1年間の育休経験者として
社会的ニーズが高まっている男性の育児参加について、1年間の育児休業(以下、育休)経験者として、「育児は大変だけどいいもんだ」といった表層的感想以上のリアルに触れておく責務があると思い、寄稿させていただいた。
男性の育児参加対策の検討について見聞きする度、どことなく、「男性を育児に引きずり込まなくては」という検討者の発想を感じてきた。果たして、喜んで引きずり込まれる男性はいるのだろうか。
「なんとかしてよ!!男性の育休取得」
女性活躍推進本部長の森雅子氏(自民)は3月14日の日本経済新聞の「なんとかしてよ!!男性の育休取得」の標題において、男性の育休取得率を上げるために「男性の育休取得の義務化」を目指すことを明記した。この記事にかかわらず、今後、益々男性の育児参加が求められるだろう。
現状では、男性の育児参加に消極的な会社はまだまだ多く、男性の育児参加に関する社会の期待と会社の期待は相反しているが、今後、会社は社会のニーズを無視できなくなるだろう。現に、日本生命保険やリクルートコミュニケーションズは約1週間の、積水ハウスは1カ月以上の育休取得を男性に促進・義務化するなど、男性の育休取得に取り組む企業は増えつつある。
言われたい放題の男性たち
男性が育児参加を求められる時、往々にして男性は肩身が狭く、言われたい放題である。たとえばママ友の集まりに身を置いてみると、こんな会話がなされている。
「男性って育児は女性の役割だと決めつけてるよね」
「休んでも俺何すればいいか分からないよとか言ってるけど、見よう見まねでやれよ、と思うよね(笑)」
「手伝おうか?って言われるのが一番ウザくない?」
「旦那が休みだと食事とか用意しなきゃだからやること増えるだけだよね」
などだ。
育児に参加せよとリクエストされる一方で、休んだら休んだでお荷物扱いされるダブルバインド。仕事でどれだけ威張っていようとも、家庭では役立たずの「使えない奴」という位置づけが男性なのだと思い知らされる。
たしかに、「俺は子どものオシメを変えたことなんてない」「風呂に入れた記憶は一度か二度」「毎日寝顔を見る日々だった」という先輩男性陣は少なくなく、イクメン全盛期の今を生きる女性陣からすれば、パートナーが同程度の育児参加であることは言語道断なのかも知れない。
第一線という貴重な役割
しかし、一方でこんなママの声も耳にした。「第一線を退いている私が子どもを育てていて本当に大丈夫なんだろうかと心配になる」という声だ。仮にこのことを非育児従事者が指摘すれば世のママ達から大反感を買うだろう。しかし、一人ひとりに聞けば、本音では同様の不安を抱えているママが少なくない。
ここに、男性が救世主として活躍できる役割があると思う。第一線で働く男性が、育児に参加して担える役割は、ただ協力するだけの「お手伝いさん」ではなく、仕事力を発揮した立派な「仕事人」としての価値である。
仕事の総量を減らせてこそ仕事人
男性の育児参加は、目下「量の時代」である。育休取得率の男女差(それぞれ5.14%と83.2%)を縮めようという量的拡大の流れだ(『平成29年度雇用均等基本調査』厚生労働省)。だが、1年間の育休を取得してみて感じるのは、育児に参加する男性の数が多くなったところで、育児に関するタスク(仕事)の総量を減らせなければ、男性が参加することの意味はないだろう、ということである。
ではどうするかといえば、持ち前の仕事力で、育児を含む家事全般の仕事を整理整頓することが男性の貢献できることである。社会学者・山口一男氏の調査によれば、米国で家事の男女平等が達成されたのは、男性の家事時間の増加ではなく妻の家事時間削減によるものであった。
つまり、仕事の総量を変えずに家事を分担したところで、「家事に関する男女平等」が達成できる可能性は高くないということだ。それよりは、男性をコンサルタント的に起用し、現状の家事方法において効率化できるところはないかという生産性向上の視点で協力を得る方が賢明であろう。
オムツの置き場、ミルクを作るタイミングなど、実は改善できる点が家事には無数に残されている。問題を発見し、それを解決する。正に、男性が日々行っている「仕事」そのものであるから、得手に帆を揚げ実践すればよい。
話はそれからだ
ただし、男性がいきなり「お前の家事のここが悪い。改善せよ」と大所高所から物を言えば夫婦関係は一日にして崩壊するだろう。名ばかりコンサルタントと同様、それでは力にならない。ママが必要としているのは第三者としての評価者ではなく、当事者としての実践者だからだ。観客席からああだこうだと評論を述べる見物客は求めておらず、ピッチに立つ同志を求めている。
「何がどこに置いているか分からない」や「何をすればいいか分からない」と嘆く暇があるならば、まずは属人化した仕事の茂みの中を掻き分け家事に没入し、パートナーが構築した、様々な歯車が噛み合ったシステムの中に身を投じてみなければならない。話はそれからだ。まず「やってみなはれ」である。
強制より期待を
男性に育児参加させる動き、育休を取得させる動きは結構だ。育児参加によって家族関係が良好になったり仕事に還元できることも生じるだろう。
だが、「育児は大変なのだから夫婦で折半」「あんたも辛さを味わいなさい」という発想で男性を義務的に引きずり込もうとするならば、そこには限界があるように思う。
飲んで帰って週末はゴロゴロ寝ている男性を大目に見てくださいという呼び掛けではない。男性の育児参加者を増やすのであれば、男性だからこそできる役割に目を付け、期待を寄せ、任せてあげることの方が、より達成可能性は高いのではないかという御提案である。
教育心理学が導き出したピグマリオン効果(教師の期待によって学習者の成績は向上する)の適用範囲は、なにも子ども相手に限ったことではない。一教育関係者としては、強制よりも期待をお勧めしたい。
高部 大問(たかべ だいもん) 多摩大学 事務職員
大学職員として、学生との共同企画を通じたキャリア支援を展開。1年間の育休を経て、学校講演、患者の会、新聞寄稿、起業家支援などの活動を活発化。