世界のローマ・カトリック教会総本山バチカンの今年の日程を紹介する。今月22日から27日の間、パナマで「世界青年の集い」が開催され、その後、法王として初めてアラブ首長国連邦を訪問、その後、3月はモロッコ、5月5日からバルカンのブルガリア、マケドニアの両国訪問が待っている。10月には司教教会会議(アマゾン会議)。日程はまだ決まっていないが38年ぶりの法王の訪日が予定されている。
上記の日程は法王の外遊計画だが、バチカンにとって今年最大イベントといえば、2月21日から24日まで開催される聖職者の未成年者への性的虐待問題をテーマとした「世界司教会議議長会議」だろう。アイルランド、オーストラリア、米国、ドイツ、ポーランド、オーストリアなど欧米教会でこれまで数万件の聖職者による未成年者への性的虐待事件が発生してきた。この数字はあくまで犠牲者が通達した件数に過ぎず、実数はその数倍ともいわれる。
カトリック教会はこれまで聖職者の性犯罪を組織ぐるみで隠蔽してきたが、カリスマ的法王ヨハネ・パウロ2世の死後、後継者のドイツ人前法王ベネディクト16世時代に入ってから次から次へと暴露されていった。その都度、教会側は形だけの謝罪を表明する一方、聖職者の性犯罪対策のための組織的刷新は行わず、嵐が過ぎ去るのを待って今日まできた感じだ。
そこで南米出身のフランシスコ法王が聖職者の性犯罪の全容解明を主張し、2月にバチカンとしては初めて聖職者の性犯罪を協議する司教会議議長クラスの会議を開くことになったわけだ。
フランシスコ法王は昨年12月、2月の司教会議議長会議に参加する司教たちに対し、「現地で聖職者に性的虐待を受けた被害者と必ず会見し、その実態を見てくるように」と強く要請している。観念的な会議ではなく具体的な対策を考えたいという法王の願いから出た発言だ。
それではフランシスコ法王はその手本を示すべきだろう。聖職者の性犯罪問題に取り組む姿勢を示す一方、フランシスコ法王自身は「ビガーノ書簡」に対し返答を避けてきた。同書簡はフランシスコ法王自身が友人の大司教の性犯罪を知りながら隠蔽してきた疑いを事実に基づいて記述してしているが、法王は沈黙している。米教会のマキャリック枢機卿は2001年から06年までワシントン大司教時代に、2人の未成年者へ性的虐待を行ってきたことが明らかになり、フランシスコ法王は昨年7月になって同枢機卿の全聖職をはく奪する処置を取ったが、それまでマキャリック枢機卿の性犯罪を隠蔽してきたという疑いだ(「『ビガーノ書簡』巡るバチカンの戦い」2018年10月8日参考)。
問題は数万件ともいわれる聖職者の性犯罪に対する犠牲者への賠償金支払いだ。治療費を含め、教会側は犠牲者に償いをすると表明してきた。当然だが、その償い資金は信者の献金から拠出されてはならない。信者たちが教会に献金するのは性犯罪を犯した聖職者の賠償金払いのためではないことはいうまでもない。米国教会では教会の不動産を売って性犯罪への賠償金に当てている教区があるが、これも問題だ。教会が購入し、保有している不動産や資金はもともと平信者の献金からもたらされたものだからだ。
それでは教会は犠牲者への賠償金をどのように工面できるだろうか。提案だが、バチカンが主導し、各国教会て若い聖職者を集い、建築現場や製造工場で働き、資金集めをすることだ。すなわち、バチカン主導の経済部隊を創設することだ。その部隊の総責任者は外部の専門家に依頼する。そこで得た資金は毎年、会計報告をし、聖職者の性犯罪の犠牲となった信者に渡す。そうなれば信者たちも納得できるだろう。譲ってならない基本原則は、平信者の献金は絶対に聖職者の性犯罪の賠償金の支払いに当てないということだ。
聖職者の性犯罪は今日、カトリック教会の最上層部まで及んできた。フランシスコ法王は法王就任直後、バチカン改革を推進するために9人の枢機卿を集めた頂上会議(C9)を新設し、教会内外に改革刷新をアピールしたが、9人の枢機卿のうち、少なくとも3人の枢機卿(バチカン財務長官のジョージ・ペル枢機卿、ホンジュラスのオスカル・アンドレス・ロドリグリエツ・ マラディアガ枢機卿、サンチアゴ元大司教のフランシスコ・エラスリス枢機卿)は今日、聖職者の性犯罪や財政不正問題の容疑を受けている。フランシスコ法王が主張する教会刷新の実相が如何なるものか、これで分かるだろう。「ビガーノ書簡」でも明らかになったように、フランシスコ法王の周辺にも性犯罪の容疑者が多数いるのだ。
最近では、カトリック教国のフランスでも聖職者の性犯罪問題が波及してきた。リヨン大司教区のフィリップ・バルバラン枢機卿は教区の神父の未成年者への性的虐待を告訴しなかったとして他の関係者と共に起訴された。容疑は神父の性犯罪を告訴せず、隠蔽した疑いだ。バルバラン大司教は既に2016年、同じ容疑で捜査を受けていた。
ここにきて1970年から80年の間、リヨン大教区で同じ神父による性犯罪の犠牲者となった10人の元教区ボーイスカウトが、神父を告訴しなかったとして同大司教を裁判に訴えたことから、再び公判が開かれることになったわけだ。原告側にはバチカンの教理省長官ルイス・ラダリア枢機卿も含まれる。
叩けば埃が出るように、カトリック教会では聖職者の性犯罪が多発している。教会から距離を置く信者が増え、教会脱退者が増加するのは当然の結果だろう。
カトリック教会を含むキリスト教会の慈善活動、奉仕活動は素晴らしいが、その裏で聖職者の性犯罪が行われ、教会上層部がそれを隠蔽してきたわけだ。聖職者の性犯罪件数からだけいえば、カトリック教会は組織犯罪グループと批判されても弁明できないだろう。
フランシスコ法王は今年、訪日する予定だ。ローマ法王はポップ歌手のスーパースターではない。ペテロの後継者の立場だ。その教会が聖職者の性犯罪で溢れている。救いが真っ先に必要なのは、ローマ法王を含む聖職者たちというべきだろう(「法王訪日前に聖職者の性犯罪公表を」2018年12月28日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年1月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。