世界景気はどこまで不安含みなのか?

岡本 裕明

ジムロジャーズ氏が日経とのインタビューに応じた記事が掲載されています。日本人から見れば後ろ向き満載です。「中国の企業破綻が世界的な債務危機のきっかけになりかねない」「次の経済危機はリーマン・ショックを上回る史上最悪のものとなるだろう」「日本関連の資産は何も持っていない。人口減少という構造的な経済減速の要因に加え、日銀が大量のお金を刷り続け、日本株や国債を買い支えているのも売りの理由だ」と。そして前向きなのはたった一言、「朝鮮半島で投資機会を探している」そうです。

ジム・ロジャーズ氏(Wikipediaより:編集部)

ジムロジャーズ氏をどう評価するか様々だと思いますが、好き嫌いは分かれると思います。日本には比較的信奉者は多いと聞いたことがありますが、私からすると過去の人だと思います。

氏は投資リターンという観点から社会を見ていると思います。ただし、76歳の氏がみるその視点はやや古いスタンダードをベースにしているように感じます。88歳のウォーレンバフェット氏の投資リターンも最近は華やかしいものではありません。昨年末の株式相場の下落でアメリカの著名ファンドマネージャー達もずいぶん店をたたみました。ニューノーマルは確かに存在し、基準点が変わったことを認識しないと世の中を判断するのは難しい時代になったということでしょう。

ロジャーズ氏は昔から地球をエリアで見る傾向があります。オートバイで世界中を回り、地球を俯瞰しやすいシンガポールに居住していることも背景にあるのかもしれません。

私も確かに世界経済は先行き茨の道だと何度もこのブログで書かせていただいています。中国の下向きの先に何があるのか、戦々恐々としているところもあります。不動産は世界で調整期に入ったと言われています。ですが、そこまで悲観する必要もない、というのが私の持論です。

まずロジャーズ氏からこけにされた日本です。人には基礎代謝というものがあります。これを国家に当てはめると一定の人口とインフラという国家資産を活用し、経済活動から生み出す最低限のGDPが存在するはずです。(学者がこのような研究をしたかどうか知りませんが、論理的な解をだせるでしょう。)

日本の低成長経済は確かに基礎代謝により一層、近い状態になっているかもしれませんが、一定以上は下がらないというロックボトムがあるともいえます。つまり、日本の経済力は下げ余地がさほどない、と私は見ているのです。(上がるかどうかは別です。ただ、企業が安定経営をし、高配当を行うよう努力すれば日本の株を見放すような事態にもならないと考えています。)

次に中国ですが、先日のブログで大きすぎて統治しにくくなってきていること、および共産主義の教義と実態が連動しておらず、共産党員との格差社会を生み出していると指摘しました。ただ、パクリで始まった技術やノウハウであってもそれを水平展開し、分野によっては世界最高レベルになっているものもあります。日本の経営層は中国との技術差はまだ2年以上と言っていますが、実務層からはほぼ同格か、分野により先を越されているとされます。

現在の中国の政治基盤が今後どうなるかは議論を差し控えますが、十分な潜在的内需と合わせ、すでに技術開発では孵化(インキュベーション)のレベルから成長分野に入った産業もあり、自助で回復発展できる能力はあると思います。ロジャーズ氏のいう中国企業の破たんがあるならばそれは政府系企業であり、影響は政府と企業の間に留まりやすく世界経済まで影響があるかは何とも言えないところでしょう。(そもそも政府系企業に破たんがあり得るのかという議論もあります。)

「次の経済危機がリーマンショックを超える」という点に至ってはまったく根拠不明です。確かに金融緩和で世界にはマネーがあふれています。しかし、突然それが全方位にわたってコントラクト(収縮)するシナリオまでは描けません。20-30%の調整はあるかもしれません。それが一定の時間をかけて調整が進む限りにおいてはそれを経済の崩壊だとは言いづらいでしょう。単なる不況期です。

急速なコントラクトが起きるとすればそれはAIによって恐怖を煽られることが引き金になるとみています。よって仮にロジャーズ氏の言うリーマンショックを超える経済危機があるとすればAIが全方位にわたって警告を出し続けオーバーシューティングを引き起こすケースでしょうか?(石油ショックの際、トイレットペーパーを買いに走った主婦と同じです。)

それでは人間の英知がドツボを生み出すということになるのでしょう。判断を人間ではなく、機械に任せるのですから自業自得です。ショックがあった際、つま先立ちしているところは苦労しますが、地に足をつけていれば必ず、嵐は止むものなのです。リーマンショックで学んだことは大きかったと信じていますが。

あまり不安になることを考えても仕方がありません。住む家は確保されています。先進国で食べ物がなくなるということもないでしょう。着るものなんて5年分ぐらいのストックは皆さんお持ちでしょう。私は何も心配していません。人間はそこまで愚かではないと信じています。

それよりも著名人が刺激の強い発言をすることによる弊害がもっと怖い時代です。ツィッター一言が世界を全く間に駆け巡り、動揺を引き起こす時代です。我々はもっと賢明にならねばならないでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年2月26日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。