これも刑事司法改革の成果なのかしら、と見ている。
私が法友全期会の代表幹事として法友全期会10周年記念事業の一つとして刑事弁護マニュアルの出版を決めた当時は、権利保釈と言いながら実際上はなかなか保釈が認められないで、少なくとも第1回公判期日までは起訴勾留の状態が続くのが普通だった。
否認事件で保釈が認められるという事例を私は経験したことがない。
逃亡の虞も証拠隠滅の虞もないから保釈を認めよ、などといくら裁判所に求めても、検察官が裁判所に保釈不相当という回答をしてくると、裁判所は被告人が否認しているから証拠隠滅の虞があると認定して保釈請求を却下するのが例だった。
ケリー氏は事実関係そのものは認めたうえで、法の解釈を争い、金融商品取引法違反を否認しているということのようなので、裁判所は証拠隠滅の虞がなく、しかも逃亡の虞も事実上ない、ということで保釈を決定したのだろう。
自白するまで身柄を拘束する、といういわゆる人質司法の典型にならなかったことは、日本の司法の健全性を示すためによかった、と言うべきであろう。検察当局の準抗告を裁判所が認めなかったこともよかった。
どうやらケリー氏は脊椎に病を抱えておられたようである。
既に手術の予定が組まれていた、ということだから、そういう病人を特段の事情がないにかかわらず拘束し続けることは人道上も問題があったはずだ。
おそらく、ケリー氏は検察当局の今後の取調べには応じる旨の上申書を提出しており、弁護人もこれを事実上保証しているはずである。
金融商品取引法違反に当たるかどうかは裁判所の判断に委ねざるを得ないが、審理に当たっては被告人側にも十分な準備をさせる必要があり、別件での逮捕や勾留がないのに、徒に被告人の身柄を拘留し続けるのは、やはり許されるべきではない。
そうか、公判前整理手続きの導入で刑事司法の実務がこんな風に変わっていたのか、と改めて感じ入っているところである。
編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2018年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。