現代資本主義への疑義

岡本 裕明

レイ・ダリオ氏(Wikipedia:編集部)

少し前の日経に興味深い記事があります。「大富豪、米資本主義の危機語る 」です。記事の中心は世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターのオーナー、レイ・ダリオ氏がブログを通じて富の偏重への危機感を訴えたものです。同様のボイスは以前からウォーレン・バフェット、ビル・ゲイツ、ハワード・シュルツ(スタバ創業者)、ジェイミー・ダイモン(JPモーガン)といった早々たる名前の大富豪たちが「今の社会はおかしい」とそれぞれが意見をしています。

このような議論は最近始まったわけではなく、私が記憶する限り10年以上前からありましたが、当時、多くのアメリカの大富豪たちは資金還流システムを独自に作り上げていました。多くの場合、富の多くを寄付し、社会還元するパタンが多かったと思います。このブログでも過去10年、折に触れてご紹介してきたと思いますが、寄付のやり方も例えば出身大学の教育施設充実であるとか、特定医療施設、高齢者施設への寄付など明確に的を絞った形で寄付が行われていることがしばしば見受けられます。

この場合、時として「冠プロジェクト」となり、ネーミングライツが付され、寄付された方の名前が未来永劫忘れられない仕組みになることもあります。もっと小さなケースでいえば遊歩道や公園のベンチを寄付し、ベンチに名前を彫った銘鈑がつけられるのもごく一般的です。つまり、寄付した方がしっかり認知され、称賛されるという仕組みが奉仕活動への参加をより促進させる形になっているとも言えます。

これでも費消しきれないほどの富が生まれる大富豪にとって減税などの税メリットはいらないよ、という声も大きくなっています。この一つの背景に相続税がないカナダや非課税枠が巨大化しているアメリカにおいて子供たちにこれ以上の富を相続することが子供たちにとってメリットあることではない、と認識していることもあるでしょう。

これら富の偏在化の生んだ現代資本主義を株主資本主義ともいいます。株主利益を最重要視する考え方で四半期決算という短期の経営サイクルを通じた功績主義と株価を通じた経営者の成績表化を指摘するものであります。例えば昨年CEOに就いたGEのカルプ氏も就任の際に巨額の株価連動報酬制が与えられ、株価低迷を回避するための経営という本質を見誤ったケースが正々堂々とまかり通る時代になっています。

ところで私は時々、北米の投資は配当が良い、と申し上げてきました。これも株主資本主義の一環なのだろうと思いますが、配当が高いのはほとんどがREIT(不動産投資信託)であります。北米ではこのREITの変型版が多数存在し、それこそ10%を超えるような配当を出すところも随分あるものです。

ではなぜ、REITの配当が高いかといえば利益の9割以上を株主に分配しないと法人税がかかるためであります。これは日本も同様です。企業でいえばパートナーシップ、ジョイントベンチャーが課税主体にならないのと同様、REITは一定ルールを守れば通例、課税主体にならないのであります。これは何を意味するかといえば経営安定しており、経営者が辣腕者ではなく、アドミニストレーター的な存在だということになります。(REITの社長で世に名をはせた人はいません。)

そしてREITに集まる資金は一般の小口資金であり、その究極的担保はREITの所有する不動産などの資産であります。言い換えればREITという事業運営を通じて運営者、投資家が等しく利益を分かち合う点において上述の大富豪が生まれにくい体質にあるといえます。

私はこれぞ進化した資本主義の形の一つではないかと思います。今や都市の商業ビルは一般企業が持つ時代ではありません。自社ビルなどは発想そのものが古く、建物は巨大化しそこにはREITの資金が入り込みます。つまり、不動産の所有者も無数にいるし、不動産王と称される成金も生まれない仕組みがそこに存在します。ある意味、参加者が均等に富の分配を受けるという点において資本主義的共産主義なのかも知れません。

富の偏在化は確かに社会を歪ませるでしょう。そして私の知る限り、多くの資産家たちは決して自分たちの資産を増やすことに固執せず、個々が社会還流システムの作り出していることは社会の批判をかわすためではなく、おかしくなった社会をどうやってリバランスするか、取り組んでいるのだともいえるのではないでしょう?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年4月22日の記事より転載させていただきました。