米国経済は基本的に強いので米株下落を契機とする全世界規模の株価下落が長く続くとは思わない。しかし「万が一続いてしまったら」という仮定で頭の体操をしてみよう。
市場の乱高下を30年以上経験したリスクテーカーの考える一つのシナリオだ。ただ現時点ではメインシナリオではない。その点は注意してほしい。(ただ米株大幅下落が継続すればメインシナリオに替わる可能性にも注意が必要だ)
「景気には資産価格の動向がもっとも強い影響を与える」とはディラーとしての経験から長年私が主張してきたことだ。資産効果(保有不動産や株の値段が高騰すると人は金持ちになったつもりで消費を増やす。それを見て株価がさらに上昇し、好循環が起きる)なくしてはバブル期の日本の狂乱経済や昨今の米国の好景気は説明できない。
昨今、米経済が強いかった最大の理由は資産インフレが進行していたからだ。つい最近までは史上最高値の株価、強い不動産市況に完全雇用。狂乱経済といわれた1985年―90までの日本のバブル期と同じである。ともに消費者物価は低迷していたのに好景気(日本のバブル期は狂乱景気)だ
資産効果で好景気を支えていた株価が下落を始めると逆資産効果が起きる。この逆資産効果のすさまじさは、日本がバブル崩壊で30年間を失った経験からしても明らかだ。
ただ、簿価会計真っ盛りで、経営者が損切をできなかった(=損切を刷るとその時点で大きな損を計上せざるを得なくなる。前経営者の責任まで自分が被る)当時の日本と違い、時価会計が徹底している現在の米国では早めの損切でずるずると損が拡大することはなく、早期の立て直しが行われるだろう。
FRBは(日銀と比べると微々たる量的緩和しか行ってこなかったが)量的緩和からの出口が非常に困難なことを今回理解したので、異次元緩和に回帰することはないと思われる。米株下落が継続すれば2.25~2.50%に引き上げた金利を引き下げることにより対応するだろう。バランスシートの縮小は継続していくため長期金利は再度上昇に転じイールドカーブは立っていく。これにより、経済のインフラである金融機関の経営は安定し、これも景気の李バンドに役立つ。
したがって、たとえ株価が今後大幅下落が起きようとも、壊滅的状況にたどり着く前に株価と共に米経済は立ち直っていくと思われる。
問題は日本である。財政はすでに世界最悪、中央銀行は世界最大のメタボ(ともに対GDP比)状態では対応する手段がない。
この大幅株価下落で日銀保有の株は評価損になっているかもしれないし、少なくとも大幅に評価益が減少しているだろう。この状態で今まで通り株価の下支えのための株購入増に踏み切れる度胸があるか?さらに株価が下落していき保有株式の評価損が拡大したら大ごとだ。
長期金利はすでにほぼゼロ%。異次元緩和をすでに極限まで行っているが、国債の爆買いをさらに増やすとなると日銀の保有国債の平均利回りもさらに下がる。2017年度の保有国債平均利回りは0.279%(注:FRBの2018年1月~6月%保有国債は2.6%)しかないから長期金利が将来少しでも上昇すれば莫大な評価損を計上することになる。そうなれば日銀の信用も円の信用も地に落ちるから、「あとは野となれ生となれ」と思い切らない限りこれ以上、保有国債の平均利回りを下げる(=国債の高値掴み)との無理はできないだろう。そこまで日銀は無責任になれるか?
日銀になすすべがないとなると財政はどうか?すでに来年度100兆円を超える歳出が見込まれている。一方、歳入では税収は史上最高を計画しているが逆資産効果で景気低迷した場合、法人税をはじめ大幅な税収減が予想される。株価低迷で日本国債の利回りがゼロで推移すると地方金融機関の経営はさらに苦しくなる。来年度予算では預金保険機構から8000億円を一般会計に回すことを計画しているようだが、地銀倒産に備えてそのようなことはできなくなるだろう。消費増税延期となればさらに財政赤字は拡大する。今、国債の買い手は日銀のみといっていいが、前述したような状況の日銀が国債爆買い増しを行えるのか?
こう考えてくると、たとえ株価の急落が継続しても、出口に入っている米国は軌道修正でなんとか持ちこたえられる可能性がある。しかし日本経済は万事休す、だ。世界最悪の財政危機なのに財政再建を真剣に行わず、異次元緩和という危機先送り政策でその場しのぎをしてきたツケだ。日本売り(株、円、長期国債のトリプル暴落)の可能性がある。
最初に述べたようにこのシナリオはメインシナリオではない。しかし日本得意の飛ばしによる危機先送り策は極めて危ういという認識は持てるのではなかろうか?
もしこのシナリオが不幸にして当たってしまったら財政赤字を楽観視し、バラマキを継続してきた人災である。
編集部より:この記事は、経済評論家、参議院議員の藤巻健史氏(比例、日本維新の会)のFacebook 2018年12月26日の記事を転載させていただきました。転載を快諾された藤巻氏に心より御礼申し上げます。