『未来の稼ぎ方』(坂口孝則 幻冬舎)が秀逸すぎる

娘はすくすくと成長している。まだ1歳と4ヶ月。彼女が成人するころ(そもそも、その頃の成人の概念が気になるけど)、社会はどう変化しているのだろう?

「そうか、そういうことだったのか」
読者は、きっと、こんな読後感を抱くのではないか。日本テレビ『スッキリ!!』のコメンテーターとしてもおなじみのサプライチェーンコンサルタント坂口孝則氏の新作(来週もドン・キホーテに関する本が出るそうだが)は、タイトルからすると、未来予測本のように思えることだろう。

 

実際、この本は優れた未来予測本である。2019年から2038年にかけて、その年に何が起こるのかを予測し、その意味、インパクト、ビジネスチャンスなどを分析している。

なんせ「稼ぎ方」という切り口が秀逸だ。「未来予測」はどうしても、ホラーストーリーになってしまいがちだ。特に最近の未来予測は、AIや(日本における)人口減少や少子化、高齢化に関する話に終始しがちである。それだけ大問題だということなのだけど)。「稼ぎ方」とすることで、変化を(可能な限り)ポジティブに捉え、どうチャンスに結びつけるかということを考えることができる。読者は少しだけ明るい気分になるだろう。

「歴史とは現在と過去との絶え間ない対話である」というE.H.カーの言葉は、あまりに有名だ。私の世代は、受験参考書でこの言葉を知ったのだけど。「人間は自分自身の歴史を創るが、しかし、自発的に自分で選んだ状況の下で歴史を創るのではなく、すぐ目の前にある、与えられた、過去から受け渡された状況の下でそうするのである」と記したのは、マルクスだ。現在と過去はつながっている。特に後者においては、構造決定理論も、主意主義も否定しているのだが。

この本は「未来予測」と言いつつも、実は現代の、民間人にとっての「なんとなく気になる」キーワードの持つ意味について深い解説をしている点が秀逸である(と私は評価している)。AI、自動運転など最近の気になるキーワードが未来にどうつながるのかがいちいち面白い。まさに、過去と現在、そして未来の対話がここにはある。事実を的確に捉え、そこに意味付けをしていく、坂口孝則氏の深い知識と慧眼にはただただ脱帽する。

年末年始が近づいてきた。ビジネス雑誌が2019年の予測特集を組むシーズンだ。私は毎年、これらを全部買い、読み比べることを恒例行事にしているのだけど。今年はこの本を読んでこの先20年に起こる変化と、現代とのつながりを考えることを激しくオススメする。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2018年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。