震災から8年、企業のビジョンを優先して命の支援にふみきった西友

日本国内あらゆる地域で、わたしたちの生活のとなりにあるスーパー「西友」。

フローレンスは2011年から西友の支援を得て、共に親子に関わる様々な社会課題の解決に取り組んでいます。改めて、国内を代表するスーパーマーケットがNPOとの協働に求めるものは何なのか?

合同会社西友・企業コミュニケーション部 バイス・プレジデントの和間久美恵さん(写真左)にお話を伺いました。

お話を伺う中で見えてきたのは、地域のライフラインを担ってきた西友ならではの熱いビジョンと、NPO協働において不可欠である信頼の実績でした。


東日本大震災をきっかけとした出会い

駒崎:西友さんには、2011年からご支援いただいてもう7年になります。本当にありがとうございます。

西友さんと初めてタッグを組んだのは、東日本大震災の直後でした。

和間:日本中が騒然としていた時でしたね。

駒崎:我々は、福島の子ども達が放射線の心配があり外で遊べないと聞いて、屋内で思いきり遊べる「インドアパーク(屋内公園)」を作ろうとしていました。

SNSで「どこかにスペースはありませんか?」と呼びかけた時に、西友さんが「ザ・モール郡山」に空きスペースがあるかもしれない!と、いち早く反応して下さったんですよね。

下着屋さんの隣の空きスペースを貸してくださって、「ふくしまインドアパーク」をオープンできました。

ふくしまインドアパークの様子

和間:なんてニーズのつかまえ方がシャープで迅速な団体なんだ!と、当時西友社内でも絶賛でした。郡山は屋外で子どもが遊べないことが特に課題となっていた地域で、そこに偶然にも西友が運営する「ザ・モール郡山」があったことには運命を感じますね。

スーパーマーケットはライフラインを担う使命がある

駒崎:僕の妻の実家が郡山の近くだったので、「ザ・モール郡山」が街の中心コミュニティ施設であることを知ってました。「ふくしまインドアパーク」があの中にできたことがすごく嬉しかったことを覚えています。

それに、もしかしたら、国内でNPOと企業が初めてがっつり組んだ事例の一つなんじゃないかなと思います。

今でこそSDGs)などの流れでNPOとの協働に積極的な企業は増えましたが、当時は事例がなかった。そんな時代に他社に先駆けて西友さんがNPOとの協働に積極的に取り組んだのは、どんな背景からだったのでしょう?

※「持続可能な開発目標」…2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。

和間:NPOとの協働は2011年から13年にかけて非常に活発化しましたので、やはり震災は大きなきっかけでしたね。

ですが、西友がグローバルカンパニーである親会社ウォルマートの一員であったことが一番の背景だと思います。ウォルマートは、スーパーマーケットは地域のライフラインであるべきと考えています。どんな時も皆さんの生活を守るんだ、という使命感があります。

駒崎:やはりグローバル企業は、社会貢献があたりまえに企業遺伝子に入ってるんですね。

和間:東日本大震災でも、昨今の九州、北海道などの災害の際も、とにかく地元地域のお客様にどういう形で命につながる商品を届けられるか、ということを全店舗まったくぶれることなく常に考えていました。

駒崎:すばらしい・・・!

近年、日本は災害が日常化した時代を生きています。西友さんは、通常は小売業を営まれながら、有事の際にはNPOと連携して地域のインフラを担ってくれている。

和間:熊本地震の際は、現地行政から依頼があって避難所におむすびやパンを届けました。今夏の九州北部豪雨の時には、大分でお布団が濡れてしまって地域の皆さんが眠れない、ということで、ウォーターマットを何百も送りました。

駒崎:そういうニーズにいち早く対応できるってすごいですね。

和間:いち早くヘルプ要請をいただけるので。大分の時なんて朝の3時に連絡がきたので、朝一から即対応することができました。社内にノウハウも蓄積されています。

ポップなラッピング福祉車両が発信する、ポジティブさ

駒崎:国内災害時のインフラを担われる西友さんですが、まだまだ社会的に制度設計が追いついていない社会課題についても取り組んでいらっしゃいます。

その一例が、我々フローレンスとの協働です。

「障害児保育園へレン」の開設支援や、福祉車両の寄贈、「障害児訪問保育アニー」、新しい事業である「赤ちゃん縁組事業」へのご支援、そしてレジ募金を通じての「ひとり親支援」など、フローレンスのすべての事業は西友さんのご支援なくしては語れません。

