「マドリードの象徴」中国資本買収後に工事中断トラブル

スペインの首都マドリードを訪問した経験のある人は必ずスペイン広場を訪問するはず。そこにはドン・キホーテとサンチョ・パンサの像を見ることができる。その像を正面から見ると、直ぐ後ろに横幅の広い背の高い建物に気づくはずだ。エディフィシオ・エスパニャ(Edificio España)と呼ばれているマドリードを象徴する建物である。

エディフィシオ・エスパーニャ(Wikipedia:編集部)

この建物をマジョルカ島に本社を構えるリウ・ホテルチェーン(RIU Hoteles)がスペインの不動産業者バラカ不動産グループを介して中国の大連ワンダグループから昨年2億7200万ユーロ(354億円)で買収。4つ星のホテルにするための改装工事が進められていた。

ところが、この買収を仲介したバラカ不動産グループがこの建物の中で店舗など予定している床面積15000平米の商業ゾーンがバラカの名義でリウが登記することを拒否しているとして裁判所に異議を申し立て、更に改装工事もマドリード市役所が規定した基準に従わずに改装工事をしているとして訴えを起こしたのである。

その為、それを詳細に検証するべく判事によって改装工事の中断命令が11月27日に下って現在工事は中断している。ホテルの営業開始を来年8月に予定していることからその遅れが懸念されている

(参照:elpais.comeleconomista.es等の現地報道)。

エディフィシオ・エスパニャは1948年に建設工事が始まり、当時の最新技術を駆使してオタメンディ兄弟(建築士ホセ・マリア・オタメンディと設計士フリアン・オタメンディ)によって5年の歳月をかけて建設された、高さ117メートル、地上27階の建物である。多機能な商業を目的として建設されたもので、そこでホテル・クラウン・プラザも営業していた。

ところが、21世紀に入ってからは建物はマドリードのシンボルとして存在してはいるが、商業面では下火となり建物は閉鎖された。

この10年余り閉鎖した状態が続いていたが、2014年に中国の富豪王健林がオーナーの大連ワンダグループがこの建物を2億6500万ユーロ(345億円)で当時の持ち主サンタンデール銀行から買収(参照:elconfidencial.com)。

王健林はこの建物をデラックスマンション、5つ星ホテルそして商業店舗に変身させる目的で買収したのだ。彼の計画では、この建物を一旦壊して改築することとし、その場合に正面の面は再現させるとした。(参照:idealista.com)。

というのは、元判事のマヌエラ・カルメナが市長を務めるマドリード市役所は、歴史的重みのあるの建物エディフィシオ・エスパニャの正面の面を残すことを条件に改築のための工事の認可を出すとしたからである。

スペインでは建築基準法で歴史的に重みのある建造物を改築する場合は正面の面を残して改築するというのが条件になっている。だから正面から観ると古い建物のように見えても一旦中に入ると現代風の建築構造になっているというのは良くあることである。

マドリード市役所の方針で、正面の面は残すことが義務となっているこの姿勢を前に、王健林はそれでは自分の夢は果たせないとしてエディフィシオ・エスパニャを売却することを決定。それに関心を示したのがバラカ不動産グループであった。資金力に問題あるとされているバラカ不動産は買収した後、すぐにリウ・ホテルチェーンに売却することにしたのであった。

問題はこれ以後の双方の間で発生するのである。バラカ不動産は今夏8月、ホテルとして改築しているエディフィシオ・エスパニャの工事の中断を裁判所に申し出たのである。しかも、この建物の中で商業店舗に予定されている15000平米の商業ゾーンは同社が所有するもので、それをリウが拒否してバラカ不動産の名義での登記を拒否していると訴えたのである。

それに対して、リウはバカラの名義でそれを登記もすることは出来ないと回答。この商業ゾーンはリウが所有するものであって、バカラがこの商業ゾーンに関して署名したのは、この商業ゾーンを購入したいという企業を探して売却するという斡旋業務を遂行することであった。リウはその結果を出すことをバカラに再三要求したが、バカラはそれに応えなかったと回答したのである。(参照:eleconomista.es

即ち、リウの説明によると、大連ワンダグループからバカラ不動産が購入したエディフィシオ・エスパニャは商業ゾーンも含めすぐにリウ・ホテルチェーンに転売されたのであって、その中で商業ゾーンだけ別枠で切り離して転売されたのではないということなのである。そしてこの商業ゾーンを誰かが購入した際に、リウはバカラにその手数料を支払うということだと説明したのである。(参照:idealista.com

また、建材及び建築技術協会(INTEMAC)が規定している改築基準をリウが満たすことなく工事をしているというバラカの指摘に対して、リウはそれを否定し、「建物は当時の建設レベルにおいては代表例になるくらい上手く建設されているし、現在まで素晴らしい状態で保存されている」と述べた上で、「それでも、まだ深く掘り下げたリフォームが必要だ。そのために、基礎、柱、梁、鋳造を補強している」と回答してたのである。(参照:elpais.com

これからマドリードの裁判所での判事の採決を待つばかりとなっている。

カタルーニャが独立機運が盛んで、その影響を受けて投資はマドリードの方に向けられている。その影響もあって世界で最大観光国の一つスペインでもマドリードに世界を代表するホテルの進出が続いている。そのような雰囲気の中で、その勢いを便乗してマドリードでも都市型の本格的ホテルとしてリウ・ホテルチェーンはその第一歩をこのホテルの建設で踏み出すことにしているのである。