10%の消費増税は原発を再稼働させれば不必要

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若杉 和彦(元メーカー勤務 元原子力安全委員会技術参与)

今年の10月から消費税率8%を10%に上げると政府が言っている。しかし、原子力発電所(以下原発)を稼働させれば消費増税分の財源は十二分に賄える。原発再稼働の方が財政再建に役立つので、これを先に行うべきではないか。

財務省の統計資料によれば、国の2018年度消費税収は17.6兆円(1)である。現在8%の税率を10%に上げると、税率2%アップ分に伴う税収増は、単純に計算すると4.4兆円になり、国の消費税収は17.6兆円から22兆円に増える。しかし、この税収増分の4.4兆円は原発を再稼働させることにより十分帳消しにできる。まず原発を止めたために火力発電用燃料購入に海外へ支払う金額が約3兆円/年(2)増えたが、これをなくすことができる。

「財務省 一般会計税収の推移」(注)平成28年度以前は決算額、平成29年度は実績見込額、平成30年度は予算額である。

次に太陽光等の再生可能エネルギー開発のために設けられた“再エネ賦課金”はいずれなくなるであろうが、その額が昨年だけで2.4兆円になり、今年は3兆円になり、将来さらに増えると予測されている。FIT法が存在するので、再エネ賦課金をすぐになくす訳にはいかないが、何時までも存続させるのは合理的でない。このように原発を稼働させれば火力用燃料を余分に買う必要もなく、再エネ賦課金もなくなれば、2%増税に伴う4.4兆円をはるかに越える財源を確保することができる。

もし今年の10月に消費税が10%に引き上げられれば、消費税収の増加分約4.4兆円も国民が負担することになる。これを全国民の人数で割れば一人当たり約4万円/年になる。今でも国民は原発停止に伴う負担に喘いでいる。火力用燃料購入の約3兆円と“再エネ賦課金”の約3兆円の合計約6兆円を国民が毎年負担している。この支出は国民一人当たりでは約6万円/年になり、夫婦と子供二人の4人家族では約24万円/年支出することになる。一人当たりの消費増税約4万円を加えれば一家族で約16万円/年、先の24万円と合わせて合計40万円/年を支出することになる。これは平均年収の約1割に相当する無視できない金額である。“原発が怖い”の感情だけで、あるいは隣近所と口論したくないだけで、この不合理を放置しておくのはおかしくないか。

このように関単な理屈が何故分からないのだろうか。優秀な政治家の皆さんは先刻分かっているはずである。分かっているのに言わないのは選挙の票を失いたくないからだろう。

このまま世論に流されて原発を止め続けていれば、確実に今の生活レベルは維持できなくなる。ここで過去の歴史を考えてほしい。あの太平洋戦争である。今“なつぞら”をNHKの朝ドラで放映しているが、両親を失った7歳の少女に靴磨きをさせ、米兵たちにチューインガムをねだった戦後の焼け野原の不幸を再現させてはならない。大げさだと言われるかも知れない。確かに焼け野原にはならないだろうが、電気代が高くなり、国際競争力が落ち、日本が3等国に落ちることは今の生活レベルが一段と下がることを意味する。1941年の日米開戦からラジオや新聞等のマスコミは日本戦勝の記事だけを書き、国民を鼓舞し続け、敗戦後は口をつぐみ、あれは軍部の暴走だと言って責任を取らない。国民の中にもあの大きな米国と戦争して勝てるはずがないと思った人もいたようだが、当時の世論の流れに逆らえなかった事実がある。世論の力は大きいが、事実を知れば世論も変わるだろう。しかし、遅すぎると取り返しのつかなくなる影響が出る。

国の運命を左右できる政治家は、エネルギー自給率が先進国中最低の8%しかないための対策を国会で議論すべきではないか。その上で、財源確保のため安易に消費増税を打ち出すのではなく、原発再稼働が健全財政に役立ち、地球温暖化対策にもなるとの正論を堂々と発言し、世論を納得させてほしいのである。マスコミも、放射能の怖さや汚染水放流による風評被害など負の面だけを採りあげ、反原発世論の形成に影響力を発揮してきたが、そのままで良いのか自問すべきである。地球温暖化対策に貢献する原発の威力、再エネ賦課金の実態と問題点、放射性廃棄物安全に関するファクト情報等々、マスコミが報道すべき重要事項は沢山ある。世論が変わらず、政治家が発言しなければ、日本の国力は確実に低下する。エネルギー基本計画の“将来可能な限り原発を少なくする”では優秀な学生は原子力から離れる。原子力技術が将来必要になった時、隣の中国に教えを乞い、原子力技術者を呼ばなければならなくなろう。国のエネルギーセキュリティー確保は食料の確保と同じであり、正確な知識を基に、国民一人一人がその重要性を真剣に考えてほしいのである。

注:
(1)「一般会計税収の推移」:財務省ホームページ
(2)「エネルギー白書(2018年)」:経産省資源エネルギー