ゴーン元会長は「強欲な独裁者」か「陰謀の犠牲者」か

池田 信夫

日産自動車のカルロス・ゴーン会長が東京地検特捜部に逮捕された事件は、世界に衝撃を与えた。逮捕の直後に海外の豪邸を会社の費用で購入して使っていたなどの話がマスコミに流れ、「ゴーンは強欲な独裁者」というイメージができているが、これは一面的だ。

他方、彼が逮捕の3日後に臨時取締役会で解任されたことを「ルノーの支配強化をきらう日産経営陣の陰謀だ」と批判する海外メディアが多いが、これはお門違いである。違法行為があったのなら、陰謀だろうとクーデターだろうと、解任するのは当然だ。まだ起訴もされていないので全容は不明だが、ここでは3つの疑問を考えよう。

【1】なぜ今逮捕したのか

多くの人が驚いたのは、世界的な大企業の会長をいきなり逮捕したことだろう。逮捕容疑は有価証券報告書の虚偽記載という金融商品取引法違反で、これを「形式犯」だとか「別件逮捕だ」と批判する向きもあるが、罰則は10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金で、オリンパスの元会長が金商法違反で逮捕された前例もある。

ゴーン元会長は外国に居住しており、国内に拘束する必要もある。グレッグ・ケリー元代表取締役も一緒に来日する機会は少ないので、検察はそれをねらったのだろう。西川社長の記者会見では「今年(2018年)3月ごろ内部通報があり、社内で調査していた」という。今年6月から司法取引が実施されたことがきっかけだったと思われる。

他方で、社内政治の側面もある。フランス政府はルノーの最大の株主だ。ルノーは日産株の43%を保有し、日産はルノー株の15%を保有する「ねじれ」状態だが、フランスのマクロン大統領はルノーの経営に介入しようとしてゴーン元会長と対立した。

今年ゴーンCEO(最高経営責任者)の任期を2022年まで延長したとき、フランス政府は「ルノーと日産の関係を後戻りできない不可逆的なものにする」という条件をつけた。これはゴーンCEOの個人的なカリスマ性で統合されているルノー・日産グループを経営統合することと思われるが、ゴーン元会長はこれを飲んで任期を延長された。

このとき以降、彼は日産を経営統合する動きを強め、これに反発した経営陣がクーデターを起こした、というのが海外メディアの陰謀論だが、これだけでは刑事事件にした理由を説明できない。先週の取締役会も全会一致でゴーン会長とケリー代表取締役の解任を決めており、違法行為があった疑いは強い。

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