- タレブ『ブラック・スワン』
- ウィルソン『人類はどこから来て、どこへ行くのか』
- フクヤマ『政治の起源』
- ネグリ&ハート『<帝国>』
- ノース&ウォリス&ワインガスト『暴力と社会秩序』
- 篠田英朗『集団的自衛権の思想史』
- ポメランツ『グローバル経済の誕生』
- 白川方明『中央銀行』
- デリダ『マルクスの亡霊たち』
- ミルグロム&ロバーツ『組織の経済学』
平成の始まったころ社会主義が崩壊し、冷戦が終わった。そのとき自由と民主主が勝利したという「歴史の終わり」を宣告したフクヤマが、その後の世界を見て考えを改めたのが3である。その続編『政治の衰退』ではデモクラシーの未来について暗い見通しが立てられているが、2010年代に世界各国で勃興したポピュリズムはそれを例証した。
同じころ日本の不動産バブルが崩壊し、世界のスーパースターだった日本経済が驚くべきスピードで転落した。この時期の最大の失敗は不良債権の処理を先送りして長期停滞をもたらしたことだが、その原因が何だったのかは今もはっきりしない。8はその詳細な記録だが、これは日銀の立場からのものだ。バブルの発生と崩壊の客観的な分析は今もほとんどない。
2001年の同時多発テロは、冷戦後の新たな世界戦争を予想させた。4は9・11の前に書かれ、その後のグローバルな<帝国>の展開を展望したものだ。同じ時期に18世紀以降の西欧が発展したのは植民地支配でアジアを搾取した『大分岐』だと指摘したポメランツが、資本主義の歴史を暴力と戦争の歴史として描いたのが7である。
2008年以降の世界金融危機は、日本のバブル崩壊の拡大再生産だった。それまで日本の「失われた10年」は間抜けな金融政策のせいだと嘲笑していた世界の政策当局が同じような「流動性の罠」に陥り、日銀の開発した量的緩和を始めた。リーマン破綻の1年以上前に書かれた1は、確率がきわめて低いがシステムを破壊する「ブラック・スワン」の到来を予告していた。
この30年を振り返ると、ほぼ10年ごとに危機が繰り返されている。2010年代は珍しく大きな危機がなかったが、それは危機を「金融抑圧」で隠しているだけなのかもしれない。9も指摘するように、資本主義の根底には、貨幣の価値はすべての人がその価値を信じるときに限って存在するという不安がある。その亡霊性を指摘したマルクスは、今も読む価値がある。資本主義の危機はまた必ずやってくるからだ。