障害児保育園ヘレンの様子

和間:フローレンスさんの事業領域は先進的で、国も民間もまだ手をつけられていない領域だからこそ、少しでもスタートアップが安定するようにと支援しています。

西友の名前があることで身近に感じてもらって、利用者や支援者がより広がれば良いな、という期待もあります。

駒崎:11月に開園した「障害児保育園ヘレン中村橋」にも西友さんのロゴが入った福祉車両を寄贈いただきました。福祉車両って車椅子だったり寝たきりの子ども達にとって登降園に無くてはならないものなのに補助は一切でない。非常に高額なので、本当にありがたいです。

和間:やっぱりあの車の素晴らしいところは、カラフルでポップでかわいいところです。ワクワク感があるところが、いいですよね。ヘレン号が街を走り回ることは、とてもポジティブな意味があると思います。

駒崎:そうなんですよ!医療とか障害の分野って、地味でひっそり目立たないのが美学みたいなとこがありますが、ヘレンの保育は、何よりも子どもたちの嬉しい、楽しい、ハッピーを大切にしたいので。

和間:反響大きいですよ。直接西友のほうにも、「車を見たよ!」という感想が入っています。たくさんの方が、障害児保育園って初めて聞くけど楽しそうね、と街で目をとめてくれているはずです。

企業のビジョンを優先して、命の支援にふみきった

駒崎:一方で、新規事業である「赤ちゃん縁組事業」については、支援について社内で見解が分かれたのではないかと思います。とても、ディープな課題なので。

子どもの虐待死のうち、半数は0歳0日児。産まれたばかりの赤ちゃんが遺棄されたり殺されたりするのを特別養子縁組で救いたい!なんて、僕が企業の担当者でもハードル高いなと思ったでしょう。

和間:おっしゃる通り、命に関わる非常にシリアスな問題で、もちろん大きな意義のある支援であるとの理解はあるものの、社内では「これ以前に、まだ、やるべき支援が他にあるのでは?」という意見も正直ありました。

でも、我々スーパーマーケットはファミリーのためにあります。

アメリカでは特別養子縁組家族もステップファミリーも珍しくありません。日本ではまだマイノリティかもしれないけど、いろんな家族のための支援というのは、西友がやる意義があると感じました。

駒崎:西友さんのご支援のおかげで、リアルに赤ちゃんの命、お母さんの命を救えていて、スタートから2年で約1300名の妊娠相談を受け、13組もの新しい家族が誕生しています。

事業を始めた頃は全くなかった法律も、制度を提案していって、欧米に30年遅れてようやく日本でも制度が作られようとしています。

和間:その子の人生がかかっていますから、1つのミスも許されない事業ですよね。産みのお母さんにとっても、迎えるご夫婦にとっても。丁寧かつ慎重に13件も積み重ねてこられて・・・スタッフさんの大変な努力があったと思います。

フローレンスさんとしてもこの赤ちゃん縁組事業は大きな決断だったと思うのですが、なぜやるべきと思ったのですか?

子どもの虐待を目の当たりにして、何かせずにはいられなかった

駒崎:病児保育や認可保育園事業を運営する中で、僕たちは予想外のことにたくさん出会いました。親御さんの育児うつとか、親御さんがいなくなっちゃったとか、驚くほど色んなケースが保育現場にはあります。

中でも、柔らかい子どもの肌にタバコを押しつけられた跡があったり虐待の痕跡を発見した時は、一番心がえぐられました。

子どもの虐待をなんとかしなきゃ、と強く思ったんですよね。

虐待死の事例を見るとほとんどが赤ちゃんの時に亡くなっている。だから生まれる前に介入しておけば産まれた時に亡くなったり、その後虐待されることもなくなるのではと思いました。

国内で、30年前から細々とやられている民間の特別養子縁組というものがあることを知って。フローレンスがやることでしっかり制度化し、セーフティネットを広げられるのではないかと思ったんです。

和間:病児保育から始まって、ヘレン、アニー、今回の赤ちゃん縁組。病児であったり障害児であったり、こどもの命に関わる分野にまっさきに切り込んでいく。それがフローレンスさんですね。

駒崎:こういう事業に理解を示してくれる企業さんは正直少ないんです。日本では命に関わる事業については尻込みすることが多いので。でも西友さんが、こうしたニッチな分野にインフラをつくりたいという私たちの背中を押してくれました。

