航空会社、大人の飲酒管理時代完全終了:機長もCAもみんなで断酒へ

秋月 涼佑

日航機長、飲酒検査で替え玉 2年前 後輩に依頼、すり抜け(毎日新聞

最近、JAL、ANAともに飲酒にからむ不祥事のニュースが多い。

写真AC:編集部

発端は、10月末JALの副操縦士がロンドンのヒースロー空港で空港職員にとがめられ、飲酒の影響が残っていたのに、アルコール検査をすり抜けていたことが発覚し逮捕された事件からだっただろうか。

長きにわたる大人の運用

今までが大人の運用だったということだろう。操縦士やCA(キャビンアテンダント)という、誇りをもって仕事に取り組む乗務員を大人として信頼し、自己管理の性善説前提の運用を行ってきたということだ。

不祥事を受けてルールに厳格に管理し始めたところ、有り体に言えば、ホコリがぼろぼろ出てきたのだろう。

日本は諸外国に比べて無礼講の文化で、飲酒や酔っ払いに対してかなり寛容だ。

しかし、一歩国外に出れば、存外に厳しい国は多い。イスラム教の国では、飲酒を公に禁じている場合も多いし、おなじみのハワイでさえワイキキビーチでビールでも飲もうものならすぐポリスが飛んでくるはずだ。

今回の騒動の発端が外国の空港で外国人の職員に、飲酒の影響を見とがめられてということがいかにも象徴的なのだが、日本人が期待するレベルでの飲酒への寛容さはありえないということなのだろう。

ステイ先でのお酒は、厳しいフライト業務のせめてもの慰め?

飛行機の操縦士もCAも、ともに華やかで人気がある職業に異論はないだろうが、実態としては大変にハードな仕事でもある。特に、飛行機が年々大衆化するとともに、彼らの待遇もかつての特権的なもの(CAでもフライトの際はハイヤーの送迎があった時代もあった)から、かなり常識的なものになってきていると聞く。

スケジュールも過密化しつつあり、国内線であれば、最近は一日4路線をこなす場合もあるらしい。

私などは、飛行機で福岡と東京を日帰りするだけでもぐったりしてしまうわけだが、CAは、狭くて常に揺れる機内で立ちっぱなしでサービスを提供し続けるわけで、とても体力がなければ務まらない仕事でもある。

機長、副機長にしたところで、フライト前後の関連業務含めてその緊張感や疲労感というのは相当なものだろうと察せられる。

特に、ステイ先のホテルでの滞在も、我々がたまに出張するレベルならば気分転換なのだが、日常的に点々と家族と離れて無味乾燥なホテルの部屋で過ごすのもなかなか辛いものがあるだろう。

そこで彼らにとってのせめてもの慰めになってきたのが、ステイ先で夜食事をすることであったに違いない。

実際に各地方や外国の街で美味しいお店を知りたければ、彼らに聞けば良いというのはまぎれもない事実だ。通り一遍の観光情報を超えて横で共有され、蓄積された深い情報は大変参考になる。

顔馴染みのクルー同士が同じフライトになると、誘い合って食事会ということも良くあると聞く。

夜、訪問先の街で食事となれば、吉田類でなくとも一杯やりたくなる人情を理解しないとは言わない。

特にCAは、上級クラスのサービスでカクテルを作ったり、ワインを提供したりする関係で、ソムリエの資格をもつなど伝統的にお酒をたしなむ人も多いだけになおさらだろう。

お酒を飲める夜は、ほとんどなくなる?

日航は内規で乗務開始12時間前からの飲酒を禁止していたが、今後は24時間前まで拡大し、滞在地での飲酒を禁止。検知器も基準に応じて点滅するランプ式だったが、今後は具体的な数値が測定され、基準値超えなどの情報がオンラインで瞬時に把握できる機種の導入を急ぐとしている。(産経新聞

飛行機の乗務員の仕事の特性が“スタンバイ”の多さだ。スタンバイとは、急な機材のやりくりや病欠など乗務員の欠員への備えとしての、待機業務のことだ。他の業種からすると、自宅で待機しているだけで仕事になるのは羨ましい気もするが、いつ飛ぶかもしれないわけだからスタンバイ業務前もお酒を飲めない時間帯となるだろう。

いくらフライトは毎日ではないと言っても、スタンバイも含めると、お酒を制約なく飲んでよい日程は、ほとんど残らないのではないだろうか。

またCAもお客様へのサービスだけが仕事でなく事故やトラブルに対応するための保安要員という位置づけである。機長、副機長同様、安全を担うという役割を考えると、飲酒に対するルールは同様厳しくなることは間違いないだろう。

長年、厳しい業務をステイ先でのささやかな一杯という楽しみをよすがに、がんばって来た、機長、副機長、CA各位には大変厳しい時代の到来だ。

この際、いっそお酒をやめるほうが楽かもしれない

しかし考えてみれば、バスやタクシー、トラックの運転手さんなどは今でも当たり前に厳しくお酒と付き合ってきているわけである。実際に運送会社の方とお付き合いすると、たとえ本社勤務であっても、飲酒文化そのものが企業内に存在すらしないことに、他の業態と比べて考えると逆に驚かされたりもする。

写真・イラストACより:編集部

人の命を預かる仕事である以上、厳しいようだが、ここは徹底してもらうしかないだろう。

今までお酒を嗜む乗務員の方も、いっそ断酒してしまったほうが取り組みやすいかもしれない。

余談だが、作家の浅田次郎さんは、

お酒を一切飲まない。お酒を飲む時間、酔っ払う時間がもったいないからだという。

確かにお酒に酔ってしまうと、なかなか知的活動には取り組みにくい。そんな選択的決断もありえるのだろう。

余計なお世話だろうが、今回図らずもお酒から離れることとなった、航空会社乗務員の皆さんも、その分大きく時間が生まれるわけで、創作活動などに取り組まれるのも一興かもしれない。

ちなみに名作、「星の王子様」(サン=テグジュペリ)も「かもめのジョナサン」(リチャード・バック)も、飛行機乗りが書いた本である。

秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。