話し方の達人に学ぶ沈黙の使い方
「話しはじめる前から、われわれはすでに値踏みされているのだ」。この一節はデール・カーネギーの『話し方入門』(創元社)にある言葉である。
「この本の中で、カーネギーは話しているときの重要なポイントとして、話の前後に沈黙を置くことを推奨しています。そして、アメリカ合衆国の大統領だったリンカーンの演説を引用し、『リンカーンは重要な話をする前はしばらく沈黙してから、重要な話をして、人々を引きつけた』ということを説明しています。」(谷原さん)
「確かに、話している途中で、相手が突然沈黙をすると、『なんだろう?』と思います。そして、いっそう相手に注意を向けることになります。注意を向けた結果、『次に相手が話すことはとても重要なことではないか』と意識するようになります。」(同)
谷原さんは、話している途中で、特に相手に注意してもらいたいときには、その前にいったん間を置くことによって相手の注意を引きつけ、あとで重要なことを話し出うのが有効だと解説する。これは、スピーチやセミナーにも応用できる。
「スピーチやセミナーでは、必ず重要なポイント、相手に覚えておいてもらいたいポイントがあるものです。そのポイントを話す前に、少し沈黙を置くことによって、聴衆や受講者の注意を講師に向けることができるのです。」(谷原さん)
「セミナー講師の中には、沈黙を嫌って、『えー』という言葉でつないでしまう人もいますが、そうすると沈黙の劇的効果は発揮されません。無音の状態を作ることで、受講者たちの注意が次の発言に集中すると考えるべきだと思います。」(同)
振りかえりには録音を聞くのが一番
日常会話の中でも「えー」とか「えーと」という言葉がクセになっている人を見かける。たいていの場合、自分では気づかないもの。自分が「えー」という言葉を多発していないかどうか、周囲の人に聞いてみることをおすすめする。あるいは、自分の普段の会話やスピーチなどを録音してみるといい。日々注意するしかない。
本書では著者が長年培ってきた会話と交渉のテクニックに加えて、心理学の考えとテクニックを盛り込んでいる。ビジネスの現場からプライベートまで、さまざまなシチュエーションで活用できる。話しすぎて後悔している人には必見である。
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
※筆者11冊目の著書『即効!成果が上がる文章の技術』(明日香出版社)は、発売2週間で3刷と好調です。応援していただいた皆さまに御礼申し上げます。