マインドフルネスは、マサチューセッツ大学医学大学院(英語版)教授の、ジョン・カバット・ジン(Jon Kabat-Zinn)によって確立された理論になる。仏教がベースとなり心理学をミックスさせることで、ストレスに対応する手段としてマインドフルネスを提唱した。ビジネス、瞑想、スピリチュアル、など活用領域もひろい。
今回は、『マインドフルネスと7つの言葉だけで自己肯定感が高い人になる本』(廣済堂出版)を紹介したい。著者は精神科医・医学博士の藤井英雄さん。対話形式・ストーリー仕立ての物語を通じて、ネガティブ思考を手放し積極的に生きるコツがまとめられている。近著に、ベストセラーになった、『1日10秒マインドフルネス』(大和書房)がある。
「自己肯定感」を決めるものは何か
マインドフルネスの瞑想は、Googleをはじめ、多くのグローバル企業で導入されて日本でも関心が高まっている。マインドフルネスを、うまく実行できれば、私生活は充実し仕事のパフォーマンスも向上すると考えられる。
「自己肯定感を決めるものは何でしょうか。子どものころであれば、親やまわりの大人たちが注いでくれた愛情や肯定の言葉、承認の態度です。愛されて育ち、自己肯定感を強化できた人はとてもラッキーです。しかし、自己肯定感が弱いからと、大人になった今、まわりの人に愛や肯定承認を求めてもうまくいきません。むしろ肯定してもらおうと行動するたびに、自己肯定感を弱めてしまうでしょう。」(藤井さん)
「自己肯定感が弱いとネガティブ思考をして落ち込んだり、不安になったりしがちです。そして『自分なんてダメだ』と自分を否定して、さらに自己肯定感を弱めるという悪循環になってしまいます。そんなとき、ポジティブに考え直すことができたら、逆に自己肯定感を強めることができます。」(同)
そこで「マインドフルネス」の出番になる。藤井さんは、ネガティブ思考の原因は心が「今、ここ」を離れてしまうことにあると解説する。思考が未来や過去に飛ぶことで、不安や憂鬱などを感じやすくなる。マインドフルネスで心を「今、ここ」に結びつけておけば、そんなネガティブ思考を手放すことができるだろう。
自分自身を見つめ直し掘り下げる際、「過去」に向き合う作業が必要になる。そのなかで見えてくるものがある。例えば、人の目を気にしすぎる人であれば、自分の気持ちを押し殺さないといけないような経験があったかも知れない。この出来事が今の敏感な自分をつくったきっかけかと感じることが大切になる。
なかには辛い記憶もある。嫌な記憶、忘れたい記憶を思い出すことになるかもしれない。しかしそんな経験をしたことも含めて自分が形成されている。掘り下げていくと、人間関係に敏感すぎる自分、異常に気にしすぎてしまう自分をつくったきっかけに出会えることがある。そこにトラウマが潜んでいることもある。些細な出来事でも、ずっとひっかかって影響を与えていることは少なくない。
「自己肯定感」という切り口について
2000年以降、多くの会社で成果主義人事制度が導入された。成果主義による組織活性化が期待されたが、むしろ制度上の矛盾を露呈する結果に陥った。社員のマインドは疲弊し将来のパスが見えにくく漠然とした不安が蔓延した。その後、成果主義を効果的に定着させる理論としてEQ( Emotional Intelligence Quotient)がブームになる。
当時、私はEQJapanという組織に所属していたが、この組織はEQ理論提唱者と共同研究をしていた世界唯一の研究機関になる。当時は、EQ理論を普及させる活動にまい進していた。その後、EQブームは収束していったが、新たな理論が台頭してくる。
「自己肯定感」は、EQ理論から派生したものと考えられる。「自己肯定感」は、EQでいう、私的自己意識と抑鬱性がミックスした領域。これらを上手くコントロールしていくには、楽観性やセルフエフィカシーが必要になる。炙り出すだけでは解決にはならないが、自分を形成している問題が特定されれば打ち手を見つけることは難しくない。
世の中には、本質的課題や阻害要因を炙り出すことができないアセスメントが多すぎる。こういうムダなものにコストをかけるなら、本書を読みながら正直に自分の気持ちに問いかけたほうが、間違いなく効果的であると申し上げておきたい。
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
※新刊情報(筆者11冊目の著書)
『即効!成果が上がる文章の技術』(明日香出版社)