和間:2011年からの、フローレンスさんとの信頼関係があったからです。いきなりでは、実現できなかったかもしれません。

時間をかけてコラボレーションやコミュニケーションを深めていくことで、わかりあってきました。それにもまして、フローレンスは地道に活動をして成果をあげているので、タッグを組んで間違いなかったという思いを持っています。

社会的信頼の高い企業からのバックアップがNPOを助ける

駒崎:NPO業界においても、西友さんとフローレンスの物語は示唆深いと思っていて。企業さんからしてもNPOってどんな輩かわからないし怖いかもしれません。でも、ちょっとずつ信頼関係を作っていって、一緒に社会を変えることができるんだよ、といいたいですね。

和間:今後、西友や企業に求めることはどんなことですか?

駒崎:大企業と比べると、社会的な知名度も信頼度も低い私たち一団体ではできないことが、企業さんと一緒ならできるんです。

例えば、先日、西友さんのご支援で「にんしん・養子縁組相談カード」を制作することができました

そのカードはドン・キホーテのような小売店だったり産婦人科だったり、これから色んなところに設置していきたいなと思っているのですが、そのカードに『このカードは西友の支援を受けて制作されました』と書かれていることに、ものすごく大きな価値があります。

駒崎:性や妊娠の相談窓口に連絡する時、誰だってこの団体は怪しくないだろうか?相談して大丈夫だろうか?と不安になると思うんですが、誰もが知っている「西友」という名前が書かれていると、ちゃんとした企業がサポートしているプロジェクトだと、安心してもらえる

他にも、西友レジ募金の取り組みで「フローレンスのひとり親家庭支援」を全国の方に知ってもらえることは、どれだけの広報になっているかしれません。

和間企業だけではできないことをNPOと。NPOだけではできない部分を企業と、ですね。新しいあたりまえをつくるために我々にお声がけいただければ、私たちも一生懸命学んで推進していきますよ。

いろんな家族の笑顔を目指す、34,000人の仲間

駒崎:マニアックな社会課題ばかりやってるように見えますが、何年かすると、それがきっとあたりまえになっているはずです。

では、最後に西友さん側が私たちフローレンスに期待することは何か聞かせてください。

和間:スーパーマーケットである西友は、いろんなかたちのファミリーの笑顔を実現したい、ひとりでも多くの地域の方を笑顔にしていきたいというビジョンを持っています。フローレンスさんと方向性がぴったり一致していますので、これからも先駆的な課題に取り組んでください。フローレンスさんの事業支援を通じて、私たちも初めて知る社会課題に向き合うきっかけとなります。

現状でも発信力をお持ちですけども、行政の動きを早めるためにも、情報発信を積極的に続けていってほしいと思います。それで世の中が変わっていくと思うから。

駒崎:西友さんにそういっていただけて、心強いです。

私たちの運営する障害児保育園や認可保育園、また訪問型保育の現場スタッフがよく言うんです。朝お子さんの保育に向かうため現場のある駅におりたつと、駅前に西友さんがある。保育園の近くに西友さんがある。それだけで、「今日も西友さんと一緒に仕事するぞ!」と安心するって。

これからも、共にあたらしいあたりまえを作っていきましょう。

和間:レジ募金を通じてフローレンスを知ったレジ担当のスタッフも、なにかボランティアしたいと言っていますし、西友荻窪店のスタッフは毎年クリスマスにヘレン荻窪にサンタクロースやトナカイの格好をしてサプライズ訪問することを楽しみにしています。

西友全国330店舗34,000人のスタッフの社会貢献に対する意識は年々高まっています。

ぜひ、現場同士もコミュニケーションを持ち、同じビジョンに向かって取り組んでいきたいですね!


西友の「社会貢献活動助成プログラム」においては、2011年からフローレンスの訪問型病児保育サービスを安価でひとり親家庭に届ける「ひとり親家庭支援プラン」の支援にはじまり、日本初の「障害児保育園ヘレン」の立ち上げ、2015年にサービスを開始した「障害児訪問保育アニー」の立ち上げ、そして2017年度からはサービスインから間もない「赤ちゃん縁組事業」の運営サポートも加え、各事業を継続して支えていただいています。

 私たち一団体ではできないことを、企業や寄付者の皆さんと実現していけることに心から感謝しています。これからも、たくさんの皆さんと繋がることで、社会変革のインパクトを大きくしていきたいと思います。

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編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2019年1月7日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。