集し、分析、評価するシステムが必要です。幹部は2年毎に移動させるべきではない。また曹クラスも派遣するべきです。高々年間数億円の出張費で何百億、何千億の予算がセーブできれば安いものです。
また装備庁の出先機関を欧州に置くべきです。そして欧州、ロシア、中東、アフリカどの装備開発や取得の実態を把握する。必要とあれば民間人を起用してもいいでしょう。欧米の軍事ジャーナリストやアナリストを雇用して、取材させるなどといった方法も検討すべきです。
そうして、諸外国の軍事技術の動向やトレンド、コストを把握した上で、輸入にするか国内開発にするかを判断すれば、かなりの無駄がセーブできるはずです。
もう一つ。やる気のない防衛産業メーカーにはやめてもらうことです。
やる気も、将来性も、技術力もない、値段だけは外国製の何倍という、既存の防衛産業の生命維持装置的な防衛予算の使い方をやめるべきです。
例を挙げるならば住友重機の機銃、コマツの装甲車、砲弾、ニコンの潜望鏡などです。
輸出もしないのに同じ分野で複数のメーカーが乱立しているのは不健全です。
これらは防衛省か経産省が主導して事業統合を行うべきです。
あるいは中小企業に事業を移管してもらう。大企業では無理でも中小企業であればそれなりに利益が取れて、コストも削減できるもののあるはずです。また既存の防衛産業とベンチャー企業や中小企業を競わせるのもありでしょう。
当事者意識と能力がない企業には撤退してもらう。それが納税者のみならず従業員や株主にとっても利益となると思います。
■本日の市ヶ谷の噂■
陸自の75式ドーザーの後継はトルコの製品が有力候補との噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年11月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。