不振の日産スペインを尻目に、急成長するVW傘下セアト

白石 和幸

4月12日、日産スペインは600人の従業員を雇用調整処理(ERE)に充てることを正式に発表した。EREには就労時間調整、就労期間調整、完全解雇の3種類の適用手段が規定されているが、今回の日産は完全解雇を計画しているということなのである。

セアト公式ツイッターより:編集部

但し、同社の経営者側では63歳になるまで給与の80%の支給を保障するということで任意退職者と早期退職者を募るとしている。

これに対して組合側では今後の解雇はもうないという保障と、これまで任意又は早期退職者に支給している給与の90%の支給を要求している。特に、敢えて任意で退職する者の意思を尊重する意味で今後の解雇はないということの保障を組合側では要求している。

彼らの要求が受け入れられない場合はバルセロナで開催される自動車ショーの期間中にも抗議行動に訴えることを経営者側に伝えたという。
(参照:elperiodico.comelperiodico.comelpais.com

600人が解雇になると、従業員2600-2700人体制の規模になり、年間生産台数は7万6000台ということで収まることになる。しかし、来年は6万台の生産台数に削減される予定になっているという。それによって今後も黒字を維持しながら将来の飛躍の為に当面は安定した経営を行いたいというのが経営者側のプランだという。スペイン日産を設立した当初は20万台体制を目標にしていたのに比べ大きく後退することになる。

今回のスペイン日産の厳しい現状を前に、皮肉にも同じカタルーニャに工場を構え、日産のライバルの一社とでも言えるフォルクスワーゲンの傘下にある自動車メーカー・セアト(SEAT)が著しい成長をしているのである。

セアトはフランコ独裁時代の1950年に国策として誕生した自動車メーカーで、その後イタリアのフィアットとが出資。フィアットとのジョイントベンチャーの終了後の1982年にフォルクスワーゲンと業務提携してその傘下に入った。主力はSUVタイプの小型車で、車種イビザ(IBIZA)は第5世代、33年続いている人気あるモデルである。現在、生産台数の80%は輸出である。

セアトは5年前まで赤字を計上していた。例えば2010年が3億1100万ユーロ(404億円)、2011年は2億2500万ユーロ(293億円)の赤字という結果になっているが、フォルクスワーゲンは2013年より黒字になるということを期待して投資を続けた。2015年からは5年計画で33億ユーロ(4300億円)を投資に充てたのであった。
(参照:elperiodico.comeleconomista.es

その成果は2018年の2億9420万ユーロ(382億円)の利益計上に見ることができる。それは2017年度と比較して4.6%の伸びだという。しかも、最近6年連続して売上が伸びている。2018年度の売上は99億9100万ユーロ(1兆3000億円)。この先3年間で6車種の電気自動車も新たに加える予定だという。(参照:elpais.com

セアトの生産ラインにAudi A1の生産も加えているが、今年の生産台数は54万8000台。昨年は47万4000台であった。(参照:elpais.com

現在フォルクスワーゲングループの小型車の電気自動車の開発はセアトが担っているという。また、圧縮天然ガス(CNG)を燃料にした自動車の開発生産もフォルクスワーゲンからの信頼も厚く積極的に進めているという。

セアトはイタリア出身のCEOルカ・デ・メオの経営によるもので、CNG自動車の開発ではスペインのテクノロジーが世界的に認められようになることを確信していると彼は述べている。

セアトの飛躍は親会社のフォルクスワーゲンからの積極的な投資と生産する車種が年々増えているということのお陰であった。従業員も近く350人増員する予定になっているという。正に、現在のスペイン日産とは対照的である。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家