入院した韓国議長のセクハラ国会騒動を実況する

韓国国会は4月25日に中央日報が「韓国国会、徹夜座り込み→もみ合い→セクハラ批判→ショック入院→見舞い…」の見出しで報じた文議長のセクハラ・入院騒動や、27日に朝鮮日報が報じた「動物国会:野党が扉を封鎖、与党はハンマーとバールで応戦」など、言論の府とも思えない伝統芸を披露した。

KBSより:編集部

そこで本稿では、下記の朝鮮日報6本、中央日報5本、ハンギョレ4本の一連の記事を実況風に追ってみることとする。なお、なぜか聯合ニュースと東亜日報にはこれに関係する記事が見当たらないことを申し添える。

<ハンギョレ>
4月24日 【社説】「選挙法改正反対」の場外闘争には名分がない
4月25日 「未来党委員交替、ファストトラック表決」同時に試み…25日、国会は「長い一日」
4月26日 会議場を封鎖し法案書類を奪い…韓国党の妨害で国会が修羅場に
4月29日 【社説】単なる既得権守護を「反独裁闘争」と主張する自由韓国党

<朝鮮日報>
4月25日 大荒れ韓国国会、カッとなった文喜相議長が女性議員の顔に…
4月26日 電子メールで発議、警護権が発動される「動物国会」
4月26日 【社説】ファクスで法案提出、議長が病床で決裁…大荒れの韓国国会
4月26日 【コラム】「議会主義者」文喜相らしくない行動
4月27日 動物国会:野党が扉を封鎖、与党はハンマーとバールで応戦
4月27日 動物国会:文喜相国会議長の体調悪化、手術受けるため転院

<中央日報>
4月24日 文喜相国会議長、野党議員らとのもみ合いで「低血糖ショック」
4月25日 韓国国会、徹夜座り込み→もみ合い→セクハラ批判→ショック入院→見舞い…
4月27日 ファストトラック表決できず、韓国国会が大混乱
4月28日 劉承ミン議員「楽な道には行かない」…離党説を否定
4月29日 【社説】国民は眼中にない彼らだけの戦い、恥ずかしくないのか=韓国

初めに今の韓国国会の政党と勢力(無所属も若干いる)及びこの騒動の登場人物を整理する。党名太字(略称)は本法案に賛成だが、未来党の一部に反対議員がいる。なお、右派や左派といっても主に反北か親北かの区別であり反日では概ね共通する。

党名 勢力 結党 沿革など 登場議員
共に民主党(民主党) 130 2014年3月 民主党と新政治連合が合同し結成。2017年5月より与党。 ホン・ヨンピョ院内代表、ムン・ヒサン議長(目下無所属)
自由韓国党(韓国党) 113 1997年11月 2107年2月にセヌリ党から改称。元はハンナラ党。 ナ・ギョンウォン院内代表、オ・シンファン、チェ・イベ、イム・イジャ
正しい未来党(未来党) 30 2018年2月 国民の党と正しい政党が統合した中道右派。 キム・グァニョン院内代表
民主平和党(平和党) 14 2018年2月 国民の党と正しい政党の統合に反対し結成。 チャン・ビョンワン院内代表
正義党 6 2012年10月 統合進歩党を離党し結成した左派党。 ユン・ソハ院内代表
民衆党 1 2017年10月 民衆連合党と新民衆政党が統合した左派党。
大韓愛国党 1 2017年8月 セヌリ党を除名されたグループ

 

発端となったファストトラック法案とは選挙法、高位公職者犯罪捜査処設置法及び検警捜査権調整法案(刑事訴訟法・検察庁法)だ。各用語の意味は凡そ次の通り。

〇ファストトラック(迅速処理)案件
指定法案を優先的に審議。朴槿恵政権当時にセヌリ党の提案で導入された国会先進化法に謳われる。

〇選挙法
現行の「小選挙区制」を「50%連動型比例制」にし比例代表議席を47議席から75議席に増やす改正。

〇高位公職者犯罪捜査処設置法及び刑事訴訟法・検察庁法
高位公職者の犯罪を捜査する処(省)を設置する法案とそれに合わせて刑事訴訟法と検察庁法を改正する法案。検察過去事委員会が本年1月に李明博政権の不正事件を捜査した時、検察が究明に消極的だったとの調査結果を発表し公捜処の設置を勧告。

