香港人のカナダ移住ブームが再来するのか?

1995年、私は4泊の予定で単身、香港入りしました。バンクーバーで発売開始をしたコンドミニアムの建築着工前プリセールのイベントを香港で週末に行うためです。当時香港では97年の中国への返還を前に海外移住ブームがビークを迎えていました。

当時、私がそれなりの事前調査を行った結論は

「香港の人は資産の分散化を何が何でも図る。また、香港人が好む外国は旧英国連邦の国で特にオーストラリア、ニュージーランド、カナダ。だが、カナダはアメリカと接していることもあり、経済的可能性を求めるならカナダの選択肢は高い。バンクーバーは香港から最も近い北米でその玄関口にあたる。よって市場の潜在性は高い。」

このレポートをせっかく作ったのに誰も読みやしないどころか、当時の日本の本社ですら「へぇー」以外、何のコメントも出てきませんでした。結局、私は出張で行った土日2日間の展示即売会で22件の販売契約をまとめます。すぐさまその足で東京本社に報告に行ったのですが、銀行出身の副社長の破顔が今でも忘れられません。別に私にセールスの能力があったのではなく、潜在性あるマーケットに商品を提供したら飛ぶように売れた、それだけの話です。

写真AC:編集部

日経に面白い記事があります。「さようなら香港 移住希望が急増」。これを読んでマジか、と思ったのは懐かしいからというより潮流の変化を感じたからであります。あれから20数年を経て再び香港で移民ブームが到来するのか注目です。

記事をかいつまんでみると 「18~30歳の若者のうち51%が海外への移住を考えている」「『政治的な対立が多すぎる』『人が多くて住環境が悪い』『政治制度に不満』――。移住を希望する理由の上位」「教育水準の高い人ほど移住を希望する人が多い」「移住先ではカナダとオーストラリアの人気が高く、英国と米国を加えた4カ国で全体の8割」とあります。一国二制度という中途半端な仕組みがビジネス思考性の強い香港人の背中を押したともいえるでしょう。

中国は情報のコントロールにより国内不満を高めない努力をしています。農民層がずっと農民である理由は高い教育を身に着けてもらっては困るし、妙な気を起こしてもらっても困るからでもあります。ところが香港はもともと開かれたところでそこに住む人たちはシンガポール人と並び国際社会に最も溶け込んでいるアジア人といっても過言ではありません。

かつて香港の調査をした際、なぜ、香港人がバンクーバーを好むのか、と多くの香港出身者に聞いた時、大まかに二つの答えがありました。一つは信頼できない中国がある日突然資産を奪い取るかもしれないという恐怖心、もう一つは子供の教育には環境を求めたいという未来志向でした。前者は文化大革命や天安門事件を身近に感じたこと。もう一つは貪欲ともいえる勉強熱と上昇志向を実現するのに華僑社会がある程度育っている地域を目指した、これが理由です。

ところが香港人のカナダ移民ブームは97年を境に急速に落ち込み、一時はほとんど皆無となるほどになります。それと入れ替わるように中国本土の移民ブームとなった経緯があります。言葉も広東語主流からマンダリン(中国の普通語)に変わったのが今のバンクーバーです。

個人的には香港のカナダ移住ブームはウェルカムです。一つはコミュニティのバランス、一つは新規マネーの流入があります。

ところでバンクーバーのビジネス街中心地のオフィスタワー群(ベントールタワー)を中国の安邦保険集団が数年前取得していたのですが、同社の世界資産処理の一環で同物件が再びFor Saleになっています。この1ビリオンドルの資産の買い手の候補は現在、2社。ブラックストーンと香港のCKアセット(長江実業集団)です。CKアセットはリー カーシンが支配下におさめ、現在息子のビクター リーがトップに立ちます。リーカーシンは1986年万博後のバンクーバーの不動産ブームの立役者でありました。CKアセットはカナダでの事業強化を進めており、仮にこの物件を押さえるとなればバンクーバーに再び、香港ブームが押し寄せる後押しをするかもしれません。

世の中の動きは循環すると言います。私もその循環を一通り見て2巡目の世界に入りそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年3月6日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。