2018年 私の10冊

毎年、書いている読書振り返りエントリー。「趣味の読書」で読んだ、「その年」に出た本の中から10冊を選ぶ企画。今年はこれ。


『知性は死なない』(與那覇潤 文藝春秋)
『試験に出る哲学』(斎藤哲也 NHK出版)
『情報生産者になる』(上野千鶴子 筑摩書房)
『労働者のための漫画の描き方教室』(川崎昌平 春秋社)
『ドキュメント候補者たちの闘争』(井戸まさえ 岩波書店)
『無子高齢化』(前田正子 岩波書店)
『未来の稼ぎ方』(坂口孝則 幻冬舎)
『今選ぶなら地方小規模私立大学!』(大森昭生・成田秀夫・山本啓一・吉村充功・高見大介  編集・報告 レゾンクリエイト)
『真説・佐山サトル』(田崎健太 集英社インターナショナル)
『柴田直人 自伝』(柴田直人 シンコーミュージック)

與那覇 潤
文藝春秋
2018-04-06



『知性は死なない』(與那覇潤 文藝春秋)は、與那覇潤の復活作。彼が病を乗り越えて放つ平成論。闘病記でもある。メンタルヘルスの問題を乗り越えた者として(そして、この問題と再び、今年、向き合った者として)勇気をもらった。このような問題と向き合っている者に対する誤解を取り除く本でもある。なんせ、彼の慧眼を堪能できる1冊。



『試験に出る哲学』(斎藤哲也 NHK出版)は、まさに大学入試を「倫理・政治経済」で受験した私にとって、たまらない1冊。わかりやすい哲学入門書。知的刺激に満ちた本。もうすぐ終わるセンター試験だけど、これはこれで良くできていたのではないかという気分になったり。難しすぎないし、簡単すぎない、バランスも素敵。

上野 千鶴子
筑摩書房
2018-09-06



『情報生産者になる』(上野千鶴子 筑摩書房)は、上野センセによる論文の書き方講座。…なのだけど、私はこれは「問いの立て方講座」だと解釈した。論文にしろ、ちょっと専門的な書籍にしろ、テーマ、問いの立て方がその完成度に大きく影響すると私は解釈している。具体的な調査方法や書き方の前の、このしつこいまでの問いの立て方に関する記述がいい感じ。優れた入門書でありつつ、徹頭徹尾、上野節が炸裂しておりいい感じ。もっとも、これを面白がれない人にとっては、ついつい批判したくなるだろう。教科書としてどうなのか、と。ただ、こういう入門書も私はアリだと思う。



問いを立てるという意味では、『労働者のための漫画の描き方教室』(川崎昌平 春秋社)もオススメ。この本、なかなか漫画を描かせてくれないところが、いい。ひたすら何を描くべきか自分と向き合う、という。別に漫画を描きたくなくても、物事の見方を変えたい人はぜひ。仕事や職場に悩んでいる人も。



今年、SNSを通じて知り合い、立憲民政党の都連の集会@後楽園ホールでご挨拶し、杉田水脈「新潮45」問題で一緒に院内集会まで開いた井戸まさえさんの『ドキュメント候補者たちの闘争』(岩波書店)は、「なぜ、ウチの選挙区には投票したいと思える候補者がいないのか?」という素朴な疑問に、専門的に答えている。参議院選を前に読んでおきたい。当事者視点での2017年の衆議院選の振り返りは大変に興味深い。現在の日本における選挙というシステムの問題点に鋭く、深く斬り込む1冊。



私も対談コーナーで登場している前田正子先生の新作は、少子高齢化の問題のそもそも論に踏み込んでいるのがナイス。婚活も妊活も保活も付け焼き刃でしかない。さて、ロスジェネをどうするか。



ここらで明るい本も。坂口孝則さんの新作は、変化の読み解き方、潮目の読み方について参考になる本。「未来」をテーマにすると、何かと「労働ホラー」というか、私たちの仕事はいつまであるのかという話になりがちだが、この本は変化をどうビジネスチャンスにするかという前向きな視点がいい感じ。「未来の」と言いつつも、今の変化を読み解くヒントになっているのもナイス。



『今選ぶなら地方小規模私立大学!』は、タイトルにあるような大学について一般論として語られる「そんな大学、行くのはどうなの?」というよくある俗流大学批判を華麗に吹き飛ばす1冊。ここまでカ考え抜かれたプログラムで、これほどまでに丁寧に教えてもらえるのだ、と。大学を考える上でチェックしておきたい1冊。

そして…。この本を出している出版社を立ち上げた女性2人にも拍手!このあたりのチャレンジもいい感じ。

田崎 健太
集英社インターナショナル
2018-07-26



最後の2冊は完全に趣味の本。田崎健太さんが佐山サトルに迫ったこの1冊は、まるでタイガーマスクの試合のように華麗で。いや、そうするためには、相当な準備と実力が必要なのは言うまでもないのだけど。謎の男、佐山サトルに関する発見がいっぱい。天才というか、変態というか。佐山的な物の見方というか価値観にインスパイアされたり。

柴田 直人
シンコーミュージック
2018-07-10



ANTHEMのリーダー、柴田直人氏の自伝は、日本の音楽シーンを振り返る上での貴重な資料でもあり。ジャパニーズ・メタルというジャンルが一時、大ブームになり。数々のミュージシャンに影響を与え。そして今も続いている。その光と影が痛いほどに伝わり。ファンならずとも、日本の音楽シーンがどう動いていたかを知るためにチェックするべき本だろう。

出版不況が叫ばれ続けているけれど。面白い本は、ある。こんな面白い時代に生きていることを喜びつつ、来年はもっと本を読もう。うん。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2018年12月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。