私案 日本の住宅政策

総務省が5年ごとに調査している空き家率。18年10月の時点で全国平均で13.6%、846万戸となり、5年前の前回調査に比べて26万戸ふえていることが判明しました。また総住宅戸数は6242万戸で、これも前回比で179万戸も増えているというのです。

人口は減っているのに住宅は増える、これではどう考えても間尺に合いません。

(写真AC:編集部)

ちなみに総世帯数調査は5年ごとの国勢調査が基準となりますが、2015年の数字は5333万世帯で国立社会保障人口問題研究所の分析調査では2023年に5419万世帯で頭打ちになるとみられています。

この数字を総務省の調査に当てはめると現時点で単純計算で900万戸の余剰ないし二つ目の住宅の所有者がいるということになります。これは上述の空き家戸数846万戸と若干違いますが子供が大学などに通うために住宅を借りる場合や単身赴任のケースでは一つの世帯で2つ借りることになる一方、シェアハウスなどは統計上住宅戸数としては1戸としてカウントされていると思われ、プラスマイナス双方のファクターがあることを考えれば整合性はあらかた取れるものと思われます。

もう一つの読み方は上記研究所の国勢調査分析からすれば2015年から2023年まで世帯数はネットで86万戸しか増えない計算です。これは年平均10.75万戸です。住宅需要は通常世帯数の増大とともに増えるものですから極端な話をすると住宅の過不足のみを考えた実需はたった年間10万-11万戸程度しかないことになります。これは何を意味するかといえば多くの住宅会社、住宅系デベロッパー、建築会社の淘汰を意味します。

もちろん、実際にはこんなことではなく、古い住宅を壊し、新しくする、あるいはマンションに移り住むという需要はありますが、少なくとも現在のように年90万戸も新規住宅を供給するシナリオはなりたちそうにありません。日本総研による将来予想は2030年が新規住宅着工件数86万戸程度と緩やかに下落すると予想しているようですが私はおかしい気がします。

これは1つには住宅取得意欲が新しい世代においてかつてほど盛り上がらないこと、2つ目には欲しくても住宅ローンを組みにくい仕組みがあることが考えられます。

住宅取得意欲とはいわゆる物欲時代の流れですが、今は車はなくても当たり前の時代になっており、住宅もシェアハウスなど新しいライフスタイルがごく普通に浸透しています。では老後はどうするのか、といえば新しいものでなければ安く入手できる仕組みが生み出されるとみています。

その一案を紹介します。

まずデベロッパーが既存の中古住宅を取得、住宅を改修後、上物だけリースする方式です。例えば私が都内で取得したある20坪足らずの中古物件は骨組みのところまで解体し、ほぼすべて作り直しました。一部腐っていた基礎もやり替えていますので実態としては新築と同じです。改築の場合、建築確認がいりませんので図面の精度などは格段に下がりコストは大幅減です。あとは業者価格で建物を建てて総額1100万円で2階建て50㎡の住宅が完成しました。

仮にこれをリース案件にすれば新宿区のこの土地の物件では単純計算で月83000円ぐらいで提供することができます。リースですから土地の所有権はありません。しかし、今時、土地を持ちたいという欲望の意味は薄れていると思います。マンションを購入する人が土地の持ち分にこだわったという話は何一つありません。一定期間、自分の自由になる不動産さえあればあとはライフスタイルに応じて転々とできるそんな仕組みを作ればよいだけなのです。

老後の安心と言いますが年を取った時、今の住宅に住み続けるのかどうかはその時にならないと決められません。病気になる、怪我をする、認知になる、連れ合いに先立たれる、階段の上り下りができないなど今の住宅に「我慢を強いる生活」の要素はいくらでもあるのです。なぜ、我慢してでも自分の持ち家に執着するのか、この考え方は2-30年で確実に変わるでしょう。

住宅ローンの考え方も古いと思います。銀行は不動産の担保価値という固定概念に捉われすぎていることがそもそもの発展性のなさでしょう。その結果、中古住宅に対する銀行ローンは極めて難しい状態です。

しかし、銀行の本質的な担保とは毎月の給与所得です。ならば不動産価値はいざという時の保証のようなものだと考えれば給与と「居住権ローン」を紐づけにする仕組みを作り、仮にローンが払えない場合住宅は差し押さえられますが、不動産の居住権を銀行経由で第三者に転貸しやすくできれば銀行リスクは抑えれる仕組みはできなくないでしょう。要はものの視点なのだろうと思います。

私は不動産に関して世界でも注目されるバンクーバーに住んでいますが、この国、この街は毎年、人口の1%を移民で増やすという政策を維持しているからこそ、不動産が右肩上がりで上昇するのです。需要がずっと増え続けるからです。

一方、日本は人口がどんどん減る国ですから不動産価値は本質的には下がるはずです。一方、一人当たりGDPは今後も緩やかに増えると思われますのでローンや賃料といった不動産への支払い余力は改善するとみるのがナチュラルです。言い換えれば何千万円もの住宅ローンを抱えてひーひー言っていた時代は過去の産物になるだろうとみています。これは不動産を取り巻くすべての常識観が変化していくことにつながるでしょう。

所有しなくても老後まで安心に暮らせるスキームは作れます。それをやらないのは大手不動産業者がその変化を怖がっているからかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年4月29日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。