株式市場の弱気はトランプのみにあらず

岡本 裕明

それにしても目を覆いたくなるほどの惨状、と言ってもよいのが株式市場であります。これを書いている24日のNY市場は今日も変わらず600ドル以上下げており、ここまでくると「またか」という反応しか出てきません。特に今日は市場参加者が極めて限られるため相場は一方通行になりやすく、これを受ける東京市場も大荒れの展開が予想されます。

この状況を引き出したのは直接的にはトランプ大統領なのかもしれませんが、私はもともとピーク感があった北米景気に大統領がいらぬ細工をしようとしていることがそもそもの発端、と思っております。つまり、ボトムラインでは誰が大統領であれ、この弱気相場は避けれらなかったのかと思います。

私の会社が入居しているシェアオフィス。30社ほど入っていますが、その中でよく話をする一人が「ビジネスはどうだい?」というので「エキサイトするほどではないけれど安定しているよ」と答えると「お前のところぐらいだよ、ここにいるどの人も落ち込んでいると嘆いているよ」と。

今、私は事業用不動産を探しており、ある不動産屋とやり取りしているのですが、やけに丁寧でフォローアップもしっかりしています。この前会った時も「今不動産を買う人はいないからね。値引き交渉、かなり行けると思うよ」と食らいついたすっぽんのように年中連絡をよこします。

何故、今になって急カーブを描くように状況が変わったのか、私が思うところ、巷に言われる様々な理由以外に労働力と賃金に原因がある可能性を考えています。

北米の労働市場がひっ迫していることはすでにご承知と思います。特に専門分野の人材となると全くいない、と言ってもよい状況にあります。そこで起きるのは他社からの引き抜きを含めた人件費の上昇であります。おまけにアメリカ、カナダの各州が定める最低賃金もどんどん上昇しているため、労働力に左右される業種の価格は否が応でも引き上げられていきます。これに消費者がついていけなくなったことは否めない事実かと思います。

例えばバンクーバーの不動産がなぜ高い、といえば建設ラッシュで工事の監督や作業員の人件費が暴騰しているためであります。多くのアナリストは不動産需要があるから、と分析しているのですが、それ以外に、供給側の事情により価格が上昇、中古物件の価格もこれに引きずられ全般的に高くなった要因がもっと大きい、というのが私の見方です。政府は高くなった住宅をどうにかしなくてはいけない、と言いますが、雇用政策や工事の安全対策のルールをより厳しくしてきたわけで自分で自分の首を絞めたともいえるわけです。

英国とトルコで日本企業が受注していた原子力発電所事業が暗礁に乗り上げていますが、これもかつてはなかった安全対策費などで建設コストが暴騰したとされます。オリンピックをどの国もなぜ誘致したがらないか、といえば当初見積もりに対して10倍になっても不思議ではない安全対策費用が問題なのです。

言い換えれば労働集約型の業種(建設、飲食、ガードマン、運転手など)は何でも高くなりすぎて個人消費者や企業がすくむ状態になっている、というのが私の注目点です。

ただ日本はエアポケットのように物価が上がらない国なので私の書いているこの意味もなかなか実感として伝わらないかもしれません。

では冒頭の下落する株式市場とどう関連付けるのか、ですが、結局アメリカの株式市場は様々なコストが上昇する中、消費者の背伸びがもう限界になった状態のバブル現象だったとみています。そこに金利上昇で人手不足とくれば泣きっ面に蜂であります。そのバブリ具合の尺度は難しいところですが、それが剥がれ落ちるまで調整が進む可能性は否定しません。

ただ、このところの下げ幅は尋常ではないのでどこかで反騰するとは思いますが、小手先の対策ではなく、抜本的なところで何かやらないと無理だと思います。一番良いのはパウエル議長が市場寄りの声明を出す、そしてトランプ大統領の議長信任への懸念を一旦払しょくすることでしょう。こんなクリスマスプレゼントは期待薄なのは勿論、わかっていますが。

では今日はこのぐらいで。皆様、メリークリスマス!

また明日お会いしましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2018年12月25日の記事より転載させていただきました。