欧州で反ユダヤ主義の拡大を懸念

欧州で反ユダヤ主義が拡大してきた。欧州に住むユダヤ人を対象に欧州連合(EU)の欧州基本権機関(FRA)_が調査した結果が10日、ブリュッセルで公表された。それによると、多くのユダヤ人は自身の身辺を心配せずに欧州に住むことができなくなってきたと感じている。FRAの調査報告によれば、欧州居住のユダヤ人はバンダリズム、中傷、威嚇、暴力などに直面している。反ユダヤ主義の最大の舞台はインターネットやソーシャルネットワークだという。

▲反ユダヤ主義の拡大を警告するFRA報告書(FRA公式サイトから)

FRAの調査は、EU12カ国に住むユダヤ人1万6395人を対象に、今年5月から6月の間実施されたもの。オーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、オランダ、ポーランド、スペイン、スウェ―デン、英国の12カ国だ。

調査報告によると、「欧州で過去5年間、反ユダヤ主義が急増してきた」と感じるユダヤ人は63%、「少し増加した」は23%。45%は反ユダヤ主義は「非常に大きな問題だ」と受け取っていることが判明した。

また、40%は「暴力による襲撃を受けるのではないか」と懸念。そのうち2%は過去12カ月の間で実際襲撃されている。質問を受けたユダヤ人の38%は「安全のために移住しなければならない」と真剣に考えている。反ユダヤ主義的出来事が頻繁に生じていることもあって、「ユダヤ人であるという事実だけで統計上ネガティブな出来事に対峙する危険性が高い」という受け取り方がされている。

頻繁に聞かれる反ユダヤ主義的扇動パローレ(言葉)は、①イスラエルは、ナチ・ドイツ政権がユダヤ人民族にしたように、パレスチナ人にしている(51%)、②ユダヤ人は余りにも多くの権力を持っている(43%)、③ユダヤ人はホロコースト(民族虐殺)を自身の利益のために利用している(35%)だ。

参考までに、12カ国の中で、「反ユダヤ主義が大きな問題」と受け取っているユダヤ人はフランスで最も多く95%。「反ユダヤ主義が拡大した」と受け取っているユダヤ人は93%に達した。ドイツでは85%、89%だった。「反ユダヤ主義が大きな問題か」という質問に最も数字が低かった国はデンマークで56%だった。

オーストリアでは3分の1は「ユダヤ人は金融界で大きな権利を享受している」と受け取っている。ポーランドやハンガリーではその数字は40%にもなる。ホロコーストに対する啓蒙活動が乏しく、よく知らない欧州人が増えている。例えば、18歳から34歳の若いドイツ人の約40%はホロコーストについて余り知らないことが明らかになった。

ドイツでは反ユダヤ主義の言動で告訴された件数は年平均1200件から1800件だ。これまでその90%は極右派グループやネオナチたちの仕業だったが、「過去2年間でイスラム系住民の反ユダヤ主義の言動が増えてきた」という。

2年前といえば、2015年、100万人を超える中東・北アフリカ諸国からのイスラム系難民がドイツに殺到した時期と重なる。だから「イスラム系難民の収容は反ユダヤ主義を輸入したことになった」という見解が出てくるわけだ。

多くの難民は反ユダヤ主義が社会に深く刻み込まれたアラブ諸国から来た人たちだ。彼らは母国で「ユダヤ人は悪魔だ。世界の悪はユダヤ民族の仕業だ」といった教育を小さな時から受けてきている。ドイツ治安関係者は「アラブ系住民のユダヤ人憎悪は深刻なテーマだ」と主張しているほどだ。

ドイツに住むユダヤ人たちは反ユダヤ主義が拡大してきたことを受け、キッパ(Kippa、男性が被る帽子のようなもの)などユダヤ教のシンボルを身に着けない、公共の場でヘブライ語を喋らない、といった危機管理に乗り出している。また、学校でイスラム系生徒からモビング(嫌がらせ)されたユダヤ系生徒は学校を移り、私立学校に転校するケースが出てきている。ユダヤ系家庭では子供が誕生してもユダヤ系と分かる名前を避ける傾向すら出てきているという。

EUは先週、域内で拡大する反ユダヤ主義に対する闘争を呼びかける「共同声明」を採択した。EU内相会議で欧州のユダヤ人とその関連施設の保護強化を要求する一方、反ユダヤ主義に対抗する包括的戦略を構築し、実践すべきだと加盟国に呼びかけている。

エルサレムのサイモン・ヴィーゼンタールセンターはEUの共同声明を評価し、「歴史的な声明だ。関係国は即、それを実行に移すべきだ」と主張した。ちなみに、イスラエル外務省も世界ユダヤ会議(WJC)も欧州の「共同声明」を歓迎するコメントを出している。

反ユダヤ主義は欧州だけではない。米東部ペンシルベニア州ピッツバーグのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)で10月27日、銃乱射事件が発生し、礼拝に参加していたユダヤ人ら11人が犠牲となった。犯人は「全てのユダヤ人を殺したかった」と述べている。

キリスト教社会の欧州ではユダヤ民族は、救い主イエスを殺害した民族の烙印を押され、久しく憎悪の対象となってきたが、旧約聖書を読んでも分かるように、イエス誕生前から反ユダヤ主義はあった。

ユダヤ民族はナチス・ドイツ軍によって同胞600万人を失い、ホロコーストから生き延びたユダヤ人は、死者に対して良心の呵責を感じながら生きてきた 悲しいディアスポラだ(「ユダヤ人が引きずる『良心の痛み』」2018年2月19日参考)。ユダヤ民族への根拠なき反ユダヤ主義は根絶されなければならない。