地方一棟ものにとどめを刺す「一法人一物件スキーム」

内藤 忍

スルガ銀行の融資資料改ざん問題をきっかけに、金融機関は手の平を返したように態度を変え、不動産融資に対する厳しいチェックが始まりました。

「シェアハウス問題」に続く次のターゲットと思われるのが「一法人一物件スキーム」と呼ばれる不正な融資手法です(図表は金融投資ガイドHedge Guideより引用)。

日本経済新聞だけではなく、朝日新聞までこの問題を取り上げ始めました。

その手口は、不動産の購入物件ごとに新たに法人を立て、それを別の金融機関に知らせずに、また新たに別の法人を使って借りる。そんな、複数の金融機関から複数の会社に借り入れを繰り返し、残高を積み上げていく方法です。

本来なら、個人で1億円しか借りられない人も、ある金融機関から1億円借り、別の法人でもまた1億円借りて・・・と別法人になりすまして、次々借入をすることができます。法人は社名を変えて、自己申告しなければ、トータルの借入残高が名寄せされないという、信用情報データの欠陥をついた方法です。

しかし、これは金融機関に対する借入の告知義務を果たしておらず、明らかになった場合は最悪の場合、期限の利益の喪失によって、即時返済を求められる可能性があります。

このような複数の金融機関からの融資は、地方物件に地元の金融機関から融資を受けて全国に分散して物件保有しているケースがほとんどです。

写真AC:編集部

報じられているように、今後金融機関のチェックが入り、既存の借り入れについてもメスが入れられれば、地方一棟ものの価格の下落に拍車をかける可能性があります。

また、貸し出しをしている地方金融機関から見ると、本来1億円の借入が限界の年収1000万円程度のサラリーマンが、トータルで10億円以上の借り入れをしているようなケースであれば、大きな融資リスクになります。今後、返済が滞って不良債権化する可能性も高まっています。

地方銀行が不動産担保融資に対し消極的な姿勢に転じ、価格が下落しているタイミングに今回の「一法人一物件スキーム」問題がトドメを刺す。

国内の不動産投資は、都心区分物件と「それ以外」の格差が、ますます拡大していくことになりそうです。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所、株式会社資産デザイン・ソリューションズは、国内外の不動産、実物資産のご紹介、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。また、投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2019年3月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。