「JOC竹田会長 五輪招致で汚職に関与容疑」と仏紙が報道しているが、これがカルロス・ゴーン逮捕への報復でないかというのは、誰しもが感じるところだ。
もちろん、この汚職嫌疑は以前から語られており、ゴーン事件の報復として、でっち上げられたとかそういうことはありえないが、どこまでやるかという場合に政治的配慮はありえるわけで、今回の件がゴーン事件と関連がないとは言えまい。タイミングも保釈請求の前の日というのがいやらしい。
少なくとも、ゴーン氏にかけられた嫌疑よりは同じ灰色でもかなり黒に近いものだから、嫌な展開になってきた。
この事件は、東京五輪の誘致をめぐって、スポーツ界の実力者だったセネガル人のラミン・ディアク国際陸連会長の子である、パパマッサタ・ディアク氏が関与しているとみられるシンガポールの会社に200万ユーロ(およそ2億5000万円)を支払ったという件だ。
ラミン・パパマサッタ氏はJOCの竹田会長が2億3000万円をコンサル料として振り込んだシンガポールのブラックタイディングスのイアン・タン氏と親しい間柄であるとされ、東京五輪招致決定時に、パリで高級時計など約2000万円の買い物をしたといわれることも、竹田会長の送金がラミン・パパマサッタ氏の散財に使われた可能性が疑われていた。
そして、この件がフランスの司法で動き出したわけである。フランスのAFP通信や「ルモンド」は、JOC=日本オリンピック委員会の竹田恒和会長につき、来年の東京オリンピック・パラリンピックの招致をめぐる汚職に関わった疑いでフランスで刑事訴訟の手続きが取られていると伝えている。
竹田会長は「去年12月に聴取を受けたのは事実だが、聴取に対して内容は否定した」とするコメントを発表したが、すでに捜査ではおととしにも任意の聴取がされているようだ。
フランスからの要請に基づいて、東京地検特捜部が竹田会長をはじめ招致委員会の関係者から任意で事情を聴いたが、JOCは「招致委員会が行った金銭の支払いに違法性はなかった」とする調査結果を発表していた。
つまり、以前からくすぶっていた話であって、ゴーン事件の報復としてフランスの司法当局が動き出したわけでない。
ただ、東京五輪を目前に控えたJOC会長で、皇室関係者のことであるから、外交的な配慮も司法手続きを進めるか、また、どのように進めるかにあって配慮されないはずがない。
しかし、世界的な経営者でフランスの大企業のトップを、日本人なら逮捕しないような案件で、しかも、不法な行為であるかどうか意見が分かれるにもかかわらず、異様なかたちで逮捕し、VIPに相応しくない扱いで、勾留したままにしているとなれば、フランスでも遠慮は要らないという気分はさまざまなレベルで働いても不思議はない。
少なくとも、ゴーンがサウジアラビアの富豪に払ったものと比べて、灰色の程度はJOCの2億円のほうがよほど濃いのは議論するまでもないだろう。
韓国の徴用工判決でも、レーダー照射でも、ゴーン事件でもそうだが、非常識な扱いを外国人や企業にしたら、知恵を絞ってもっとも嫌がる報復措置とか、表向きにそうは言わないが脅しをかけるのは、日本以外では、外交の常識だ。ハーウェイの役員逮捕をめぐる中国政府のカナダ人への報復措置っぽい逮捕劇もそういうものだ。
無茶をやっておいて、「国内では自国の法律なり、やり方通りにやって何が悪い」と粋がっているむきも多いが、あまりにも危険なことなのだ。
もし逮捕状が出ても、日本は自国民をただちにフランスに送る義務はないが、第三国に出たとたん、竹田会長に対し、フランスからの要請に基づく逮捕状が執行される覚悟がいることになるわけだ。