では実況に入る。

・24日午前
未来党の司法改革特別委員会委員オ・シンファン議員が党の決定に従わず反対を声明し必要な5分の3を満せない事態に。同党キム・グァニョン院内代表はオ議員説得に失敗、同委員をチェ・イベ議員に交代を決定するも、24日午後から同党反対議員が議案課事務室を占拠しており、辞任・補充選任申請書提出できず。

・24日午前
議長室を出ようとしたムン議長(74)と韓国党議員がもみ合う中、不適切な身体接触があった。証言によると同党のイム・イジャ議員(55)がムン議長に辞・補任に対する立場の表明を要求すると、ムン議長がイム議員の腹部を両手で触り、イム議員が「セクハラだ」と抗議。

ムン議長は「こうすればよいのか」とイム議員の顔を両手で挟むように2回触わった。抗議するとムン議長がイム議員を両手で抱きしめた後、議長室を出て行った。イム議員はムン議長を強制醜行の疑いで検察に告訴。

(イム議員の頬を挟むムン議長。朝鮮日報より)

・24日時刻不詳
ムン議長が韓国党議員と言い争い中に低血糖ショック症状で汝矣島聖母病院に入院。

・25日09:35
辞任・補充選任申請書の直接提出を諦めた未来党のキム院内代表がファックスで申請書を提出。

・25日11:05
ムン議長が病院で同申請書を決裁。未来党の反対議員らは憲法裁判所に辞任・補充選任許可に対する効力停止仮処分申立てと権限争議審判を請求。

・25日13:10
未来党の反対議員は委員に補充選任されたチェ議員の会議参加を妨害し監禁。チェ議員は自ら112番に通報し警察と消防官が出動。妨害で事務所の外に出られない状況が続く中、チェ議員は窓の隙間から顔を出し記者会見(15:15チェ議員脱出)。

・25日18:00
民主党が法案受付を試みるも議案課事務室に集まった韓国党議員の妨害で失敗。ファクス提出を試みたが韓国党議員にファックスで入ってきた法律案の束を奪われて失敗。

・25日18:45
同委員会の共に民主党委員らが法案提出に向けて議案課を訪れるも、待機していた韓国党議員が押し出して議案課事務室と廊下はパニック状態に。

・25日19:00頃
ムン議長は混乱で議案課事務が行えないとの報告を受け、病院から警護権を発動。

・25日19:35
民主党議員が再び議案課に接近するも韓国党側が大挙動員して出入り口を全て封鎖。

・25日20:00頃
反対派の一部が事務室の中に入りバリケードを構築。ナ韓国党院内代表は人間の鎖を作った議員の後ろで「独裁打倒、憲法守護」と叫びつつ愛国歌を歌う。

・25日20:30頃
民主党議員ら3回目に試み、再び激しいもみ合い勃発。

・25日時刻不詳
民主党は委員会を阻止したナ院内代表ら韓国党18人を国会先進化法違反で検察に告発。ナ院内代表も「我々の議員も5人以上が負傷した。国会先進化法を云々するのは居直り」と反論。

・26日01:15
民主党が法案受理場所の議案課に行こうと試みる。

・26日02:30
民主党議員が見守る中、国会関係者が封鎖された議案課の扉をハンマーとバールでこじ開けを試みる。韓国党は「ハンマーは共に民主党が準備してきたもので、バールは共に民主党の要請で防護課が渡していた」と主張。

・26日10;00
ムン議長、ソウル大病院に転院。その後、賛成与野党4党の院内代表が見舞い慰労。

・26日21:29
入口が韓国党議員に封鎖されたため場所を変更し委員会開催。与野党4党が同委員会全体会議を開き、案件として正式上程。韓国党と未来党の一部議員が会議場の内外で阻止したため委員長が散会宣言。未来党と平和党の各委員も欠席し、5分の3以上の賛成要件も満たせず。

・29日夜
韓国与野党4党は法案のファストトラック指定を強行。

・30日午前
韓国党はソウル・光化門広場に「テント党舎」を張って場外闘争入り。

が、我が国会もこれを笑えるだろうか。「他山の石以って玉を攻むべし」

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。