預金、貸付、為替など、社会にとって重要な機能を担う「銀行」が不適切な業務を行えば、社会や経済に大きな影響をもたらす。だからこそ、金融庁による監視にとどまらず、メディアによる監視の目も必要だろう。
しかし、その監視の目の「焦点」にも注意が必要だ。
下記は12月25日付の毎日新聞の記事である。
「西武信金、投資用不動産に過剰融資か 耐用年数を法定の2倍に」
西武信用金庫(東京都中野区、預金量約2兆円)が投資用不動産融資で、中古物件の価値を実態以上に過大評価し、物件オーナーに過剰に貸し付けていた疑いがあることが24日、関係者の話で明らかになった。融資期間の目安となる耐用年数を法定の2倍程度に見積もり、長期ローンを行う仕組みを構築していた。
筆者は金融機関が行った個別の融資案件に対してその適正さを論じるつもりはないし、上記のような記事についてもその趣意は否定しない。 ただ、この記事中で過剰融資のポイントとされる「耐用年数を法定の2倍」という点について明確にしたい。
一般的に法定耐用年数とは、国税庁が定めた「税法上の減価償却資産の耐用年数」であり、建物が実際に「使用に耐えうる期間」などではない。
この法定耐用年数は、木造の住宅なら22年、鉄筋コンクリート等の住宅なら47年と定められており、冒頭で紹介した記事中にも「…耐用年数22年の木造賃貸アパート…」という記述や、「…鉄筋コンクリート物件(法定年数47年)…」という記述が見られるので、この記事における法定耐用年数の定義も、先述した「国税庁が定めた税法上の減価償却資産の耐用年数」であることが分かる。
繰り返すが、法定耐用年数とは建物が実際に使用に耐えうる期間ではなく、「国税庁が定めた税法上の減価償却資産の耐用年数」である。当然、建物ごとにその仕様、使用建材、修繕状況などによって使用に耐えうる期間は違うのである。
そもそもこの「法定耐用年数」で建物評価を行ってきた「慣行」自体が問題の根幹であるという声が非常に多い。
現在、官民ともに建物の耐用年数を見直そうとする動きがある。国土交通省が2014年に取りまとめた「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」では、住宅性能表示制度(新築住宅)の劣化対策等級2に相当する措置を講じた住宅で50年~60年程度の耐用年数を想定しているし、民間が行う「既存住宅インスペクション」などを利用することで、劣化の進行状態に応じて「築年数によらない評価上の経過年数」を設定することも考えられるとしている。
欧米に比べて経済的な評価額が低いとされてきた国内の建物が正当に評価され、中古住宅市場の活性化にもつながる建物評価方法の見直しこそ、「まさに今」官民ともに必要としている新たな指針そのものなのだ。
たしかに未だ金融機関の多くが「法定耐用年数」をもって、融資期間を定めているケースが多いことは否定しない。しかし、法定耐用年数を超える融資期間をもってして即、冒頭で紹介した記事のタイトルに用いられているような「過剰融資」にあたるとはいい難い。
西武信用金庫の融資が適切だったかどうかは分からないが、融資期間に法定耐用年数を用いない審査手法は、今後、ストック型社会(良いものを造って長く使う社会)を迎えるであろう日本にとって、実は歓迎すべきなのである。