ペルーの政界を牛耳るフジモリ家の凋落か?

白石 和幸


南米ペルーの法廷で最近でフジモリ元大統領の恩赦が取り消されるという出来事があった。それに追い打ちを掛けるかのように、彼の長女ケイコ・ソフィア・フジモリ・ヒグチ(43)が2010年から2011年にかけて政治資金に絡んで、彼女が党首を務める「人民勢力党(Fuerza Popular)」の組織を利用して資金を洗浄して大統領選挙に臨んだという容疑で9月10日、検察は彼女と同党の19人を拘束した。なお当時の政党名は「フエルサ2011(Fuerza2011)」だった。

一旦、保釈されたケイコ・フジモリであったが、11月1日に3年間の拘束が言い渡された。弟のケンジ・フジモリも父親の恩赦の為に他の議員の票を買収しようとした疑いがあり、それが裁判で明確にされるまで現在議員停止処分の身にある。

ケイコが拘束されるに至ったのも、ラテンアメリカで最大の汚職事件とされているブラジルの最大手ゼネコン、オデブレヒト社が絡んでいる。同社のCEOだったマルセロ・オデブレヒトが2017年12月の米国の法廷での供述の中にケイコが党首を務めるフエルサ2011にも献金していたことが明らかにされたからである。更にそれを裏付ける証拠として、彼の電子ノートに「ケイコに500まで増やせ」と記帳されているのが確認されているという。

検察の捜査でこれまで判明しているのはオデブレヒト社が120万ドル(1億3200万円)をフエルサ2011に献金したということ。その献金を隠蔽するために細かく分けてこれまで判明しているだけでも114人の同党支持者に分配され、それを同党への支援金あるいは党内で企画された宝くじの購入費用として使用されて、それが政治献金に変身する仕組みになっていたというのである。

ケイコは議会で最大の勢力を持った党首である。ペルーの行政や司法の分野においても最も影響力をもっている人物とされている。ところが、今年7月に某判事と検事が「K夫人」と特別に会合をもって彼女との間で違法的な合意を結ぼうという疑いがもたれる会話の録音が公にされたのである。

この「K夫人」というのがケイコ・フジモリであることは容易に推察できる。しかも、汚職で逮捕されて69日拘束されていた企業経営者アントニオ・カマヨが「K夫人」とはケイコ・フジモリのことであると取り調べで供述もしている。

ケイコへの支持はそれ以後下降線を辿っている。支持率も11%まで落ちている。先月初旬の地方選挙でも彼女の政党は惨敗した。それは、クチンスキー前大統領の後を継いだビスカッラ現大統領が汚職の徹底した排除を訴えていることが国民から次第に支持を集めているのとは対照的である。ビスカッラ大統領への支持率は61%に達している。

ケイコはビスカッラ大統領も彼女の政党の力で容易に打倒できると考えていたようである。しかし、現実にはビスカッラは次第に国民から支持を集め、ケイコは逆に支持を失っているというのが現状である。

また、検察当局もケイコと検事の癒着を払拭し、政治的な影響力は受けないということを国民の前にアピールする必要があった。そこで、その攻撃の対象にされたのが人気が下降し始めているケイコで、彼女を逮捕するということだったのである。

この事件が起きている間に、人民勢力党は議会に新しく法案を提出。刑務所での服役が3分の1以上経過した男性75歳以上、女性65歳以上は出監して残刑を自宅軟禁で刑を終えることができるという新しい刑法の制定を提唱。それが議会で最大勢力の人民勢力党が強引に可決承認させた。

これでアルベルト・フジモリは刑務所に戻らなくても済むようになると思われていたのであるが、法制化には大統領の署名が必要であった、ビスカッラ大統領はそれが十分に審議されてないとして署名を見送り、再度議会で審議せねならなくなったのである。今度は議会で可決すれば大統領が署名しなくても法制化される。しかし、これも国民の前にフジモリ勢力を挫く一つの策であろう。

その間、アルベルト・フジモリは刑務所に戻るのを避けるために入院している、

ペルーが極度の経済危機に包まれ、テロ組織が活発に活動していた1990年代にアルベルト・フジモリが大統領としてペルーを救った。特に、その貢献は貧困層に根強く記憶されている。しかし、今回のケイコ・フジモリの逮捕は彼女が率いる政党の衰退を導く可能性は充分にある。また、次期大統領のポストを目指していたケイコ・フジモリの政界からの引退を余儀なくさせられるであろう。