空き家率を疑え!

高幡 和也

人口減少が進む日本において、空き家問題が深刻だというのは誰もが知っている、所謂「周知の事実」である。

筆者も空き家問題についてはこれまで「空き家問題は善意だけでは解決しない」等をアゴラに寄稿させていただいた。空き家は、特に人口減少が著しい地方では深刻な問題である。管理不全な「その他の住宅」に分類された空き家は、外部不経済を発生させるだけではなく、長期間放置されることによって「所有者不明の不動産」へと変貌する予備軍となる。

写真AC:編集部

今年は5年ごとに調査・発表される総務省の「住宅・土地統計調査」の発表年だ。前回の調査では全国の空き家数が820万戸に上るという衝撃的な結果が公表されたが、様々な民間シンクタンクでは、今回の調査による空き家数は前回の数字を上回るのではないかと予想している。

同調査は都市計画の策定や空き家対策、各条例の制定など、国や地方公共団体の政策に大きな影響を与えるものであり、さらには民間企業のビジネスプラン策定やマーケティングなどにも積極的に利用されている重要な統計調査である。

最近、一部のメディアや一部のエコノミスト、一部の「専門家」の方々がこの調査で得られた結果をもとに色々な発信をなさっている

ネット上では、このままマンションの供給が止まらなければ日本は「空き家地獄」になるだとか、「空き家大国ニッポン」などという言葉が、さも当然の「日本の未来」であるかのように謳われている。

この様な発信の根拠となっているのは、前述の調査で得られた国内の空き家数「820万戸」や空き家率「13.5%」という数字にあるのは間違いないだろう。確かに同調査が5年ごとに行われるたびに増えていく空き家数や上昇していく空き家率をみると「空き家地獄」なる言葉が飛び出すのも理解できなくもない。

だが、筆者はこのような言葉や主張に強い違和感を覚えている。空き家問題が深刻なのは間違いない。だが、空き家が問題なのはその住宅が管理不全の「その他の住宅」に分類されてしまうためである。賃貸・売却・取壊しの予定がなく管理も行き届かない「その他の住宅」は外部不経済、機会損失、所有者不明など様々な問題を引き起こす。

しかし、前回の住宅・土地統計調査によると、「その他の住宅」が増加しているのは三大都市圏以外であり、むしろ都市圏では「その他の住宅」は減少している。

それでも都市圏のマンション供給が続けばいずれは住宅ストック数が過剰となり「その他の住宅」の空き家が増え続け、結局は「空き家地獄」になってしまうという声は根強い。

ここで、豊島区の空き家事情についてご紹介したい。豊島区は23区のなかで最も空き家数が多く、最も空き家率が高いといわれている。前回の住宅・土地統計調査によると、豊島区の空き家総数は 30,370戸、住宅総数の15.8%が空き家となっている。空き家の種類では賃貸用の空き家が83.8%と最も多い。いずれにしても空き家率が15.8%ということは、およそ住宅6~7戸のうち1戸が空き家となる計算なので、先述の「空き家地獄」も真実味を帯びてくる。

だが、2016年~2017年に豊島区が行った空き家実態調査をみると、豊島区がこれまでの、「空き家が多い街」という印象が劇的に変わる。

この調査は豊島区内の、戸建住宅・民間賃貸住宅・分譲マンションを対象に、その種類ごとに現地調査やはがき調査、管理組合へのアンケート調査などを行い空き家の実態・傾向の把握、分析を行う目的のものだ。

ではその具体的な数字を見ていこう。

豊島区が空き家と判断したのは、戸建住宅では594戸で空き家率は2.1%、民間賃貸住宅では4,588戸で空き家率は4.3%、分譲マンションでは981戸で空き家率は2.2%である。

調査総戸数は180,721戸で、そのうち空き家戸数の合計が6,163戸なのでトータルの空き家率は「3.41%」となる。住宅・土地統計調査の「15.8%」とはあまりに違う数字である。

もちろん両調査の対象戸数、調査方法、定義、目的が違うためにこの差が生まれているのは確かだし、住宅・土地統計調査がその目的と規定の手法に従い正確に行われていることに疑いの余地はない。

豊島区ではこの「数字の差」を以下の様に説明している。

住宅・土地統計調査の空き家率と、区が行った空き家実態調査の空き家率には違いがあります。住宅・土地統計調査は、居住実態を把握することが目的の標本調査です。調査員の訪問時に居住実態がなければ、空き家・空き室と判断し集計します。

豊島区 「住生活の実態」より

さらに補足すると、住宅・土地統計調査では人の居住がなければ「建築中の建物で戸締まりができる程度になっている場合」も空き家に含まれるのだ。これらのことから、私たちが「一般的に認知する空き家」のイメージは、豊島区が行った調査によるものが近いのではないだろうか。だとすると、「空き家率3.41%」という調査結果は豊島区が私たちが思い描く「空き家」が少ない街であることを示すものだ。

繰り返すが、空き家の増加が問題なのは間違いない。しかし、これまでは住宅・土地統計調査が定義する「空き家数」と「空き家率」の数字だけが先走りしてはいなかっただろうか? さらには、様々な空き家の種類を一括りで捉えてはいなかっただろうか?

都心ではタワーマンションだけではなく、多様なコンセプトをもったマンションが分譲・賃貸問わずにつくり続けられている。住宅供給の過剰感が否めないのは事実だが、国内外の人口移動によって今なお都市部の人口は増え続けている。

今回取り上げた豊島区は以前、日本創成会議によって将来の人口が維持できない「消滅可能性都市」とされたが、その人口も2005年の250,957人から減少することなく年々増え続け、本年1月1日現在の人口は289,508人まで増加しているのだ。自由な人口移動を確保するためには、一定数の空き家は常に必要不可欠なのである。(※豊島区 住民基本台帳

豊島区が行った空き家調査の結果は、他の自治体の空き家率にも同様の調査結果がもたらされる可能性を示した。

私たちが思い描くイメージどおりの「空き家」を正確に捕捉するためには、これまで当たり前に信じてきた日本の「空き家率」を疑うべきかもしれない。

高幡 和也
宅地建物取引士 プロフィール