『バイキング』にみる薬物叩きの裏側

田中 紀子

バイキングの新手法「薬物なんかやった奴のファンや応援団も一蓮托生で許さない!」という番組のあり方に、連日Twitterや様々なコラム、記事で批判が寄せられていますが、なぜ、バイキングはここまで違法薬物問題を叩くのでしょうか?

フジテレビ『バイキング』(3月28日放送)より

電気グルーヴさんという、日本の音楽シーンの一翼を、他にはない独創性、高い音楽性、カッコ良さでひっぱってきたバンドを、
「薬物使用だけで失いたくない、どうか戻ってきてまた活動して欲しい!」とか、
「確かに薬物やったことは悪いけど、彼の功績は変わらない。みんなで応援しようよ!」
といった声まで全否定する、そこまで薬物を貶めたい悪者にしたい意図はなんなのかな?と思う訳です。

しかしちょっと話はそれますが、電気グルーヴさんのファンや、応援団はすごいですよね!
やっぱクラブカルチャーって強いなぁ~と思いますが、今までは、こういった「ファンや応援団まで袋たたきにする」風潮に、まさにいじめの構図で、庇えば自分もやられるから、みんな怖くて声があげられなかった訳じゃないですか。チャゲアスのファンの方だって、相当いたはずなのに、あの騒動の中では、こんなムーブメント作れなかったわけですよね。

ところが、電気グルーヴさんのファンは違った!
何故なら、地上波頼み、大手プロダクション頼みではない、
独自の発信ツールや文化をもった方々に彼らの理解者、そして才能を認めていらっしゃる方々が沢山いたからですよね。
それがモーリー・ロバートソンさんであり、DOMMUNEさんであり、音楽業界の方々、ネットの論客の方々、サブカルチャーに身をおく皆さまだったわけですよね。

それを、地上波頼みの芸能人と、テレビ局、そして大手プロダクションは、バカにし、こき下ろしたことで、逆に時代遅れ感を露呈し、多くの音楽ファンを敵に回してしまいました。

もうね、こういう自分たちの優位性を示すことに必死で、生き残りをかけるために、ネット民をバカにし「知らない」とマウンティングするような、そんな公共性、公平性に欠ける番組をやるテレビ局には、現在のように電波を格安で使用させる既得権を与えておいてはいけないと思うんですよね。
そろそろ世代交代を検討したらいかがでしょうか?

さてさてバイキングの薬物叩きに話しを戻すと、違法薬物問題というのは、世界でもスケープゴートにされがちです。
例えば、トランプ大統領が「密売人を死刑に!」などと非現実的なことを声高に叫んだときにも言われましたが、人気取りをしたい大統領が、薬物政策強化を叫ぶと他の問題をカムフラージュし人気が上がるという現象があります。度々暴言を吐き・暴力疑惑もあったドゥテルテ大統領しかりですね。

違法薬物はアルコールやギャンブルそして銃の規制のように、既得権者を守る必要がありませんから、他の問題でつつかれそうになったら、薬物政策で声を張り上げて目をそらすという、スケープゴートにはうってつけと言われており、これは海外メディアでは知られた手法です。
でも誰も文句は言えませんからね。

おそらくバイキングもこの手法を、出演者、制作者があうんの呼吸で取り入れていると思います。
これは私の一つの考察に過ぎませんので、バイキングに反論があれば是非お聞かせ願いたいところです。

というのもバイキングの制作会社さんの一つはよしもとさんで、今回の件を扱ったのもよしもとさんが担当だったんですよね。
最初のインタビューの際にお電話でそうおっしゃってたから間違いないです。

最近「芸人に薬物やる奴はいない」発言でも話題になりましたが、確かにそう言われてみると、違法薬物で逮捕された人って多分いないですよね。
けれどもお酒、暴力、女性問題に関してはうじゃうじゃ出てきます。

例えば、よしもと芸人さんで、お酒や女性、暴力の問題を起こしてしまった事例をあげると、

・横山やすしさんの逸話は有名ですけど、息子の木村一八さんもタクシー運転手さんを、
脳挫傷になるまで殴り倒し逮捕。
・メッセンジャーの黒田さんもガールズバーで店長を殴り逮捕
・板尾創路さんは14歳の少女にわいせつ行為を働き逮捕
・極楽とんぼの山本圭壱さんは17歳の少女わいせつな行為があり一時解雇されています。

と、ワイドショーをにぎわせた有名な事件だけでもこれだけあります。

そして板尾さんは松本人志さんが熱心にかばわれたと言われていて、解雇を免れただけでなく今やNHKにまで起用されるほど復帰しています。
山本圭壱さんも、一時解雇されていましたが、周囲の芸人さんたちの後押しもあり、今はよしもとさんのタレントさんとして復帰しています。

そして前回のブログにも書きましたが、そもそもこの番組のMC坂上忍さんが、飲酒運転で逮捕される際に、派手なカーチェイスまでやらかしています。

さらにコメンテーターの布施博さんも、お酒の席で女性に怪我を負わせ大騒ぎになったことがありました。古い話しですけど、私ですらまだ覚えている位ですから、うちの母のようなワイドショーをみる老人たちはハッキリ記憶しています。とにかく昔のことはよく覚えていて、新しい情報が入って来ないのが老人ですから。ここに利害の一致があると思うんですよね。

私はこれらの問題を起こした人たちでも、なんらかの更生もしくは回復プログラム、もしくはカウンセリングを受けて治療し、さらに被害者の方の示談と了承を取り付けたうえであれば、復帰することはありだと思っておりますが、これらの事件が薬物と比較して軽いとは思えず、むしろ被害者がいる分重大ではないかと思うんですね。

けれども、声高に薬物問題を叫んで、ことさら極悪人に仕立て上げることで、「酒による暴力や飲酒運転・危険運転、女性への淫行<薬物問題」という図式を印象づけられますよね。また薬物を叩くというセイギで、薬物事犯の同じ芸能人をギセイにすれば、自分たちの道徳的優位性、清廉潔白な人格者と演出することができます。

この“手法”は今のところ大成功している訳で、薬物問題の有名人はなかなか復帰できませんが、暴力と少女への犯罪については、“お目こぼし”となり、メジャーで売れっ子となっています。

ただ今度ばかりは、地上波や大手プロダクションに依存していない、電気グルーヴのピエール瀧さんという真に実力と人気のある方を前にして、この手法は玉砕しました。そして炎上したお陰で、身内のかばい合い、他人に厳しく自分に甘い体質、時代遅れの不勉強、さらには薬物スケープゴート問題に、多くの人が気がついてしまったわけです。

私たちがいくら『啓発』などしても、なかなか伝わらなかった問題が、電気グル―ヴさんの音楽を通じて、
「人格とか実績と薬物は別問題」
「薬物やったとしても、回復と再起を応援するよ!」
「これまでの実績全否定はおかしい!」
という、『体感』があっという間に伝わっていくこととなりました。
理屈じゃ伝わらなくても、実績や行動が伝えるんですよね。

そしてその姿が、なによりも美しく、愛に満ちていたので、多くの人達の共感を呼んだんですよね。

つくづく音楽は世界を変えるなぁと、改めてその偉大さに気がついた次第です。
そして日本の音楽文化を大切に守って欲しいと切望しています。
勇気ある電気グルーヴの応援団やファンの皆様に心から敬意を表します。


田中 紀子 公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト