何がしたいのか分からないまま、いつの間にか人生が終わってた

黒坂 岳央

こんにちは!黒坂岳央(くろさかたけを)です。
※Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

とあるはてな匿名ダイアリーのエントリーが、大きな話題を呼んでいます。リスクを恐れ、受動的に生きていたらいつの間にか40歳を迎え、「(今の自分は)小雨の降る午後のように、静かにただ夜を待つだけの時間。」と称しています。

人生を生きる上で、時間は不可逆に流れています。滝が逆に流れることがないように、時間も遡ることはありません。後悔のないように生きるには、どうすればよいのか?そのヒントがこのエントリーに秘められているように感じます。

2種類ある人の死

私達は資本主義社会に生きています。資本主義社会とは、「資源は限られた有限のもの」という考えに立脚するもので、時間やお金など限られた資産をみんなで分配し、皆自分が持っている分前で生きているわけです。

そんな資本主義社会での生存戦略の一つに、「社会の流れにうまく波乗りをする」という生き方があります。例えば親の望むままに良い学校に通い、良い学歴を得て、大きな会社に入り、安定的に生きる、というモデルもその一つでしょう。

何がしたいのか分からないまま人生が終わったによると、中高一貫の進学校に通い、大学を卒業しています。特段の荒波に飲まれず、普通に…いえ、普通以上に順調に人生の階段を登っているように思えます。

転落をしたのは就職。正社員就職をせず、「とりあえず時給労働」が、いつのまにかそのまま十数年経過したと言います。40歳になり、飲み食いには困らず、ゲームなどの娯楽も楽しめる、でももう先が見えてしまった。その時、突然に「あ、人生が終わった」と感じたと言います。

「人生が終わる」には2つの意味合いがあるのではないでしょうか?すなわち、「生物学的に死んでしまった時」、それから「やりたいことがなくなった時」です。彼は後者に当たる死を迎え、「死んでいないけど生きていない」と人生の状況を見ています。

人生でやりたいことがなくなる理由

「人生は何事もなさぬにはあまりにも長いが、何事かをなすにはあまりにも短い。」

という『山月記』の作者として知られている中島敦の言葉があります。これから先の人生で、もうやりたいことが何にもなくなってしまう…それはなぜなのでしょうか?

私はその理由に「豊かだから」という状況があると考えます。日銭を稼いで今日、明日食べるものにも困らず、街にはたくさんのおいしい飲食店が溢れています。無料で楽しめるコンテンツは世の中に溢れかえっており、その気になればネットでいくらでもコミュニケーションを楽しめる…このような状況では「何が何でもこれを成したい!」という、「野性的な気持ち」は鳴りを潜めてしまうのではないでしょうか。

野生の動物も、動物園に連れてこられて生活をするともう野生には戻れなくなります。ライオンも牙を抜かれてしまうと、もう狩りができなくなるのです。

本来、人類は生きるために、命をかけて必死だという歴史があります。度々襲われる天災、飢餓、病気、戦争…こうした「いつ死ぬか分からない」という状況下で、その日その日を一生懸命生きる時間を、有史300万年続けてきました。戦後の経済発展で、日本は豊かになりました。それにより、戦争や病気、飢えで亡くなる人は減り、「食べるものがなくて餓死しそうだ」というハングリーさはなくなってしまった…。

私は本質的には、このハングリーさがなくなってしまったことが、「何がしたいのか分からない人」を大量に作り出してしまったのではないかと思うのです。

未来を俯瞰することで、やりたいことは生まれる

今回取り上げたエントリーが大きな反響を読んでいるのは、それだけ同じように考えている人が多いことを示しています。

私も高卒でニートをしていた時は「やりたいことがなにもない」と感じる状況でした。毎日、実家でご飯が出され、ゲームで遊び、何も苦しい事はありません。「このまま永遠にお気楽な生活をして、年だけとっていくのはいやだな」と思っていましたが、でもやりたいことはなにもなかったのです。

そんな私を変えたのは、実家の経済状況の悪化でした。いつまでも実家に寄生しては、宿主ごと倒れてしまう。そうなったら本当に生きていくことはできないと感じた時、コールセンター派遣の門戸を叩くことになりました。「このままじゃまずい」という飢餓感は、未来を俯瞰したことにより突然生まれたのです。

やりたいことに溢れた、楽しげな人生とは、常に目の前に人参をぶら下げられた状態のようなものかもしれません。すぐ先の未来にやりたいことがある、そんな状況が人を空腹にし、やりたいことを成し遂げていく…そんな人生を作ってくれるのかもしれない、今回のエントリーを読んで感じたのはこんなことでした。

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。