防衛予算拡大で自衛隊の“弱体化”を図る安倍政権②

さて、今回は陸自のUH-Xのお話です。

陸自のUH-X(次期多用途ヘリ)は当初は単価12億円を想定していました。
ところが本ブログなどですでにご案内のように、12億では収まらない。
まあ、単発のUH-1Jが12億ですから、そもそも12億円で済むはずがないのはバカでも分かる話ですが、市ヶ谷のA棟やらD棟やらにはバカ以下の人たちがいらっしゃるんでしょう。

陸自の次期多用途ヘリUH-Xのベースとなる「SUBARU BELL 412EPX」型機(スバルコーポレートサイトより:編集部)

で、案の定概算要求では6機で110億円つまり1機あたり18.33億円です。初度費が52億円です。

えっ、これホントに作るんですか、レベルの値上がりです。想定の1.53倍です。

防衛省は装備調達コストの高騰を避けるために、米国の国防授権法(ナン=マッカーディ条項)を見習って、コスト管理のためのルールを平成27年度に大臣訓令としてだしています。

これによれば調達単価が当初の150パーセントを超えると調達を見直し、あるいは中止する可能性がでてきます。この見直し基準が米国ほど厳格ではありません。

防 衛(参考資料)P.17(財務省資料)
防衛平成28年10月20日P.15(財務省資料)

この訓令は野放図に調達コストが上がるのを防ぐためです。
無論、単にコストの高騰を防ぐためでもありますが、我が国では過去官民が結託した官製談合(といってよい)によって、安めに業者に見積もりを出させて平気で、調達時になって値段を高騰させる、つまり、本命の業者に入札させるためにインチキな入札をやっても問題がないという慣習があり(はっきり言ってこれは犯罪行為です)、これを是正するためのものです。

例を挙げるならば空自のUH-Xで、本来23.75億円の調達単価がほぼ2倍です。既存のUH-60Jの改修ですから、約45億ですから劇的なコストダウンができるわけがない。で、記者会見でも空幕長がいけしゃあしゃあと「劇的なコストダウンの方策はありません。がんばります」と発言する。

組織ぐるみで官製談合やっているとしか思えませんが、それが放置されてきた。

その悪癖を止めるための訓令ですが、概算要求でこの数字を平然とだすということは、内局もそれをオーソライズしたということで、それが全く機能していない。つまり当事者能力が欠如しているということです。

せっかくコスト管理のためのプロジェクトチームも作ったのにねえ。
仏作って魂入れず、です。防衛省、自衛隊には自助努力は期待できない。

そのくせぼくが報道して、個人衛生キットを改善する予算がつくと、メンツを潰された、永田町でやっている勉強会を妨害してやると陸幕長了解のもとかつての旧軍の陸式の憲兵隊気取りで圧力をかけたりします。

まったく民主国家の軍隊ならば首が飛ぶレベルの話ですが、これを小野寺大臣にもお話したら、清谷とは話をしないと。大臣が「軍人」トップの暴走に無関心らしいです。

そもそも、UH-XはOH-1ベースの川重案が官製談合で潰れて(当事者に詰め腹切らせて、トカゲの尻尾切で終わり)、仕切り直しをしたときに、我が国のヘリ産業振興のために、外資とジョイントで新型機を開発し、陸自がランチカスタマーとなって、リスクを減らして、民間で売れる機体を作ろう、つまり第二のBK117を目指したわけです。

ところが始めから契約が取れると慢心していた川重の自滅もあって、ベルがB412ベースでとってしまった。
そして初飛行が極めて古いUH-1が原型の機体で、しかも改修はベル側が行って技術移転もほとんどなく、海外でうれるとした想定機数も川重・エアバスの10分の1の150機。しかもその達成は極めて難しいでしょう。おそらく、スバルはこのプロジェクトで大赤字を抱え込む可能性があります。

どうもこれは首相官邸と官邸に媚を売った内局の合作で、官邸肝いりの使いみちもないオスプレイを導入するための費用の捻出のために、「安かろう、悪かろう」という案を選んだというお話らしいです。

同様に海のUH-Xも歪められて、これに意見した海幕長が逆に叱責される羽目に。
もうめちゃくちゃです。

そしてUH-Xが受注できなればヘリから撤退したであろうスバルのヘリ部門が温存されて、3社体制が維持されることになって、我が国のヘリ産業の統合への道がまたもや遠のきました。

言うまでもありもあせんが、我が国のヘリ産業3社(+エンジン2社)は防衛需要にぶら下がる寄生虫です。海外市場は愚か、国内の警察、消防、自治体すら川重とエアバス合弁のBK117除けば、全くの売上ゼロです。BKだって70年代の遺産です。この先、発展する予定がまったくない。50面晒して、漫画家めざすといいつつ、コミケで1冊も売れないような同人誌作って作家ヅラして、親にたかってオタクやっているのと同じようなニート3兄弟です

こういうニート3兄弟を税金使って、しかも何倍も高いコストを払って養うことに国益があるんでしょう。
そんな無駄金があるならば、奨学金やら母子父子家庭の親御さんの職業訓練やら雇用を促進したり、契約社員やバイト扱いになっている公務員を「正社員」として雇用するほうがよほど国益にかなっているでしょう。

ヘリ産業もそうですが、こういう無軌道な無駄使いが直らない連中に、自民党の国防部会のセンセイ方は予算を2倍に増やしてやれなんぞぶち上げておりますが、頭は大丈夫でしょうか。もっと無駄使いするだけですよ。
こういう現実も見ないでネトウヨ並の認識で防衛費2倍にしろというのはオナニーです。

今回のUH-Xはキャンセルすべきです。このまま採用されればモラルハザートはますます進み、1機20億とか30億円になる可能性もあります。あるいは初度費でインチキするか。

これまた何度もご案内しておりますが防衛省の「初度費」は初度費ではありません。
これは延々と払い続けることができることになっています理屈の上では20年も30年も払い続けられる。

これによって、装備調達がますます不透明になりました。
初度費のあり方も見直すべきです。

UH-Xは潰して、既成品を買うべきです。そうすればスバルのヘリ部門は潰れて、メーカーが1社ヘリます。
不要な装備調達で無駄に税金を使う必要もなくなります。

それともどうして無駄に防衛費を使いたい理由でもあるのでしょうか?


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年9月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。